千三百十三話 見た者と、対峙した者の差
「さて、無駄に血を流す前に一つ提案しよう。アラッドよ、ゴリディア帝国に来ないか」
敵を前にして堂々たる引き抜き、スカウト、勧誘……普通に考えて、悪手も悪手であり、行うにしてもタイミングがあり得なさすぎる。
(……おそらく、これがオーソドックスなんだろうな)
(やはりこういった方でしたか)
スティームやガルーレ、護衛の騎士や魔術師たちが呆れ感情を堪えている中、アラッドとフローレンスは美形王子の提案内容に対し、驚き呆れ固まることはなかった。
アラッドは、なんとなくではあるものの、これまで自分が出会ってきた王族の方々は、良き性格をした方々なのだろうと思っており、全員が人格者ではないと予想していた。
フローレンスに関しては交流で他国に赴き、王族と対面したこともあり、そういった王族がいることを自薦に知っていた。
「俺はアルバース王国の人間です」
「私ならば、君が望む物を全て用意しよう」
(…………あまりにも、らしい勧誘セリフだな)
実際のところ美形王子は、何かしらの偶然が……天地がひっくり返るほどの奇跡が起きてアラッドがゴリディア帝国に寝返れば、本気でアラッドが望む物を全て用意しようと、かき集めようと考えていた。
「俺が望むものは冒険です。冒険とは、誰かから用意されるものではなく、自身の脚で歩み、体験するものです」
「…………では、決裂ということだな」
「そう捉えてもらって構いません」
お断りを告げると同時に、アラッドは相棒である渦雷を抜剣。
騎士や魔術師たちも素早く得物を構え、最後の舞台が幕を上げた。
「疾ッッッ!!!!!」
「ふんっ!!!!!!!」
「ヴォルカニックランス!!!!!」
当然、敵の攻撃の多くはアラッドという超用意注意人物に集中する。
総大将である王族を守る者たちらしく、その実力はこれまでアラッドたちが相対してきた強敵たちに負けず劣らず……武器の質を加味すれば、完全に上回っている。
「…………」
「怖気づいたかっ!!!!」
そんな強者たちを前に、アラッドは直ぐに斬り結ぶことなく躱し、下がり、また躱す。
最低限の斬撃波だけを放ち、二十秒ほど逃げることだけに徹した。
その対応は、超要注意人物が怯えている……少なくとも、これまでのように暴れられる存在ではないことを意味している。
騎士や魔術師たちがそう思ってしまうのも、無理はなかった。
(とりあえず、いけるか)
騎士や魔術師たちが普段使用している得物、装備以外にも追加でマジックアイテムを装備しているのと同じく、アラッドも普段は身に着けないマジックアイテムの指輪やイヤリングなどを装備していた。
加えて……アラッドの切り札の内の一つ、渦雷は動き続ける度に使用者を加速し続ける。
「ふっ!!!」
「ぐっ!?」
「狼狽えるな!! 少し速さが増した、だけだ!!!」
雷を迸らせる渦雷が騎士たちの体を切り裂くも、一撃で仕留めることは叶わない。
(当然、か)
これまで対峙してきた者たちよりも堅く、速く……そして充実している。
徐々に、徐々に速さを増すアラッドの動きに付いていくる騎士もおり、加速を続けるアラッドでも直ぐに数を減らすことは出来ない。
「狂化を、使わないとは、我々を、嘗めているのかッッッッ!!!!!」
「嘗めては、いませんよ……ただ、俺を、臆病な……だけですよ」
嘘ではない。
決して、敵だからといって煽っている訳ではない。
強く堅い……素の身体能力と技術がハイレベルなものだと、改めて思い知らされる。
だが、それでも目の前の騎士や魔術師たちだけが、ゴリディア帝国が有する全てだとは思えない。
だからこそアラッドは駆ける。
駆けて、駆けて駆け続け、スティームにも負けない雷速へと至る。
(あり得ない、この、速さは!!!! ぐっ!!!???)
騎士たちはただ王宮の中で剣技や槍技などだけを磨いていた訳ではない。
磨いた技術を実戦で使用し、己の体の染み込ませ、手足のように扱えるようにした猛者たちである。
当然、相手の動きを予想して攻撃を置くことができる。
それは騎士たちだけではなく魔術師たちも同じであった。
しかし……届かない、触れられない。
これまで何度も感じてきた得物で標的を斬る、叩き潰す感触が、全く感じられない。
「がっ!!!???」
「なっ、なんて、速っ!?」
逆に、同じぐらい感じてきた切られるという感覚に襲われる。
(いける……このまま、騎士は、纏めて……斬り殺すッッッ!!!!!!)
殺意を全開にし、その殺意を渦雷に乗せる。
「「「っっっ!!!!! っ!!!???」」」
解りやすく、この武器でお前たちを殺すというメッセージ。
その殺意が……騎士たちの集中力を狭めた。
多くの人々にとって、アラッドの代表的なスキルは、狂化であった。
狂人、戦鬼、バーサーカー。
本気で戦う姿を見た者たちは、彼をそのように例える。
だが……本当の意味で本気となった彼と対峙した者は、別の印象を受ける。
(さて、とりあえず俺の方は後、あの魔術師たちだけだな)
魔力を纏う糸によって騎士たちの一部を操り、体勢が崩れたところに雷渦の一閃が叩き込まれた。




