千三百十四話 証明する
(潰せるうちに、潰すッッ!!!!!!)
全員を殺してしまう、戦争が終わった後に大きな爆弾を抱える可能性がある。
戦争の当事者たちからすれば理不尽な話ではあるが、何も知らない……知ったことではない平民の冒険者などであればまだしも、アラッドは冒険者ではあるが、侯爵家の令息。
その辺りの事情を考慮しなければならない。
だが……戦意を喪失してない厄介な後衛職がいるのであれば、最低でも行動不能にするか、身に着けている物を全て剥ぎ取り、戦う力や道具を奪う必要がある。
「っ、ぐッッッッ!!!!!!!!!」
しかし次の瞬間、強烈な打撃がアラッドを襲った。
なんとかガードは間に合い、腕の骨も折れてはいない。
それでもアラッドがカウンターを取れない速度で接近し、全身に響き渡るほどの衝撃を受けた。
「俺の正拳に余裕で耐えるか」
(狂化を発動していなかったら、不味かった。今のは……縮地からの、正拳突きか?)
襲撃者の技を見破り、意識を厄介な後衛職たちから、強者の中でも上澄みに位置する人物へと意識を切り替える。
「隙を突けばと思っていたが、そう上手くはいかないものだな」
(竜人族…………雰囲気的に、冒険者か)
狂化を発動した状態でありながら、アラッドは襲撃者の姿から冷静に分析を始めた。
「……なるほど。情報通り普通ではないな」
「…………あなた自身は、普通ではないと」
視れなくとも、解る。
目の前の竜人は、本物の強者である。
隙を突くような奇襲でなくとも、先程の正拳突きはアラッドにとって来るのが解っていれば、避け一択の攻撃であった。
「狂化を発動しながらも、それほどの冷静さを保っているほどではないよ、アラッド君」
(当然、俺の名前を知っているか。というか、この人……見た目だけでそうなのかと思い込んでたけど、騎士……なのか?)
竜人族の中にも賢人と呼ばれる部類の者や、クールな性格の持ち主もいるが……基本的にはやんちゃ、もしくは荒々しい性格をした者が多い。
だが、アラッドの前に立ちはだかる竜人族からはどこか理性的な雰囲気を感じさせる。
「……あなたは、騎士、か?」
「私の名はイゼリオ・ガノーバ。君の言う通り、この見た目だが騎士だ」
(竜人族の騎士……家名があるということは貴族か…………家を興したのであれば、いてもおかしくはないか)
会話、分析を行っている間、アラッドは攻める隙を伺い続けていた。
腕、脚、頭……僅かに動かすも、そのどれにもイゼリオも反応を示していた。
「戦争という場で出会ってしまった以上、私には君を倒す義務がある」
(倒すか………そうだろうな)
殺す、じゃねぇのかよ!!!! と、いくら他の者たちと比べて狂気にあっさり支配されない、振り回されないアラッドであっても、大なり小なり怒りが沸き上がるというもの。
しかし……本来であれば沸き上がるはずの怒りは、微塵も湧いてこなかった。
何故なら、先ほどの正拳突きによって、イゼリオが父親であるフールと同レベルの実力者であると感じ取っていたから。
(父さん並の実力者……であれば、尚更の話だな)
アラッドには、ドラングほど絶対に父親を越えてやるんだ!!!! という程の越えてやりたい精神はない。
ただ、それでも毎度無茶な冒険をしているからこそ、フールを心の底から安心させられるほどの強さを手に入れられればと思っていた。
そう考えると……イゼリオ・ガノーバの強さは、その証明相手として最適な相手と言えた。
「そうですか。俺も、あなたをこの場で……殺す必要があります」
戦闘不能では、意味がない。
その状態に追い込んで倒そうとするのは、油断以外のなにものでもない。
戦闘不能に追い込めたとしても、その状態から逆襲を受けてもおかしくない。
完全に、殺す。
殺す必要がある。
そう判断したアラッドはステップを踏み始め、いつでも斬りかかれる準備へと移行。
「ふっ!!!」
だが、そうはさせないイゼリオ。
既に身体強化、疾風のスキルを発動しており、全身に魔力を状態でアラッドに殴りかかった。
余裕に見える態度を取っていたイゼリオだが、彼はアラッドがまだ青年だからといって油断できる相手ではないことは十分に理解していた。
殺したくないからと手を抜けば、逆に自分が殺される。
当然……それは彼としても望まない結果。
そのため、まずは主導権を握らせまいと先に仕掛けた。
「ぬっ!!!!!!」
アラッドとしても呼吸を合わせてカウンターを行うのが難しいタイミングだった。
単純に斬撃刃を放つか、攻撃魔法で対応したとしても無意味だと考え、足裏から風の爆弾を地面に送り込み、イゼリオの真下で爆散させた。
攻撃することが目的ではなく、接近を阻止するのが目的。
イゼリオもくると解っていれば真正面から放たれた攻撃に対し、覚悟を持って突き破り、無理やり接近できる。
しかし、脚下から押し上げようとする風に対して踏ん張るには、事前に絶対にくると解っていなければ耐えられない。
解っていたとしても耐えるには限度があり、今回の爆風は解っていても耐えられないものだった。
(今だ)
アラッドは宙に浮かばせたイゼリオに向けて雷斬波を放つ……ことはなく、マジックポーションを飲んで魔力の回復に専念。
(本当に、狂化を発動しているとは、思えない判断力だ)
宙に浮かばせることに成功したものの、溜めもないただの雷斬波ならば問題なく対処できるイゼリオ。
その結果を予想して魔力を回復するという判断を取ったアラッドの行動に対し、笑みを浮かべながら拳打を飛ばして回復する隙を与えないように動く。
だが、それぐらいは出来るだろうと解っていたアラッドは迫る衝撃を回避し、加速を開始。
(……他の戦場に、絶対にいかせたらダメだ)
少ないやり取りで、改めてイゼリオの強さを感じ取り、アラッドは目の前の強者は絶対に自分がここで殺すと覚悟を決めた。




