千二百話 覆す
(今日も今日とて、狙われてる、ね)
三日目の戦争が始まるも、ゴリディア帝国の基本的な方針は変わっていない。
危険度を優先した上で……二体のユニコーンを殺そうと動く。
ただ、違う点があるとすれば、ユニコーンには雑兵を向けられなくなった。
正確なラインは、基本的にDランクの中でも上位、最上位に位置する実力者以上の者たちのみ。
Cランクの冒険者はそれと同等の実力を持つ騎士たちが挑むも……だからといって、そう簡単にユニコーン親子は討伐出来ない。
しかし……初日、二日目と比べてゴリディア帝国側の戦闘者たちが殺されるペースも落ちた。
(ふむ……戦い方を、変えてきたか)
木竜はライホルトたちや他の冒険者たちをサポートしながら、ユニコーン親子に対するゴリディア帝国側の対応を観察していた。
優先的に仕留めようとしつつも、対応させる者たちの質を一定ライン以上に上げる。
そして……先日、木竜によってちょっかいをかけ続けられていたが、それでも遠距離からの狙撃を続ける。
加えて、接近戦を対応する戦闘者たちは……二体のユニコーンに対し、積極的な攻撃は行う。
ただ、踏み込み過ぎる事がなくなった。
その変化によって、ユニコーン親子が繰り出す攻撃、死角を狙おうとするアルバース王国の戦闘者たちが繰り出す攻撃に対応出来るようになっていた。
当てようとしない攻撃に意味はあるのか……結果だけで言うと、意味はあった。
(……明確に、頭を使い始めたか)
親ユニコーンに、苛立ちはない。
子ユニコーンはただ懸命に戦っているだけで、感情が悪い方向に昂り、下手なミスをすることはない。
戦況が悪化するということはないが、敵の戦力を削りにくい状況ではあった。
「おらッ!!!!! っ、ぐううう!!!!!!」
「前に出過ぎるな!!!」
「解ってん、よっ!!!!」
ユニコーンは伊達にBランクのモンスターではなく、体はそう簡単に貫き、切断できるほど柔らかくない。
魔法には高い耐性を持っている。
だが……ユニコーン親子を攻める者たちも、伊達にCランク冒険者やそれに準ずる騎士たちではない。
踏み込み過ぎはしない。
しかし、一撃一撃を本気で放つ彼らの攻撃は、ユニコーン親子にとって適当に対処して良い攻撃ではない。
そして踏み込み過ぎないからこそ、ユニコーン親子が放つ斬撃波や雷に対して、それなりに対処を行えていた。
(……子よ)
(解ってるよ!! 前に出過ぎない。それで、二人は守れる!!)
親子はアイコンタクトで会話を行う。
子ユニコーンは……アラッドやクロたちからの影響からか、ユニコーンにしてはやや好戦的な部分があるも、自分たちの現在の目的は忘れていない。
当初の目的はアラッドとクロに助けられた恩を返す為に、アルバース王国の戦力として戦い、ゴリディア帝国の戦闘者たちを殺すこと。
だが、現在の第一目的はアラッドの弟であるアッシュ、妹であるシルフィーに対するヘイト管理。
彼らにとって、二人の死こそ負けに等しい。
「っ、モンスターのくせに、賢いじゃねぇの」
「聖獣と呼ばれるほどの、存在だ……予定よりは少し早いが、進めるか」
「もうか?」
「被害は、抑えられている。それでも、完全に抑えられている、訳ではない」
雑兵たちは別の場所に投入した方が良い。
その判断は間違ってはいないが……腕の立つDランク冒険者、Cランク冒険者や騎士たちが消耗するのも、ゴリディア帝国にとっては普通に痛い。
踏み込み過ぎないだけではなく、冒険者同士の交渉などにより、主にユニコーン親子に挑む冒険者たちは雷耐性の効果を持つマジックアイテムを装備している。
ただ……それでも、ユニコーン親子の攻撃を完全に対処は出来てない。
一人の騎士が合図を出し……ユニコーン親子たちに水魔法を中心とした攻撃魔法が放たれた。
数十を越える攻撃魔法が放たれるも、そのどれも二体に当たることはなかった。
しかし、そうなることはゴリディア帝国の戦闘者たちにとって予想済みであり、目的は別にあった。
「「っ…………」」
「今だッ!!!!!!!!!!!」
騎士の合図が上がった瞬間、水以外の多数の遠距離攻撃がユニコーン親子に向けて放たれた。
ゴリディア帝国の狙いは、二体の機動力を奪う事。
冒険者や騎士たちの身体能力が温いわけではない。
ただ、森は彼らにとっての庭。
体勢を崩されないように動かなければならない……それは間違いないものの、ユニコーンたちにとってそれは日常茶飯事であり、意識せずとも対応出来るようになっていた。
では、どうすれば良いか……それは、足場を崩すことである。
割とオーソドックスな戦法ではあるが、無策で行えば被害はゴリディア帝国の戦闘者たちにも出る。
人にもよるが、濡れた足場で普段通り行動するのは難しい。
自分たちにまで被害が出ては本末転倒。
だからこそ、彼らは味方に被害が出ない範囲で水属性の攻撃魔法を放ち、ユニコーン親子の足が止まった瞬間を狙い、渾身の遠距離攻撃を放った。
(逝っただろ!!!!!!!!!!!!!!)
二体が大跳躍すれば、避けられる可能性はある。
それでも、上に飛べばそれはそれで格好の餌食。
後方に飛ぶという可能性もあるが、ゴリディア帝国の頭脳を担当する者たちも、決して阿呆ではない。
二体が、ある者たちからあまり距離を取らないことを把握していた。
遠距離攻撃を放った者の中にはBランク冒険者や、同等の実力を持つ騎士や魔術師たちの攻撃もあった。
一連の流れは……まさに、戦況を覆す一手と化した。




