八百二十六話 仮に被ったら
「はぁ~~~~、今日も遭遇出来なかったわね」
「それなりに移動してるんだけどね」
基本的に昼食を食べる時しか休憩しないアラッドたちだが、結局探索二日目も風竜、ハヌマーン共に遭遇出来なかった。
「知能が高い個体なら、俺たち……というより、クロとファルにビビッて襲って来ないって可能性もあるな」
探索中、クロとファルにはなるべく強者オーラを零さない様にと頼んでいる二人の主人。
Aランクモンスターであるクロは言わずもがな、ストームファルコンのファルも多くのモンスターより格上の存在。
同じBランクモンスターと戦っても、これまで多くのモンスターと戦ってきた経験値の差で戦況を覆すことが可能。
「ちょっと賢いDランクとかCランクのモンスターがビビるなら解るけど、Bランクモンスターがビビったりする?」
「……個体による、としか言えないな。風竜はともかく、今俺たちが狙ってるもう一体はハヌマーン。ハヌーマの
上位種で、群れをつくるタイプだ。群れの長は強さや……カリスマ性? も大事だとは思うが、危機察知能力の高さが重要だ」
「群れを、同族を危機に晒さない為だね」
「そうだ。ハヌマーンがどれだけ同族に対して情を持って動いてるのかは知らないけどな」
「よくよく考えてみれば、確かにそれも群れのリーダーの仕事かぁ……けど、あのエルフの細剣士には襲い掛かったんだよね」
三人の脳裏に思い浮かぶは、ハヌマーンという存在を知る切っ掛けとなったパーティーのリーダーである、エルフの細剣士。
スティームは一目で実力者だと判断し、アラッドとガルーレは手合せ出来るなら手合せしてみたいと思うほどの強者。
加えて、エルフの細剣士がリーダーを務めるパーティーは計五人。
アラッドたちも三人と二体ではあるが、数は同じである。
「あのエルフの細剣士のパーティーを敗走に追い込んだ。それは解ってるけど、どういった状況でハヌマーンたちから襲撃を受けたかまでは解らないでしょ」
「他のモンスターとの戦闘を終えたタイミングを狙われたのかもしれない、可能性もあるってことか~~~……まっ、それも戦略の一つではあるよね~~」
かもしれないという可能性の話ではあるが、ガルーレは漁夫の利を狙う様な戦略を否定するつもりはなかった。
ガルーレは戦闘の、実戦の中で戦いの喜びを感じたいタイプではあるが、冒険者としては安全に……低リスクで標的を討伐して金を稼げた方が良いのは解っている。
「……あのエルフの細剣士に、どういう状況だったか詳しく聞いてみる?」
「それは止めといた方が良いよ。あれほど自分の不甲斐なさに怒りを感じてたんだ。こっちは情報収集のつもりでも、向こうからすれば喧嘩を売られてると捉えられるかもしれない」
「面倒ね~~~~……っ…………そうね。止めときましょうか」
あのエルフの細剣士と喧嘩が出来るなら、それはそれでラッキーじゃない? と思ったガルーレだったが、スティームの顔から苦笑いが消え……スンっとした表情で制止される流れが容易に頭の中に浮かんだ。
「情報がなくとも、探してればその内遭遇できるはずだ。ハヌマーンはあれだが、ハヌーマの匂いに関してはクロが覚えてる。クロの嗅覚が届く範囲であれば、直ぐに気付くはずだ」
「助かるわ~~。私も多少は感じ取られるけど、細かくは解らないからね」
「…………ねぇ、アラッド。仮にさ、被ったらどうするの」
他の同業者たちと運悪く被ってしまったらどうするのか。
パーティーの冷静さ担当であるスティームはそこが少し心配だった。
「そうだな…………基本的には、先に攻撃を仕掛けた、もしくは当てたパーティーの獲物になる。ハヌマーンの探索はクロに任せて、俺たちは周囲に同業者がいないかを確認しないとな」
「存在を感知した次第、遠距離攻撃を放つと」
「そうだ。まっ、それは俺がやるよ」
アラッドは攻撃魔法による遠距離攻撃がそれなりに出来るだけではなく、糸を使った遠距離攻撃も可能。
(もしかしたら、あのエルフの細剣士がリーダーのパーティーと被ってしまうかもしれないが、悪いが譲るつもりはない)
ハヌマーンに襲撃され、敗走してギルドに戻って来たエルフの細剣士たち。
その際、悔しさと怒りが爆発しかけていたが、知人である同業者からの言葉で、冷静さを取り戻した。
だが、アラッドはなんとなく解っていた。
あの悔しさが、怒りが……そう簡単に消える訳がないと。
敗走という選択肢を選んでしまった、仲間達が必要以上に負傷してしまった。
リーダーだけにそれらの責任があるとは言えない。
誰かだけの責任にしない為に、パーティーメンバーたちがお互いをカバーし合う。
ただ…………それでも責任を感じるのが、パーティーメンバーの命を預かる立場にいるリーダーである。
ガキ大将、暴君の様なリーダーであればひとまず自分が無事であることを喜ぶかもしれないが、エルフの細剣士は違う。
多少のプライドの高さはあれど、パーティーメンバーが大きな怪我を終えた、冷静さを保ちながらも無茶をして確実に標的を仕留めにいく。
「……恨みっこなしの世界だからな」
今回ハヌマーンと戦うのはスティームではあるが、それでも他のパーティーに譲るつもりはなかった。




