千二百九話 見えない道
(体が、熱い)
一人……一人、また一人と倒すにつれて、シルフィーたちの体に経験値が流れ込む。
そして、今しがたレベルが上がったのを感じたシルフィー。
レベルアップを果たした際、人間は大なり小なり熱さを感じる。
学生とは言えど、そこら辺の冒険者に負けないレベルにまで至っていた二人は、そう簡単にレベルが上がらない。
ただ……対峙する人間の強さが、レベルが上がれば、当然体に流れ込んでいる経験値の量も大きくなる。
二人はアラッドと違い、特異な体質という訳ではない。
それでも身体能力が増せば、感覚がズレる。
増した身体能力の強さに意識が引き寄せられ、攻め方が身体能力頼りになる傾向がある。
それは、よろしくない。
フールだけではなく基本的に戦闘には関わらない母、エリアからも伝えられており、アリサや騎士たち……アラッドからも忠告されていた。
そして、その忠告を忘れたことはなかったものの、それでも過去に痛い目に合ったことがあるシルフィー。
だからこそ、高まる身体能力に引っ張られないよう、雑にならないように御する。
「っ、くっ……ッッッ!!!!!」
「フンッ!!! 破ッ!!!!!!!」
レベルが上がった……だからといって、迫る敵の強さが増していることもあり、やはり一人で倒すには至らない。
だが、上手く耐えて耐えて、今すぐ反撃したいという気持ちを抑えれば、アッシュが体勢を崩してくれる。
「ハァァアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」
ただ隙を突く一撃を叩き込めれば倒せるとは思っていない。
絶対に、潰す。
絶対に、殺す。
絶対に、ぶった斬る。
その気迫を前面に押し出し、フルパワーで……丸盾ごと冒険者の男を一刀両断。
鮮血がまき散るも、降りかかる血を気にしてる余裕はない。
もう十人以上……二十人以上、この日だけで殺していた。
それでも、迫りくる者たちが減ることはない。
(なんで、アッシュは……普段通り、なんだろう)
戦争中に他の事を考える余裕はあるのか。
今のシルフィーにそんな余裕はない……ない、が……それでも、アッシュのあまりにも普段通りの……いや、普段以上に冷静で的確な動きに疑問を持ってしまった。
「ぶっ殺してやるぜッッッ!!!!!!!!!!」
「ッ、メルテッッッッ!!!!!!!!」
難が去ることはなく、また新しい難敵が現れる。
その難敵を視認したアッシュは……珍しく、声を張り上げた。
何故、いきなり大きな声を出したのか。
シルフィーは直ぐに察し、同時にアッシュが何を伝えたいのかも把握。
「ッ、おら!!! ぅおらおらおらおらおらッ!!!!!!!」
新たな難敵の戦斧使いは……二人の兄、アラッドと同じく狂化の使い手。
狂化を使用すれば狂気の増幅、爆発によって判断力や思考力が下がる代わりに、身体能力が爆発的に上昇。
対抗する為には、アッシュがスキルの使用ではなく、意図的に本来人間が生き続ける為にブレーキを掛けているリミッターを外し、限界を越えた動き……身体能力で対処するしかない。
「ふぅーーーーーー…………」
正念場の一つになる。
それは理解している。
だからこそ……アッシュは戦斧使いの殺気、狂気に引っ張られて声を張り空けず、叫ばず、吼えず……ただ、爆発的に高まった身体能力の手綱を握り、対処を行う。
捌き、躱し、仕掛け、また躱す。
「汚い面だ」
そして、決して慣れてはいない言葉で挑発する。
「下手くそな、言葉だなぁあああああああ!!!!!」
既に狂気を増幅させている戦斧使いにとって、挑発に乗る乗らないは関係無い。
ただ……目の前の標的をぶっ潰すだけ。
「がっ!!!!!!??????」
しかし、元々戦意や狂気が爆発してようが、アッシュとしては一瞬でも目の前の戦斧使いが自分を殺すことだけに集中してくれれば、それで構わない。
二人ほどではないが、シルフィーは決して鈍間ではない。
狙っていた隙を逃さず背後に回り、戦斧使いの男に炎斬を叩き込む。
「な、ろッ!!!!!!!!」
だが、狂化を使用して耐久力まで上がっていた戦斧使いは背中をバッサリと斬られるも、切断された訳ではなかった。
斬られた……目の前の熱い。
とんでもなく熱く、全身に焦げるような、それでいて鋭い痛みが走る。
しかし、狂化によって増幅されている狂気がそれを打ち消す、後方へ戦斧を振り回そうとした。
「かはっ、ぁ…………」
今度は後方に意識が向いた。
であれば、自分が止めを刺せば良い。
至極単純な思考から、アッシュの旋風を纏った刺突が戦斧使いの喉を貫いた。
狂化は確かに使用者の痛覚を麻痺させる副次効果もあるが、致命傷となる攻撃を食らえば、そもそも身体能力の大幅向上が目的である効果が無くなる。赤黒いオーラがパッと霧のように霧散する。
(ふぅーーーー……なんとか、セーフだったね)
リミッターを外せば、反動が返ってくるもの。
ただ、今回の戦争で何度かリミッターを外さなければならないタイミングがあった。
その度にアッシュの体は限界を越えることに慣れていく。
劇的にリミッターを外すという切り札が使いやすくなることはない。
実際のところ、反動によって体の節々に痛みを感じる。
それでも外す時間を抑えたことで、動けないほどの反動が返ってくることはなかった。
(やっぱり、まだ、下れない。抑えて、正解だったみたいだ、ね)
一難去ってまた一難。
本当の意味で終わらない限り、殲滅が為されない限り……二人に迫る敵は、途切れることはない。
慣れるものではない。
確実に純粋な強さ、ステータスは増している……それでも、疲れは溜まる。
楽になることはなく、終わりの見えない道を歩いていると感じる。
しかし、その道を歩くと、付いて共に歩こうと決めたのは、二人である。




