千二百二話 鋭く、高まる
(ゴリディア帝国の者たちも、考えて動くようになったのぅ)
初日から変わらず、アッシュとシルフィーを直ぐに手助けできる位置で戦っている木竜。
そんな中でも、ユニコーン親子を遠距離から狙おうとする狙撃手や、ラディアたちに多少は顔を覚えた冒険者たちのサポートを行っていた。
ドラゴンという種族上、基本的に群れの長として活動することはないのだが……木竜は過去、ドラゴンとしてではなく人間として生きてみた期間があり、そのお陰で戦闘に関する視野がかなり広くなっていた。
だからこそ……ゴリディア帝国がユニコーン親子の足場を崩そうとしているのを即座に察知。
木のドラゴンであるため、地面に滴る水を吸収して乾かすなど朝飯前。
放たれた多数の遠距離攻撃を防ぐのに関しては多少なりとも魔力を消費したものの、木竜の魔力量はユニコーン親子よりも多い。
「よそ見してんじゃ、ねぇぞ爺ぃいいいいい!!!!!!!」
「それは、すまんのう」
当然と言えば当然だが、木竜の元まで届く冒険者や騎士たちは存在する。
そして、先日冒険者の基準で言えばBランクに相当する騎士を、木竜は一人で……圧倒してみせた。
その実績もあり、彼の元に送られる戦闘者たちの質も、ユニコーン親子と同じく向上している。
間違いなく、実力を選んで派遣されているのだが……斬られ、貫かれ、蹴り飛ばされ、刺し殺されていく。
(ふっふっふ……武器は、やはり悪くないのう)
木竜である彼にとって、武器とは牙、爪、尾、魔法である。
だが、人間として過ごした期間がある木竜は多数の武器を扱う事が出来る。
「がっ!!??」
「っ!!!! ふざ、けるな!!!!!」
「ぬぅああああああ!!!!!」
(それに……研ぎ澄まされるこの感覚も、悪くない)
人の状態で動いているということもあり、身体能力は普段の状態には思わない。
確かな実力者が複数人ともなれば、一刀だけで決着が着かないことも珍しくない。
しかし、その状態が木竜の感覚を更に尖らせていく。
そもそもここ数十年は武器という武器を使っていなかったため、勘が衰え、技術もやや錆びていた。
「ふっ、ほっ……はっ!」
戦っている……本当に久しぶりに、闘争に身を投じている。
その感覚が勘を蘇らせ、錆が削れていく。
ただ…………そんな状態になれば、アッシュとシルフィーの援護が疎かになるのではないかと思われる。
リエラ、ラディア、ライホルトの三人はともかく、二人はこの戦争中に……元のレベルの低さもあって、身体能力と魔力量は確実に伸びているが、それでも誰かしらの援護がなければ、即座に飲み込まれ……殺されてもおかしくない。
(冴えわたる、とはまさにこの事か)
物理的な攻撃などを、迫りくる冒険者や騎士たちに使わなければならない。
だからこそ、魔法や木々の操作だけで二人をサポートする感覚が高まり、鋭くなる。
「っ、んの、やろうがッッッ!!!!!!!」
自身の感覚が高まり、鋭くなる状態に楽しさを感じる木竜。
楽しあを感じれば、誰しも笑みを零してしまうもの。
木竜も例外ではなく、薄っすらと笑みを零していた。
ただ、必死で……全力で、本気で彼を殺そうとしている者からすれば、自分たちがおちょくられている、見下されている様に感じる。
その怒りが剣に、槍に、戦斧に宿る。
「全て、受けて立とう」
今の木竜は……ドラスという、人間である。
ドラスに挑む者たちは、彼が実は人間であるという事実を知らない。
しかし、ドラスは……木竜はここ数十年はサンディラの樹海の主……もしくは守護竜といった立ち位置。
そのため、彼に挑もうとする人間は殆どいなかった。
だからこそ、殺意であろうと怒りであろうと、全力で自分を倒そうと闘志を燃やす人間たちが迫る……その状況に、一種の嬉しさすら感じていた。
「っ!!?? ……そ、が」
「ごばっ!!!!????」
「っっっっっ!!!!! すま……な、ぃ」
とはいえ、木竜は忘れてはいない。
元々はゴリディア帝国の戦闘者たちを潰して潰して潰しまくるのが目的ではあったが、途中から第一優先に変更した目的を忘れてはいない。
アッシュ、シルフィーの二人を絶対に守る。
そのため、多方面へのサポートを行いつつ、振るう二つの剣で敵の攻撃を捌きながら、素早く急所に刃を叩き込む。
「まだだッ!!!!!」
「破ッ!!!!!!!!!」
「そこっ!!!!!」
ユニコーン親子だけではなく、途中から独断で遠距離から木竜を狙う者も現れ、数人猛者を倒した程度で終わらないが……それでも木竜が衰えを見せる様子はない。
(なんなんですか、あの人間は!!!!!)
(あ、あり得ない……あれ程の実力を持つ者たちと戦い、息一つ、乱れていない)
諦めない気持ちを燃やすも、それでも内に思い浮かぶ衝撃までは消せない。
「ぅおりゃッ!!!!!!」
「ぐっ!!??」
「ハハ!!!! 集中、し過ぎだぜッ!!!!!」
「チッ!!!!!!」
そして、勘の鋭い冒険者や騎士たちは、あの初老冒険者が自分たちをサポートしてくれているのだと気付き、隙を狙って彼を狙おうとする者に仕掛ける。
戦場でアルバース王国側として戦ってるのは、決してユニコーン親子と木竜だけではない。
その現実を思い知らされる猛者たちだが……既に、彼らに退路はなく、だとしても突き進むしかなかった。




