千百九十三話 見せるべきは
「カイト、どこかやられた?」
自身も魔力回復のポーションを飲みながら、シルフィーは相棒を心配した。
「大丈夫……あまり使っていなかったから、少し酔っただけだよ」
枷を外し、限界を越えた動きを行えば、その反動が返ってくる。
それを知らないアッシュではない、解っていないアッシュではない。
だからこそ、シルフィーは眼に見えない箇所に傷を負ったのではないかと心配に思った。
「ありがとう。助かった」
ただ、更に戦い続けようとしたのは、単にアッシュが切り札を使い慣れていなかったことと……自分たちを守ってくれる存在がいるとはいえ、常に戦い続けなければならない戦争という戦場の影響だった。
(後方に下がらないにしても、直ぐにポーションを取り出すべきだった…………柄にもなく熱くなってるのか、それともこの環境のせいか……とにかく、まだまだ子供だってことか)
魔力回復、傷を癒すポーションを飲み干しながら、アッシュは深く……深く反省した。
あり得ない行動を取ったシルフィー……そのシルフィーと同行するという選択肢を取ったのだから、自分が彼女に本当の意味で助けられてはならない。
深呼吸を一つ、二つして気持ちを、思考を整えて前に踏み出す。
「二人とも、少し休んでおれ」
「っ、しかし」
「安心せい。しっかり守ってやる」
そう告げると、木竜は二人の周囲に木の結界を展開。
地面からの攻撃にも対応できるよう、しっかりと地中まで展開している。
「うおらッ!!!!!」
「せいッ!!!!!!」
「破ッ!!!!!!」
「ファイヤーランスっ!!!!」
「疾ッッッ!!!!!」
二人が守られている。
それを把握したからか、ユニコーン親子とラディアたちは調整の間隔を少々緩めた。
そのため、一人ずつではなく、一度に三人ほど襲い掛かることもあった。
ただ……その誰もが木竜が振るう二振りのロングソードによる、あっという間に切り裂かれていく。
一人、二人……五人、十人、二十人。
木竜が老人の演技が上手いからか、それとも器用に自身の存在感を隠しているからか……次々と兵士や騎士が、冒険者たちが襲いかかる。
だが、その全員が攻撃を当たられず……しかも、一太刀で切断されていく。
そこまでくれば、雰囲気や存在感を上手く隠せていたとしても、結果として木竜の強さに気付いてしまう。
(むっ、さすがに一太刀で切り捨てるのは良くなかったか……しかし、来なければそれはそれでという話じゃ)
迫りくる戦闘者たちを相手にしている間も、木竜はユニコーン親子を狙撃する存在にちょっかいをかけ続けており、ラディアたちに大きな被害を出しそうな遠距離攻撃を放とうとしている者……実際に放たれてしまった攻撃の妨害などを行っている。
そのため、自分に向かってくる敵がいなくなれば、それはそれで知人たちのサポートを……ついでに同士として、アルバース王国側の戦力として戦う者たちのサポートも行うことが出来る。
「私がいこう」
すると、一人の騎士が前に出た。
(ふむ……事実は知らぬだろうが、嫌な物を持っておるのう)
その騎士が持っているロングソードには竜殺しの効果が付与されている。
どんな得物に付与されていようと、ドラゴンである木竜にとっては嫌悪感を感じてしまう。
「破ァアアアアアアッ!!!!!」
騎士は駆け出すと同時に剣技スキル、剣圧を発動しながらバッシュを放つ。
「ッ、ふんッ!!!!!!」
木竜が振るう剣に弾かれるも、もう一振りの剣が届くよりも先に身を捻り、今度はアッドスラッシュを発動し、複数の斬撃を叩き込む。
「ほっ」
「っっっっっっ!!!!!!! ぬぉぉおおおああああああああああッ!!!!!!!」
全ての斬撃が叩き込まれるも、二振りの剣で弾き飛ばし、前蹴りを叩き込んで吹き飛ばす。
当然ながら、人間態とはいえ、木竜の前蹴りは洒落にならない威力を有している。
(全力ではなかったが、耐えるか)
騎士は山勘を張り、一瞬の判断で腹に魔力を集中させることで、なんとか耐え切った。
その時点で……騎士の心は、闘志は半分折れていた。
持てる強化スキルは全て使用して斬り掛かった。
相棒である魔剣の属性、雷も纏っていた……にもかかわらず、全ての攻撃を弾かれ、反撃を食らった。
魔力を一転集中することで、腹部が破裂してそのまま死に繋がることはなかったが、それでも痛みがゼロになった訳ではない。
なんなら……即座に退避したい。
要注意人物の発見という名目で逃げたい……だが、彼の思考に私情目的の逃走という選択はなかった。
(この人物が危険なのは、他の者が見ている!!! であれば、私が見せるべきは、この背中ッッッ!!!!!!!)
目の前の初老男性が圧倒的な実力を持っているのは明白。
一瞬ではあるが、闘争心を恐怖心が上回った。
それでも、彼は見せなばならぬと心を燃やす。
どれほどの強敵がいたとしても、ゴリディア帝国の騎士として……何かを背負って戦う限り、その強敵との戦いからは避けられないのだと。
(全てを、振り絞れッ!!!!!!!!!)
微かに残っている恐怖心を、未練を捨て去る為……剣技、勇閃を発動。
そして、更に閃光・連を合わせる。
相棒に……全身に雷を纏った男の、全てを振り絞り放った猛攻。
「見事だ」
剣技の合わせ技。
それは、剣を振るう木竜にも出来ない。
その腕前に、自身に臆する心を振り払い突貫した騎士に……男に小さく賞賛の言葉を告げ、腕を、胴を斬り裂いた。




