千二百二十六話 だとしても
商人たちを送り届ける街へ到着した後、予定通りディーナはオルフェンとクラートとの二人と共にスパリガへと向かう。
「そういえば、今回の戦争にはアラッドさんたちも参加するんですよね」
「そうだけど……それがどうかしたの?」
「油断は大敵であるのは解ってるんですけど、アラッドさんたちの様な圧倒的な実力を持ってる人がいると思うと……死者は出ても、負けることはあるのかなと思って」
油断は大敵だと理解しているからこそ、多分勝ちますよね、とは言わなかったクラート。
「……………………そう、だな。危機に陥るとしたら、どういった強敵が現れるのか……不謹慎ではあるが、気になるところではある」
アラッドたちの実力は知っている。
それに加えて、ディーナはアラッドの実家が有する戦力の多さ、質までも知っている。
(結局、フローレンスとも本当の意味で本気で戦うことはなかった……まぁ、仕方ないことではあるが)
フローレンスの本気は、相棒である光の人型精霊、ウィリスと精霊同化した状態。
対して、ディーナの本気は……切り札であるスキル、修羅金剛を使用し、虎竜の素材から造られた薙刀、覇爪を使用した状態。
激突すれば並みの訓練場であれば崩壊してもおかしくなく、決着がどちらかの死になってもおかしくない。
「……もしかしたら、ゴリディア帝国にはゴリディア帝国で、アラッドと同じ様な存在が居るのかもしれない」
「あ、アラッドさんと同じ様な存在…………となると、同じ貴族なのかな?」
あり得ないと思う部分はあれど、クラートはその思いを口にすることはなかった。
「幼い頃から英才教育というもの受け、本人自身が強くなりたいという強烈な思いがあれば……アラッドと同等となりえる存在がいてもおかしくはない、か」
アラッドの様な存在がいったい何時から居るのか。
その時期次第では、アラッドを上回る実力者になっていてもおかしくない。
因みに、貴族ではないヒモ野郎は、アラッドの強さの前に散ることになるが……潜在能力で言えば、ハーレムの質と数次第ではアラッドを越える可能性は十分に秘めていた。
「私は先日話した事情から、あまり多くの世界は見てきていない。だから、アラッドの様な人物が他国にいる可能性は十分考えられると思えるな」
「お、俺もあまり世界に目を向けてないので……そうですね。恐ろしい事ではありますけど、居てもおかしくないと思えてしまいますね」
「………………………………」
「? オルフェンは、普通ではなくともアラッドさん程の実力を持つ若い人はいないと思う感じか?」
「いいや、違う。そこは俺も否定しない。世界は広いという事実を考えれば、アラッドの様な同世代がいてもおかしくないとは思う。ただ……アラッドたちほど、戦力が揃ったパーティーがいるのかと思ってな」
アラッドはアラッド単体で普通ではない戦闘力を有している。
だが、そこに相棒であるクロが加わると、更に爆発的に増加する。
アラッドも頭おかしい部類ではあるが、クロの方が色々とおかしい戦力を有している。
パーティーメンバーであるスティーム、ガルーレは共に若手冒険者の中では群を抜いた強さを持ち、そこら辺のベテランよりも戦闘力に関しては上を行っている。
そんな二人は、共にBランクモンスターの従魔を持っている。
「アラッドだけじゃなく、スティームも従魔を……Bランクのモンスターを従えている。それと、ガルーレって言うアマゾネスだったっけ? その人も、Bランクのモンスターを従魔にしてるんだろ」
「「…………」」
「少なくとも、一般的な冒険者のパーティー規模じゃ、どうにもならない。それをゴリディア帝国が解ってないとは思うけど……多分、クロってAランクだった気がするから、騎士団や中堅以上のクラン規模の戦力を投入したとしても、クロ一体を相手に出来るかどうか」
クロに関しては、この中にいる全員が手合わせを行ったことがない。
何故なら……力を知りたいのが目的であれば、そうする必要がないから。
クラートもオルフェンも……ディーナでさえも、クロと本気で対峙して……勝てるイメージが欠片も浮かばない。
「それも承知してるなら、もっと戦力を投入するかもしれないけど…………その戦力まで潰されたら、国としての? 力、っていうのが落ちるんじゃないのかな」
「そう、だな………………」
三人とも貴族の関係者ですらないため、詳しいことなど解らない。
なんなら、本当にゴリディア帝国がどういった意図でアルバース王国に戦争を吹っ掛けてきたのか、そこすら想像出来ない。
しかし、有望な実力者たちが多数無くなれば、モンスターや盗賊たちによって起こる被害に対処出来なくなる……それぐらいは解る。
「……でも、なんとなくだけど、スパリガにアラッドたちはいないと思う」
「複数の戦場があるからね」
「それだけじゃなくて……なんとなく、勘なんだけど、スパリガにはいないと思う」
勘という根拠のない言葉を、二人は何故か全く疑う気になれなかった。
「だからこそ、アルバース王国の方が戦力で勝っていたとしても、俺が命を懸けなくて良い理由には、ならないと思う」
クラートの覚悟が籠った言葉に、二人はゆっくりと頷く。
そして二日後、三人は目的の地であるスパリガに辿り着いた。




