千二百二十話 それでも、生きている
「済まなかった」
「えっ!?」
「…………」
一部の騎士たちにはおおよその正体がバレてしまったものの、普段通りに夜を過ごしていた三人。
すると、夕食を食べ終えた頃に、いきなり木竜が二人に頭を下げた。
「ど、ドラスさん、きゅ、急になんで」
「シルフィー、君を守れなかった」
木竜が発動した木の壁は、一応間に合いはした。
ただ、二人を狙っていた騎士が放った攻撃の貫通力が予想以上に高く貫かれ、シルフィーの体まで貫かれてしまった。
幸いにも即死には至らなかったが、貫かれた場所が場所であるため、木竜は深く後悔を感じていた。
「い、いや……その、私が……弱かったのも、あるので」
「それでも、儂は君たちを絶対に守ると決めていた。にもかかわらず、あのような危機に晒してしまった」
ゴリディア帝国の戦闘者たちを潰す……そんな当初の目的を覆してでも、達成しようと決めた目標であった。
「アッシュも……済まない。儂が至らないばかりにあのような思いをさせて」
シルフィーが殺された、瀕死に追い込まれた。
その状態を目にしたことが切っ掛けで、アッシュはディスペール・アウェイクニングという特殊な強化スキルを得た。
だが、アラッドやシルフィーの様に戦いを好むタイプではなく……尚且つ、本当の意味で狂人ではないアッシュにとって、ディスペール・アウェイクニングはシルフィーが殺されかけたことを帳消しになるほど得て嬉しいものではない。
「………………ドラスさん、僕は……怒ってませんよ」
「っ、しかし」
「ドラスさんを倒そうと近づいてきた人たちは、多分Aランクの冒険者と、それと同等の実力を持つ騎士でしたよね」
アッシュが感じ取っていた通り、木竜を狙った強者……ジャルディはAランクの冒険者であり、騎士であるガウスは正面からの戦闘であればジャルディの実力を上回る戦闘力を有していた。
まず、ドラス以外の者たちであれば無事に乗り越えることは難しい。
加えて……二人が有していた武器には竜殺しの効果が付与されていた。
木竜はジャルディに羽交い締めされてピンチに陥った際、なんとか機転を利かせて脱したが……竜殺しの効果が付与された槍から放たれた天閃牙が背中を通過した時……体には触れなかったが、それでも本気で震えるほどの恐怖を感じた。
「そうじゃな。だが、それは当然の流れ……宿命というものじゃろう。それでも、儂は二人を守り切るつもりだった。じゃが……結果、シルフィーにあのような傷を負わせてしまった」
「…………ブルルゥ」
木竜の話を聞いていた親ユニコーンは耐え切れず、話に加わった。
「むっ、しかしだな」
「ブルルゥ………………」
「それはそうじゃが」
ガウス、ジャルディと戦う際、木竜はユニコーン親子とラディアたちに目線で、二人のことを頼んだと伝えていた。
彼らもそれをしっかりと受け取り、目を光らせていた。
だが、それでも隠遁行動に優れた者の動きを見破れなかった。
シルフィーが無視出来ないダメージを負ってしまうのは、決して木竜だけでの責任だけではない。
「ルルゥン」
「だ、大丈夫よ。全然痛くないし……ほら!!!」
ごめんねと口にしながら、柔らかく美しい毛並みを当てる子ユニコーンに対し、元気の証だと言わんばかりに、力こぶを見せるシルフィー。
それでも、親ユニコーンだけではなく子ユニコーンも木竜からのメッセージは伝わっており、シルフィーへの奇襲を防げなかったことに後悔を感じていた。
「……ドラスさん。ユニコーンたちも……僕たちは、あぁなることも承知で戦場に来ました。だから、これ以上自分たちを責めるのは、止めてください」
「アッシュ……」
「シルフィーが口にした通り、僕たちが弱かったんです…………戦場で、死ぬかもしれない理由としては、十分過ぎるでしょう」
本当は……解らない。
本当にシルフィーが死んでしまっていたら、木竜やユニコーンたちを攻めずにいられたか、解らない。
もしかしたら、ショックで気を失ったかもしれない。
どうなっていたか……本当に、解らない。
ただ、ディスペール・アウェイクニングというスキルを得て、無意識に発動することで体感した絶望に関しては、特に気にしていなかったアッシュ。
そして、結果的にではあるが、シルフィーは今もこうして、しっかりと生きている。
結果だけで物事を語るのはよろしくない。
それはアッシュも解らなくはないが……それでも、こうして大切な家族は生きている。
だから、これ以上彼らには頭を下げてほしくなかった。
「そもそもな話、シルフィーの無茶に付き合ってもらってるんです」
「うぐっ!」
「ドラスさんたちには本当に助けられています。あなた達がいなければ……三日目どころか、初日で死んでいた可能性もありますし。
木竜が見つけることなく、ユニコーン親子も二人のことを見つけることがなければ、それはそれで戦い方を変えていた。
真正面から戦うのではなく、ゲリラ戦を主軸として戦おうとしていた。
決してシルフィーの好みな戦い方ではないが、それでもそうしなければ生き残ることは出来ないだろうと、彼女も理解を示していた。
そんな中、木竜たちと出会うことで、おおよそ目指していた戦いが出来た。
彼女にとって感謝こそすれ、恨む筋合いなど一筋もなかった。




