八百二十七話 一手差
「ワゥッ!!!」
「見つけたか、クロ!!!」
ハヌマーンの探索を始めてから七日後、ようやくクロは探索中にハヌマーンとハヌマーンに近い匂いを持つ個体を察知。
「ワゥワゥ!!」
「もしかして、同業者も俺たち同じ方向に向かってるのか?」
「ワゥっ!」
「そいつは面倒だな……ありがとな、クロ」
アラッドは一人だけ加速し、クロが教えてくれた方向へダッシュで向かう。
そして多数の糸弾、スリングショットを展開し、ハヌマーンの姿が見えた瞬間に発射。
「「「「っ!!!???」」」」
それなりに距離が離れていたこともあり、当たりはしたものの軽症で終わった。
そしてワンテンポ遅れて、三本の風矢がハヌマーンの元へ向かって放たれた。
(危なかったな。ギリギリ……本当に一手差だったな)
速度を上げて走り出したアラッドの元に、スティームたちも到着。
そして数秒遅れ……アラッドたちと同じ冒険者パーティーが到着した。
(これは、偶々居たから奇襲を仕掛けてみたとかじゃなく、完全に狙ってたみたいだな)
仕方ないと思い、アラッドはリーダーとしての役割を果たす為に一歩前に出た。
「単刀直入に伝えさせてもらう。こいつらの相手は、俺たちがします。確かにそちらの弓術士が風矢を放ちましたが、それよりも先に俺が放った攻撃が当たっています。まさかとは思いますが……ハヌマーンと、ハヌマーンが率いるハヌーマたちに挑もうとする冒険者が、俺の攻撃が見えなかったとは言いませんよね」
少々嫌味ったらしい言い方ではあるが、少なくともパーティー内で風矢を放った弓使いは自身の風矢がハヌーマたちの元に届く前に、ハヌーマたちが何かしらの攻撃を受けていた様子が見えていた。
「……はぁ~~~~。お前がアラッドって冒険者か」
「えぇ、その通りです。ルーキーのくせに生意気と思われるかもしれませんが、俺たちもこのモンスターたちと戦ってみたいと思っていたので、どうかご理解いただけると助かります」
「…………解ぁった解ぁった。んじゃ、頑張れよ」
言いたい事を先に全て言われてしまい、それでいて低姿勢で……丁寧な言葉遣いで理解してくれると助かる、と言われてしまった。
元々アラッドが放った攻撃が先にハヌーマたちに届いていたことは、リーダーの男も解っていた。
(後で後悔しても知らねぇぞって言ってやりてぇところだが、こいつらならあの数のハヌーマを……ハヌマーンをぶっ倒すんだろうな)
リーダーの男は大きなため息を吐くも、特にアラッドたちを恨むことはなく、ギルドに戻っておそらくハヌマーンが倒されるだろうという内容を報告しようと決めた。
「さて、なんだか待たせてしまって悪かったな」
アラッドが同じ獲物を狙っていた同業者と話を済ませようとしている間、どういった意図なのかは解らないものの、ハヌマーンとハヌーマたちが攻めてくることはなかった。
(ハヌーマは見たことがある。ただ、あれがハヌマーンか…………ぶふっ)
敵の大将であるハヌマーンを改めて見て、思わず笑いそうになったアラッド。
何故なら…………見た目が、猿の妖怪である孫悟空と言われれば、信じてしまうほど似ていた。
「どうしたの、アラッド」
「いや、なんでもない。待たせてしまった訳だし、直ぐに戦ろうか」
アラッドだけではなく、スティームとガルーレの瞳にも戦意が宿る。
「「「「「「「「「「ウキャキャッ!!!!」」」」」」」」」」
目の前の人間たちから放たれる戦意を感じ取り、ハヌーマたちも戦意全開で吼える。
「ウキャオゥっ!!!!!!」
そして大将であるハヌマーンも高らかに吼え、得物である……槍を振り回す。
「よろしく」
「ウキャッキャッキャ!!!」
モンスターである自分に挨拶してきたのが面白かったのか、楽しそうに笑うハヌマーン。
(なんて言うか……人間らしさを感じるモンスターだね)
人型のモンスターはハヌマーン以外にも多く存在するが、それでもこれまで敵対してきたモンスターはモンスターらしく思いっきり殺意や敵意をぶつけてくるか、はたまた上から見下ろして嗤う。
だが、ハヌマーンから伝わる感情は……愉快な闘争心であった。
(あの時、必死になって見切って正解だったね)
双剣を抜いたスティームの顔には、間違いなく笑みが浮かんでいた。
「ウキャっ!!!!」
(あぁ~~~……楽しそうな笑みを浮かべてるな)
少し離れた場所で、多数のハヌーマと既に戦闘を始めていたアラッド。
先日、ハヌーマと初めて戦い、Cランクモンスターではあるが、戦って楽しいという感覚を得た。
それもあって、今回ハヌマーンと戦うのはスティームではあるが、自分もそれなりに楽しめると思っていた。
当然の事ながら、完全に油断しきっていれば痛い目に合う。
指揮者がおらずとも、的確な連携で敵を追い詰める。
他の人型モンスターよりも、技術力が根っこから違い、冒険者と同レベル……経験値の差によっては、それ以上の連携を魅せる。
それが解らないアラッドではなく、しっかりと周囲から襲い掛かるハヌーマたちの位置を把握して戦っているが……どうしても戦闘を始めたハヌマーンとスティームに意識が向いてしまっていた。




