第28話:(前編)壊し屋たちの夜会
帝都の宿舎を「黄金の神殿」へと作り替え、地下の汚染ヘドロを排水リフォームで押し流したリアムの元に、一通の招待状が届けられた。
漆黒の紙に、金粉で縁取られたアークライト家の家紋――「交差する破城槌」。それは現当主であり、リアムを無能と断じて追放した実父、バティスト・アークライトからの強制的な招集だった。
『帝国至高の間にて夜会を催す。一族の恥晒しとして、その「繕い物」の成果を陛下と諸卿の前で披露するがいい』
「……不愉快ですわ。実の息子を呼び出しておいて『恥晒し』だなんて。リアム様、こんな無礼な招待、受ける必要はございませんわ!」
セレスティアが招待状を破り捨てんばかりの勢いで憤慨する。
「そうよ、リアム。あいつら『壊し屋』の集まりなんて、行ってもろくなことにならないわ。……精霊たちも、あの家紋を見ただけで震えているもの」
エルナが不安げにリアムの袖を引く。
だが、リアムは招待状の裏に同封されていた、会場となる『帝国至高の間』の断面図をじっと見つめていた。
「……あぁ、やっぱり。……カミラさん、ベアトリスさん。夜会には行くよ。……復讐なんて興味ないけど、この会場の『シャンデリア』、固定ボルトが限界なんだ。……落ちて死人が出る前に、僕が叩き直さないと」
「「「「「……(やっぱりそこなのね、リアム様)」」」」」
ヒロインたちが一斉に天を仰ぐ中、リアムはさっそく「夜会用リフォーム道具」の準備に取り掛かった。
*
夜会当日。
帝都の貴族たちが集う『帝国至高の間』は、過剰なまでの金装飾と、魔導クリスタルの輝きで満たされていた。
そこへ現れたリアム一行の姿に、会場は一瞬で静まり返った。
リアムがこの日のために仕立てた「夜会用フォーマル・リフォーム・スーツ」。
それは見た目こそ上品な黒の礼服だが、裏地には「建材運搬用」の空間拡張術式が編み込まれ、何があっても即座に工具を取り出せる機能美の結晶だ。
そして、彼に従うヒロインたちの装いもまた、帝都の貴族たちの想像を絶していた。
カミラのドレスは、一見すればしなやかなシルクだが、リアムが「防弾・防刃リフォーム」を施した魔導繊維でできており、緊急時には一瞬で戦闘用装甲へと硬化する可変式。
ベアトリスのドレスには、リアムが独自に開発した「誘惑魔力吸収・濾過フィルタ」が内蔵され、周囲の不純な視線をすべて城の動力源へと変換する仕組みになっていた。
「……来たか。我が家の落ちこぼれよ」
会場の中央、一段高い壇上から、冷酷な声が響いた。
漆黒の軍服に身を包んだ男、バティスト・アークライト。帝国の『解体総監』として、古びた都市を更地にし、軍事拠点を築き上げてきた破壊の権化だ。
「父上。……お久しぶりです。……会場の梁の歪みが三ミリほど放置されていますが、お体の加減でも悪いのですか?」
「……相変わらず、重箱の隅をつつくようなことばかり。……リアム、お前のやっていることは、ただの『繕い』だ。脆弱なものを延命させ、崩壊を遅らせるだけの無意味な延命処置。……真の再生とは、すべてを粉砕し、ゼロから力で構築することにあるのだ」
バティストが杖を床に突くと、会場全体が不気味な震動を始めた。
リアムの【魔導設計図】が、会場の構造材に仕掛けられた「意図的な欠陥」を感知する。
「……父上。この会場、見栄えのために中央の支柱を削りましたね。……アークライト家の解体技術を、こんな『手抜き工事』の隠蔽に使うなんて、職人として恥ずかしくないんですか?」
「黙れ! 美しき帝都に、無骨な柱など不要。……崩れる前に作り替えれば良いだけのことだ。……そして今、その『作り替え』の時が来た」
バティストが隠し持っていた魔導起爆装置を起動させた。
瞬間、リアムたちの足元の床が、まるで砂細工のように崩落を開始した。
帝国貴族たちが悲鳴を上げ、パニックに陥る。
「……落ちろ、リアム! 地下のヘドロと共に、その軟弱な思想ごと消え去るがいい!」
崩れゆく豪華な床。
リアムたちは、地下の汚染層へと真っ逆さまに突き落とされる――はずだった。
「……あぁ、やっぱり。……父上、計算が甘いですよ。……カミラ、床を受けて! 僕は……この『折れた骨組み』を叩き直す!」
リアムは落下しながらも、空中で右腕を伸ばした。
剥き出しになった、錆びついた鉄骨。
彼がその「建物の骨」を掴んだ瞬間、黄金の魔力が、夜会場のすべてを飲み込むように爆発した。
「スキル――【リフォーム・オーバーブースト】!!」
ガガガガガガガガッ!!
驚天動地の光景が展開された。
崩落していたはずの床板が、空中で静止し、リアムの魔力によって「物理法則を無視した浮遊構造」へと再構成されていく。
折れた梁は、瞬時に黄金の結晶体へと成長し、会場全体を以前よりも遥かに強固に支え直した。
「……な……っ!? 崩壊の衝撃を、そのまま『構造強化のエネルギー』に変換しただと……!?」
バティストの顔から余裕が消え、驚愕に歪む。
リアムは浮遊する床の上に平然と立ち、埃を払うと、父を真っ直ぐに見据えた。
「……父上。建物の悲鳴を止めるのは、破壊ではありません。……『愛着』を持って、正しい場所に正しい力を注ぐことだ」
黄金色に輝く会場の中で、リアムの放つ圧倒的な「職人の威厳」が、帝都の貴族たちを、そして実父をも圧倒していた。
「……さて。……勝手に床を抜いた代金、高くつきますよ。……今から、この『帝国至高の間』を、僕の好み通りにフルリフォームさせてもらいますからね」
リアムが指先を鳴らすと、会場のすべての壁紙が剥がれ、真の輝きを求めて再構築を開始した。
アークライト家との因縁の夜会は、今、リアムによる「一方的なリフォーム侵攻」へと変貌したのである。




