千百九十二話 忘れていない
SIDE アッシュ
(仕掛けてくる、戦力に……そこまでの差はない、か)
二日目の戦争が始まってから、既に一時間が経過。
当然、アッシュとシルフィーにとっては楽な戦いではない。
アッシュ、シルフィーが各自で対応出来る人間と戦うこともある、大半の人間は二人で対応出来しなければ殺すことが出来ない。
(……結果的に、ライホルトさんたちが、近くで戦ってくれて、正解だったか)
初日は初日で、ユニコーン親子を狙う者たちが多かった。
二日目は……変らず狙う人数は多い。
だが、狙う者たちの表情を見れば、ユニコーンという存在の価値故に襲っているのではなく、脅威となるからこそ全力で襲い掛かっているのが解る。
直接狙う者だけではなく、遠距離から狙撃する者も多い。
アラッドとクロに助けられてから、間違いなく成長している。
それは間違いないが、それでも彼らは全知全能の怪物ではない。
蹴散らすことだけであれば今のところ問題無いものの、数が増えて敵は敵で考えながら動いてくる……狙撃の数も多くなれば、二人の元に適量の人数だけ送ることが難しくなる。
そのため、結果としてリエラとラディア、ライホルトという三人の戦力が傍にいることで、その辺りの調整が保てている。
「ッ!! フンッ!!!! ぅおらッ!!!!!!!」
(冷静に、動きを、軌道を、読み切るっ!!!)
シルフィーは……早まる鼓動を、高まる熱さに支配されないように、常に冷静でい続けようとしていた。
単純な話ではあるが、経験値というのはモンスターが相手ではなくとも、戦える人間を殺しても手に入る。
一人ずつとはいえ、常に戦う力を、能力を持つ人間を殺し続けている二人は……急速に力を得ていた。
(今、ここッ!!!!)
「がっ!?」
「ナイス、シルフィー」
ロングソードによる斬撃を、大剣を地面に突き刺すことで完全に受け止める。
その後、超低空飛行で駆け、相手の足を掴み……地面に引きずる。
そこまでいけば、相方の風突が突き刺さり、戦いが終わる。
「よそ見してんじゃねぇぞッ!!!!!」
「カイトっ!!!!!」
「解ってる。というか、声を出すとか、もしかして、手加減?」
正確には、双剣を扱う冒険者が声を上げたから反応出来た訳ではない。
戦争という戦場は敵意で怒気で、殺気で溢れている。
「っ、んなわけねぇだろうがッ!!! 戦いは、口でやるもんじゃ、ねぇぞッ!!!!!」
「では、一先ず口では、一敗、ですね」
「ッッッッ!!!!!!」
その中でも、普段は進んで身を置こうとしない戦場という場所で……アッシュの戦闘センスは急速に磨かれ、感知力も高まっていた。
数多くの殺気や敵意が交差する中で、自分に……シルフィーに届きうるものを選別。
故に、一人を倒し終えた後、気を緩むことなど無く、対処が可能であった。
「がっ!!??」
「ふッ!!!!!!」
「ご、の……グゾ、が」
相手を挑発、トラッシュトークをかますことで、自分に意識を集中させ……シルフィーが攻撃する隙を生み出す。
あっさりとアッシュの策略にハマり、双剣使いの男は大剣で切り裂かれ、突き刺されて絶命。
「め「っっっ!!! 大丈夫っ!!!!!」……さすがだね」
リエラ、ラディア、ライホルト……ユニコーン親子に、木竜。
彼女たちは先日も含め、多くの戦闘者たちを倒している。
だが……昨日も、そして今日も数十以上の者たちを倒してるのは、彼らだけではない。
一人ずつではあるものの、アッシュとシルフィーもゴリディア帝国の戦闘者たちを倒し続けている。
人によっては、二人の方を先に殺してしまいたいと思い……元々の標的から変更し、攻撃魔法を放ってもおかしくない。
だが、アッシュが声を上げるよりも早くシルフィーは自身に迫る熱を感じ取り、逆に大剣で弾き返した。
「フッ!!!!!」
「っ、チッッッ!!!!!」
攻撃魔法は一つだけ……火の矢が飛来するだけに留まった。
しかし、また一人、彼らの元に敵がやってくる。
(今のは、乱れ星ッ!!!)
ユニコーン親子も、ラディアたちも完璧ではない。
二人の元に向かってしまう数はある程度調整出来ても、その強さまで正確に測り、調整することは出来ない。
(この人……今まで、ここで殺り合った人たちの中で、一番強い)
アッシュがギリギリ、なんとか乱れ星を回避した光景を見て、シルフィーは目の前の騎士が、これまで自分たちが戦場で戦った者たちの中で一番強い相手だと即座に把握。
「ハァアアアアアアアッ!!!!!!」
気合一閃……雄叫びを上げ、大剣だけではなく全身に炎を纏い、駆け出すシルフィー。
当然、そうしなければない相手だと踏んだ……という訳ではない。
(その意気や良し!!!! ぐっ!!!!!)
気合を込め、感情を、闘気を昂らせる。
それは、全てフェイクだった。
戦いを越える度に、少しずつ……少しずつではあるが、力が増す感覚を感じていたシルフィー。
それでも共に戦い、倒し続けているからこそ解る。
自分よりも、アッシュの方がまだ上であると。
そして……何人目、何十人目になるか解らない相手が、自分よりも強き者であることは、否が応でも解る。
だからこそ、先程アッシュが取った行動を、今度は彼女自身が取った。
「ぬぅうんッッッッ!!!!!!」
男は、背後に回り、自身にダメージを与えた青年を斬りつけようと身を回転させ、細剣振るうもただ空を斬るだけだった。
「…………」
シルフィーが瞬時にイメージした通り、アッシュは勝てるとすれば、それは自分の攻撃力だと判断。
即座に体のリミッターを外し、細剣使いの騎士の予想を上回るスピードで二度背後に回り、完全な格上を倒すことに成功。
「っっっっっっ…………すま、ない」
「…………」
彼が、何に謝ったのかは、解らない。
アッシュは……それを考えようともせず、次の敵の接近に備えようとしたが、シルフィーに首根っこを掴まれ、木竜の元まで後退。
常に冷静でい続けようと自身に言い聞かせていたシルフィーは、アッシュが意図的に制限を外して動いた際、その後に痛みが襲いかかり、動きが鈍くなるのを忘れていなかった。




