千二百八話 高まり、生まれ、混ざり合う
SIDE アッシュ、シルフィー
(普段の、戦いより、初日。初日、より、二日目。二日目より、三日、目……本当に、なんとも……恐ろしいところに、来てしまった)
戦場は日数が経つごとに激化している、様に感じるアッシュ。
だが、そう関しているのはアッシュだけではなく、冒険者や騎士、魔術師たちも似た様なことを感じ取っていた。
戦いは激化し、怒りは爆発し、殺意は更に鋭くなる。
冒険者などの大半は、名声を得たいがために戦争に参加している。
勿論、ランクによって得られている特典と引き換えに、こういった有事の際は戦争に参加しなければならないという命もある……が、大半の冒険者は戦争に参加することに対して乗り気であった。
そういったものであると、殺した命の事など、一々考えたられない。
それが彼らの考えであり、それは……正しいとも、間違っているとも言えない。
ただ、自分たちが殺すのも……自分を、己の仲間を殺すのも、同じ人間である。
その結果、どうなるか…………彼らは知らなかった。
「ぅおらああああッ!!!!!」
「死ね!!! 糞ったれがッッッ!!!!!」
「てめぇが、死ねやッ!!!!!!!」
「破ァァアアアア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!!!」
その場で殺せれば、まだ済むかもしれない。
だが、人によってはその場で仲間を殺せたとしても、今度はそのゴリディア帝国の人間だけではなく、参加している戦闘者全体にまで広がる。
そして、それはゴリディア帝国側の戦闘者たちも同じ。
日が経つごとに因縁が増え、怒気や敵意、殺意が膨れ上がり……どこかで弾ける。
殺伐とした空気に耐えられない……という者は、誰一人としていなかった。
男であっても女であっても、こうまで因縁が巡り、悔しさが増せば、空気が苦しいからといった理由で退くことは出来ない。
意地やプライドの問題ではない。
逃げられない、逃げたくない……逃げてたまるかと、逃げられると思うなよと、自然と気持ちが前へと向き、焦がす様な熱を常時纏うことになる。
兵士や騎士、魔術師たちも同じである。
そこに加えて、彼らは国に仕える者として、参加する貴族に使える身として、戦う使命がある。
意地やプライド、因縁の炎に使命。
それらがブレンドされた戦闘者たちは、戦略的な意味を除き、退くという選択肢を取らなくなる。
「ハァアアアアッ!!!!!」
そして、因縁……復讐という炎は、アッシュとシルフィーたちにも向けられる。
おおよそ一人ずつとはいえ、常に流れ込む戦闘者たち。
二人が殺してきた者たちの数は、優に五十を越えている。
「ッッッッ!!!!!!!」
振るわれる斬撃をなんとか受け止めるシルフィー。
「…………」
その隙に複数の風突を放つアッシュ
「がっっっ!!! な、めんならオラッッ!!!!」
複数回、全てヒットするものの、剛腕剣士の体を傷付けるだけで、貫くには至らなかった。
「せやッ!!!!!!!!」
だが、小僧をぶった斬る前に、小娘の炎を纏った大斬が剛腕剣士を斬り裂いた。
「クソ、ぉ、が……」
また一人、地面に倒れ伏す。
その死体を……アッシュは新たに迫る敵に向けて蹴りつけた。
「ッ、てんめっ!!!!!!??????」
アッシュは、何も悪い事をしたとは思っていない。
ただ……戦争という戦場に適した選択で敵の視界を塞いだだけである。
しかし、敵からすれば顔見知りだったこともあり、結果として闘志という炎に怒りという油を注ぐ結果になった。
轟々と燃え盛り、その炎を槍に乗せることは……敵わなかった。
理由は、視界が塞がれた一瞬に、男は股間をアッシュの風突によって貫かれた。
「せやッッッ!!!!!!!!!」
「っ!!!! ァ、が……」
失神しそうな痛みに、男はなんとか耐えた。
アドレナリンの許容範囲を越えるであろう痛みになんとか耐え切り、槍を盾にしようと動くも……あとワンテンポ間に合わず、炎斬による兜割りによって、体を真っ二つに切断。
体が真っ二つともなれば、基本的に高級ポーションや高位回復魔法を使用しても治せない。
「フッ!!!!!」
(続々と、雪崩の様に……いや、それは、これまで通り、か)
勘違いが、自分たちの元に迫る戦闘者たちの実力が、少し増したように感じるアッシュ。
自分とシルフィーであれば、対処出来ないこともない。
数日間とはいえ、決して弱くはない者たちと戦い続け、殺し……経験値を得てきたことで、彼ら自身の戦闘力も増している。
そのお陰で、二人前が現れそうになったとしても、魔法で牽制することにより、なんとか時間を稼げ……二人だけで対処出来るようになっていた。
成長している……強くなっていると、二人自身も感じ取っていた。
にもかかわらず、感じる辛さ、疲労感は初日と大差ない。
(もっと、最小限の動きで、抜けるとこは、抜いて……殺せるときには、僕も、しっかり……殺す)
「がはっ!!!!????」
衣服という壁の隙間を縫うように放たれた刺突が、徒手格闘家の心臓をかすめる。
「疾ッッ!!!!!!」
「っ!!!!!! ……むね、ん…………」
徒手格闘家は奥歯にポーションを仕込んでいた。
心臓を傷付けられればそれだけで致命傷となりうるが、奥歯に仕込んでいたポーションの質次第では即座に癒すことが出来た。
ただ、致命傷を与えられたからといって、気を抜ける……次の得物に意識を向けていい場所ではないと身に染みて理解したシルフィーにより、きっちりと止めを刺された。




