千百九十話 自然体で
「トップを、狙おうとしている、のかもしれないな」
精霊剣で受け流し、そのまま斬撃を浴びせ、死角から仕掛けてくる相手には、水弾を顔に当てて視界を潰し、その隙に首を斬り落とすラディア。
「トップ……ということは、ルメス殿を、か」
ルメス……正式な名はルメス・エウレニス。
青嵐騎士団の団長である、ナクトルに集まった戦闘者たちのトップに立つ騎士。
組織のトップに立つ者が落とされれば、組織の者たちの中に動揺が走り、一気に押し切ることが出来る……というのはやや考えが浅い。
とはいえ、絶対にそうはならないと断言も出来ない。
(私たちは、あまり関係、ないけど。騎士の方々は、そうもいかない、でしょうね!)
(私たちにとっての、アッシュとシルフィーか……そう簡単に殺られるとも、思わないが……少なからず、動揺は走るだろう)
リエラたちにとっては、アッシュたちが無事であれば、そこまで慌てる内容ではないが、アルバース王国の兵士や騎士たちにとっては、そうもいかない。
冒険者たちにとっても、一番上の人間が討たれたとなれば、多少の焦りが生まれる。
「こちらに重要な戦力を、注ぎこんでも、仕方ない……そういう、ことかしら」
魔女が品定めをする様な眼を向けられるも、ゴリディア帝国の騎士はなにも喋らず、火を纏ったロングソードを振り下ろす。
「ッッッッ!!!!!!!」
「疾ッッ!!!!!!!」
気合の入った良い斬撃……ではあったものの、狙いが定まり過ぎていたこともあり、リエラはギリギリで回避。
同じく火を纏った細剣で脇腹を突き刺す。
「がああああああああっ!!!!!?????」
だが、突き刺しただけでは終わらず、細剣に纏った火を器用に動かし……体内に刺さった部分に移動させ、体内で爆散させる。
心臓や首、頭部でなければ体を貫かれたとしても、直ぐには息絶えない。
それだけの頑丈さがあるからこそ、凶悪なモンスターや盗賊とも対峙し、討伐することが出来る。
同じ騎士高こそ、そこは重々理解している。
だから……完全に仕留めようとした。
「魔力操作に、磨きが掛かっている、な」
「そう、かしら? それなら、嬉しいわっ!!!」
変わらず会話を続けながら得物を振るう二人。
ライホルトはそういった技、技術を会得しようと考えていると、事前にリエラから話を聞いていたため、特に驚かない。
だが、同士である騎士がどのようにして殺されたのか……それを理解した者たちは、彼女たちに対して踏み出す脚を躊躇った。
(今の、技は)
(体の中を、焼きやがった!!!)
行った内容に関しては、理解出来る内容ではある。
一定以上の実力を持つ者たちが驚き、脚を止めさせられたのは……その技を実戦の中で、乱戦という戦場の中で実行した部分。
ラディアが賞賛したように、優れた魔力操作技術を有していなければ、実戦で行うのは難しい。
相手が決して雑魚と呼べるような相手でなければ、尚更火を体内にぶち込む前に動かれ、刃が体内から抜けてしまう。
「? 来ないなら、それでも構わないけど」
脚が止まった者たちを見て、素直な感想を零すラディア。
自分たちの後方にはアッシュ、シルフィーの二人がいるため、その言葉に嘘はない。
今のところ自分たちの力で対処出来る者たちばかりではあるが、二人の元へ向かう者たちを完全に調整出来ている訳ではない。
「ッ、うぉオオオオオッ!!!!!」
「せりゃっ!!!!!!」
だが、ゴリディア帝国の戦闘者たちからすれば、その本心はただの煽りにしか聞こえない。
(そういえば、こういうところが、あったな)
(……攻撃の軌道が、読みやすくなるのは、有難い、か)
怒りが攻撃に重なれば、勢いや重さは増すかもしれない。
しかし、それと同時に攻撃の軌道が読みやすくなる。
そのため……ひとまず、ラディアとライホルトはそこを注意することなく、戦闘を続けた。
「てめぇら、どいてろッッ!!!!!!!」
「「「っ!!!」」」
悪くない戦況が続いていた……そんな中、一人の剣士が奥から現れ、大斬で空気を切断。
空振りに終わったものの、空を切る音……スパッと勢いそのまま地面を切り裂いた。
その一撃、一つの行動だけで、緩みかけていた三人は帯を締め直した。
「纏めて相手してやんよ!!!!」
現れたのは虎の獣人族であり、得物は大剣。
先程の風斬り音……地面を容易に切断するパワー。
これまで対峙してきた者たちとは違うと感じさせるには十分な要素を持つ冒険者。
「俺一人で構わん」
対して、ライホルトは極めて冷静に、普段通りの様子で前に出た。
「はっ!! 騎士道精神ってやつか!! まっ、別に構わねぇけどなッ!!!!!!!!」
虎人族の冒険者は、特に嘗められているなど感じない。
性格的にはガルーレやアラッドと似たタイプであり、ライホルトは彼のお眼鏡に適う存在だった。
(情報通り、だなッ!!!!!)
初日の戦闘、目立ったのはユニコーン親子だけではなく。
彼ら以外の存在……冒険者、騎士たちの中にも危険視される存在はいた。
そして、リエラとラディア、ライホルトの三人も一部の人間たちからは危険視されており、実力者たちに情報が共有されていた。
「そうか、それは好都合だ」
冷静に大剣を振るい、互いに同じ得物を叩きつけるライホルト。
最初のぶつかり合い……互いに弾かれ、結果はほぼ互角。
だからこそ、ライホルトは目の前の虎人族との戦闘をなびかせる訳にはいかないと判断。
(直ぐに、叩き潰す)
二度目の激突の際……ライホルトはギリギリまで隠すことなく自身の切り札、巨人の怒りを発動。
盾を、武器を、人間を叩き潰す大斬を前に、虎人族の男は…………笑みを零したままだった。




