千二百七話 消える熱さ
人に化けた竜と、竜を貫く力を秘めた槍使いが再度ぶつかり合う。
その際……両陣営から遠距離攻撃が放たれた。
ゴリディア帝国側は当然木竜を狙う。
しかし、それをアルバース王国の優秀な狙撃手、魔法使いたちが妨害。
即座に狙撃手たちがいるであろう場所を狙い、これ以上二人の戦いを邪魔させないように動く。
「ゥオオオオオォオオオオオオ゛オ゛オ゛オ゛ッッッッッ!!!!!!!!」
(っ、キレが増した……いや、戦い方の、幅が広がったというべきか)
先程までジャルディと共に戦っていた時とは違い、刃の部分だけではなく、槍全体を上手く使って攻め、対処し、また攻める。
当然と言えば当然の変化であった。
タッグを組んで戦う際の動きと、ソロで戦う時の動きは異なる。
タッグを組む際、ガウスが自由に動いてジャルディがその動きに合わせてサポートするといった攻め方であれば別だが、二人は互いの動きを理解し合い、高い連携度で戦うスタイル。
そのため、戦い方に変化が生じるのは当然であった。
「ッ、フッ!!!! ヌゥウウウンッッッッ!!!!!!」
(やはりと、言うべきか。パワーは、ジャルディよりも上か)
槍という武器を自由自在に扱うとなると、それ相応の腕力が必要。
レベルの恩恵を授かる前から鍛錬によって積み重ね、結果的に力に自慢がある他種族にも及ばずとも直ぐに押し切られることはない力を手に入れた。
(怒りは、充満している。だが、それでも命を投げ捨ててはいない…………真の、戦士だな)
回避する為の選択肢だったとはいえ、彼の手で親友を殺させた。
そんな相手に向けて笑みを零すというのは、挑発していると……バカにしているのか捉えられてもおかしくはない。
真の戦士だと、強敵と認めた相手にそういった思いはさせたくなかった。
(……だが、終わらせなければな)
強敵二人が一人に変わったとしても、相手の攻撃は自分の喉に、心臓に……魔石に届きうる。
生物からすれば、どうしても死に対する恐怖で動きが鈍る。
それはなにも恥ずべきではない自然な感情。
だが、真の強敵と戦い続けた木竜にとっては、寧ろアドレナリンの様な分泌液が止まらない状態。
適う事なら、彼が本当の意味で尽き果てるまで戦いたいとすら思ってしまう。
しかし……それは叶えられない。
「ッ、くッ!!! ぐっ!!!!!」
「これにて、終わりだ。ガウス」
「ッ!!! 勝手に……勝手に、終わらせるなッッッッ!!!!!!!」
魔槍に雷撃を纏い、迫りくる木々を全て薙ぎ払う。
拘束する間もなく全て薙ぎ払われ、切断され、灰となる。
「ッッッッ、ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!」
薙ぎ払う間に、幾重もの風斬波が放たれる。
一つ一つは軽くとも、ガウスの体を刻むには十分な切れ味があった。
今度は……ガウスの方が己の喉に、心臓に刃を向けられる恐怖を感じる。
それでも、ここを死に場所だと決めているガウスにとって、本当の恐怖は……何も出来ずに、死ぬことであった。
だからこそ、刻まれることなどどうでも良い。
ガウスは切傷を全て無視し、目の前の強敵を殺す為に……後ろにいる我が国の敵対者を殺す為に、愛槍を全力で投げた。
「ぬぅうううううっ!!!!!」
それは、木竜にとって予想外の一手と言えた。
熱くなりながらも、冷静さを絶対に捨てない男が、自身の相棒を投げることはないと。
加えて、ガウスが放った一撃は、ただの投擲ではない。
槍技、流星。
投擲技の中ではトップレベルの火力を誇る技。
得物を手放してしまうという欠点はあるが、それでも貫通力に関しては天閃穿に劣らない威力を誇る。
そのため……ギリギリ避ける、軌道を逸らすという判断は出来たものの、後方で起こる被害を考慮し、木竜は二振りの剣を重ねて受け止める。
数メートル、十メートル……約二十メートルほど押されたところで、なんとか弾き飛ばすことに成功。
「おぉおおおおあああああぁァアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!」
流星を受け止めている間、木竜は何もしていなかった訳ではない。
木魔法を使用し、槍という相棒を投げたガウスを仕留めようと動いていた……ただ、高潔な槍騎士は、既に死に場所をここだと決めていた。
木の槍も、針も、蔦も……全て獣の様に避け、あるいは狂戦士の様に殴り、蹴り怖し……引き千切りながら距離を詰めた。
振りかぶるのは……勿論、残っている己の拳。
(……見事だ、真の戦士よ)
天閃穿で……虚を突いた流星で仕留められなかった。
その時点で、ほぼ決着は付いていた。
「ッ、ァ…………すま、ない……友、よ」
腕を……胴体を切られ、ゆっくりと……確かに……男の体は、地面に倒れ伏した。
「………………さて。まだ、おるか」
弾き飛ばされた魔槍が落下。
死体となったガウスの直ぐ傍に落ち、その光景はまるで彼の墓標の様に見える。
「まぁ、いても……おらずとも、関係無い。逃げて死ぬか、それとも戦って死ぬか。公開の内容に選ぶと良い」
熱き戦いは、終わった。
ここからは……予定通り、ゴリディア帝国の戦闘者たちを攻め潰すのみ。
そう切り替えた瞬間、木竜は咄嗟に魔法を発動した。
だが……遅かったと、足りなかったと、直ぐに思い知らされた。
絶望は、片側だけに降り注ぐものではなく、平等に……必然に。もしくは、虚を突くように降りかかる。




