千百九十九話 それこそ自己責任
「へぇ~~、そんな事話してたんだ!」
翌朝、朝食を食べながらシルフィーは二人から興味深い話を聞いていた。
「アラッド兄さんが戦争中に笑う…………とんでもなく面白いスキルを持ってたとか?」
「その予想は出たよ。ただ、本気で笑ってしまうほど面白いスキルってなんだろうと思ってね。色々と考えたけど、戦争という戦場に出てくる人物、兄さんとぶつかれる人物って考えると、戦闘に関するまともなスキルしか持ってないんじゃないかっていう考えに至って、候補から外されたよ」
「……超凄い筋肉の持ち主で、超大きいのに裁縫のスキルを持ってたりしてたら笑わない?」
ベタである。
非常にベタではあるが……シルフィーが言いたい事は、一応解るアッシュ。
「…………そこに加えて、的外れな煽りとかはしてたら、大笑いするかもしれないね」
「だよね~~~~。そういうのを、えっと……なんだっけ」
「存在がギャグ、か?」
「そうそう、それそれ!!!! そういう人と出会ったなら、アラッド兄さんも大笑いしそうじゃない」
「……案外、そういう単純な内容なのかもしれないね」
結果は……アラッドの糸という特殊なスキルに似たニュアンスの、これまたその人物……ノクトスだけしか有していない特殊スキル、ヒモというものを持っていたから。
加えて、そのヒモというスキルは戦闘に関係する効果を持ち、その効果はアラッドが知るヒモという言葉の意味を、上手く……言葉通りに戦闘に変換していた。
それもあて、アラッドは戦争中であるにも関わらず、心の中で大爆笑したのだが……さすがに思考力があるアッシュや木竜、ライホルトたちであっても正解に辿り着くのは不可能と言えた。
「…………そろそろ時間じゃな」
朝食、談笑を終え……三日目の戦争が始まる。
「シルフィー、まだ動ける?」
「勿論!!!! もしかして、まだ心配してるの?」
「いや、そっちはもう心配してない。ただ、単純に体力の方を心配しただけだよ」
戦争という戦場に、メンタルが耐えられているのか。
臨む者にとって、それの変化は非常に敏感にならなければならない。
アッシュから見て……本人の表情からも、今更心配する必要がないのは解っていた。
(多分……そこに関しては、普通じゃないんだろうね…………シルフィーの一番の才能は、もしかしたら順応力高さなのかな)
シルフィーは、基本的にメインアタッカーとして戦いたい。
モンスターを倒す際も、美味しいところを奪うとは関係無く、自身の攻撃で倒したいという気持ちがある。
しかし、戦争が始まってからはその気持ちを爆発させることはなく、逆にアッシュが仕留める形になる様にサポートへ回ることも珍しくない。
元々本人が持つ性格を考えれば、基本的にアッシュにそれを行ってもらおうとする。
だが……シルフィーはアッシュに言われるまでもなく、自ら盾になってアッシュのお膳立てをするような行動を取っていた。
「? 食べ残しとか付いてる?」
「いいや、何も付いてないよ」
アッシュとしては、彼女が冷静に……現実を把握し、それでもと意地を張らずに行動してくれているのは、非常に嬉しい。
(そういえば、この戦争……いつ終わるんだろ)
ふと、アッシュはアルバース王国対ゴリディア帝国の戦争が、いつ終幕するのか気になった。
本日で三日目。
現段階で終わっていないことを考えれば、まだアラッドを含むアルバース王国の有名どころである剣がまだ対象首を斬れておらず、ゴリディア帝国の猛者たちが食い止めている……状態かもしれない。
(アラッド兄さん辺りがささっと終わらせるのかと思ってたけど、冒険者になってからの功績を考えれば無駄死にさせると解っていても消費していくか…………このまま続けば、シルフィーはどうなるんだろうね)
本人に伝えた通り、メンタル面に関しては未だに心配している訳ではない。
アッシュが心配しているのは、今回の戦闘が終わった後である。
勿論、教師陣たちに雷を落されることではない…………因みに、アッシュはその件に関してがっつり忘れている。
心配していることは、シルフィーが今回の戦闘で得られる経験値、戦闘力の向上幅である。
(アラッド兄さんに置いていかれないように、追いつく為にって考えると……良い結果になるかもしれないけど、多分……とりあえず、来年は無理だよね)
現在、アッシュとシルフィーは中等部の二年生。
シルフィーは今年のトーナメントで優勝した。
決して楽ではなかった……それは間違いないが、それでも二年時で優勝したというのは事実。
そんなシルフィーの戦闘力が大幅に向上したとなれば、他の生徒たちとの差は増々開いてしまう。
(高等部に上がればまた一年からだから、とりあえず来年は我慢することになりそう……けど、あれか。再来年になったら、レイ先輩たちは卒業してるから…………高等部のトーナメントでも、一年生の頃から出禁になるかもしれないね)
考え過ぎではないか、とは言えない。
今回の戦争で、シルフィーは絶対に勝利するために自身のエゴを抑える姿勢を身に付けた。
トーナメントというお祭りでは別かもしれないが、それは彼女を物理的な面だけではなく、精神的な面でも成長したとも言える。
(…………まぁ、それこそ自己責任って話か)
ツッコんだとしても、本当に今更な話であるため、その件に関して伝えることはなく、三日目が始まった。




