千二百四話 崩壊する
SIDE ルメス・エウレニス
「いつでも撃てるように用意を」
「はッ!!!」
後方で複数の戦況を確認している晴嵐騎士団の団長、ルメス。
そんな中、一つの戦場に変化が起こった。
(あれは……ガウスとジャルディ、か)
木竜に、ドラスに勝負を挑んだ人間を、ルメスは知っていた。
ガウス、ジャルディ……共にそれが本名であり、苗字はない。
実は貴族の隠し子、偶々運が重なって貴族の種を仕込まれた……などといった事実はない。
正真正銘、平民出身の冒険者と騎士。
二人はそれぞれ幼い頃からジャルディは冒険者に、ガウスは騎士になると目標を決めていた。
そして二人は平民という、本来であればスタートダッシュが他の者たちよりも遅れていたにも関わらず、ガウスは二十代半ばでAランクに至った。
ガウスは同期や上、下までも大多数が貴族出身という環境でありながら前に前に……ただ前に進み続け、その実力と人望で大部隊率いられるほどの立場まで大出世。
平民出身で幼馴染である二人のその大出世はゴリディア帝国だけではなく、アルバース王国にも届いていた。
当然、ルメスも二人の存在を知っている。
「ルメス様、今すぐに撃っても良いのでは?」
「いいや……まだ、彼が負けると決まった訳ではない」
「…………」
「言いたい事は解る。彼が負ける可能性は十分にあり得ると……それにより、どれだけの損失を生むか」
ドラスの存在は、指揮官たち……ルメスの周囲にいる人物たちの耳に入っていた。
権力者の息子だから良い席に座れたようなポンコツはいないため、全員が彼の活躍によって自軍の被害が抑えられているのか……確かにその実力を認めていた。
だからこそ、彼が死ぬことは避けたかった……なんなら、ユニコーン親子が死ぬよりも避けたい最悪の未来。
「ただ、彼だけで討ち取ることが出来れば、先日以上の絶望を与えることが出来る。そして、おそらく向こうも似た様なことを考えている筈だ」
「……無駄打ちになる可能性が高い、ということですね」
「あぁ」
であれば、他の狙撃攻撃も用意していれば良いのではないか。
そう思われるかもしれないが、ゴリディア帝国側がどれだけ用意しているか解らない以上、打ちどころを間違えれば無駄打ちしてしまう可能性の方が高い。
(私としては、ジャルディとガウスがあの二人を無視してくれて、ほっと一安心という気持ちの方が大きい……とは、言えないな)
ルメスは……木竜と共に行動している二人が誰なのか見抜いていた。
二人の身の安全の為に木竜が傍にいるという事も考えられるが、距離……攻撃次第では木竜の攻撃やユニコーンの雷撃が間に合わない場合もあり得る。
「それに……ないとは思うが、今どちらか二人を射れば、どうなると思う?」
「……………………怒りを向けてきそうですね」
「そうだろう」
騎士、魔術師、同業者たちを指揮する高位冒険者たちは……離れた場所から見ているだけでも、十分解る。
あの初老冒険者が、ジャルディとガウスとの戦闘を心の底から楽しんでいると。
初老冒険者が……木竜と知る者たちは、仮に邪魔? をしてしまった際、どうなるか……容易に想像出来る。
否、想像以上の圧が放たれる。
(Aランクドラゴンの純粋な怒りが放出されれば……この戦場が崩れ去ってもおかしくない)
ある種の決着になるのではないか? と思われるかもしれないが……本当にそうなってしまった場合、一定以上の強さ……精神力を持つ者たちでなければ失神してしまう。
同世代の者たちと比べて、明らかに普通ではないアッシュやシルフィーは当然。
リエラやライホルトたちでさえも……ラディアは、精霊剣のお陰で耐えられる……かもしれない。
そして、現在後方で戦況を管理している者たちでさえ、意識が飛んでしまってもおかしくない。
そうなってしまっては、色々と困る。
(とはいえ、あの方でも無傷では終わらなでしょう……射ると同時に、私も前に出なければ)
冷静に……冷静に戦況を把握し、ルメスはひとまず……相棒である細剣を抜く。
「終わるまで、任せますよ」
「っ、了解」
彼は、騎士団長……ナクトルを拠点とする戦闘者たちのトップである。
そう簡単に最前線に出てはならない。
誰を引かせ、誰と交替させるかタイミングを見極めなければならない。
しかし、彼は飾りの大将になるつもりはない。
(あのバカに言葉を返せないのは、苛立ちますからね)
戦場に、戦争に私情を持ち込んではならない。
そんな事は理解しているものの……彼も人間である。
加えて、見た目は優等生という言葉が似合う眼鏡タイプの優男騎士。
ただ……学生時代の頃から、無茶をするのは珍しくなかった。
だからこそ、木竜と共に行動している男女のタッグが誰なのか解ったとしても、帰りなさいと告げることはなかった。
(後…………数十秒といったところでしょうか)
未来視、などといった能力はない。
これまでの戦闘経験から、長くは続かないと……一分も経たずに終わるだろうと予想。
その時が来るまで抜剣したまま、呼吸を……魔力を、闘志を、筋肉を整え続ける。
「……………………………………………………………………ッッッッ!!!!!!!!!!!!」
そして、その時が訪れた。




