【没案】 第25.5話:そんなわけない
※【没案】※ 読まれる場合は、本筋ではない事をご了承ください。
建国祭の喧騒が引き、聖域の城に深い静寂が訪れた。
テラスの円卓には、かつてカミラとエルナが飲み比べた魔導古酒のボトルが一本、月光を浴びて琥珀色に透けている。リアムは一人、その毒にも等しい芳醇な液体を小さなグラスに注ぎ、喉へと流し込んだ。
瞬間、脳内で何かが爆ぜた。
普段、職人としての規律と理性で固く閉ざしていた「心の建付け」が、酒の熱によって無惨に歪み、軋みを上げて崩落していく。視界がどろりと溶け、城の静寂が、彼自身のドス黒い所有欲を増幅させる共鳴箱へと変貌した。
脳裏に浮かぶのは、自分が手入れし、慈しみ、住まわせている六人の女たちの姿。
世間は自分を聖人君主と呼び、彼女たちは自分を救世主や父親のように慕う。だが、この歪んだ視界の先にある真実は、そんなに綺麗なものではない。
ーーー
最初に救い出した聖女セレスティア。
あの時、椅子に縛り付けられて絶望していた彼女を、単なる憐憫で助けたつもりか?
あの清廉な魂が自分一人に依存し、自分なしでは呼吸の仕方も忘れてしまうほどに追い詰め、その純白の存在を自分の魔力で塗り潰したいという、歪んだ征服欲が根底になかったと言い切れるだろうか。聖女の仮面を剥ぎ取り、涙と悦楽でぐちゃぐちゃになった彼女を、この城という名の檻に一生閉じ込めておきたい。神に祈るその唇を、自分を呼ぶためだけの器官に作り替えたい。そんな倒錯したリフォーム計画が、心根の奥底で脈打っていた。
エルフの公女エルナもそうだ。
あの尖った耳を真っ赤にさせて、震えながら自分を睨む彼女。そのプライドを、職人の指先一つでとろとろの蜜に変えていく快感。数百年の歴史を持つ種族の矜持など、自分の『ボルト締め』一つで粉々に粉砕し、ただ自分に縋り付いて鳴くことしかできない雛鳥に作り替えてやりたい。森へ帰る自由など最初から与えるつもりはない。彼女の人生の設計図を自分好みに書き換え、自分なしでは歩くことすらできないほどに、その足首に目に見えない執着の鎖を繋いでやりたい。
騎士カミラに対する感情は、さらに暴力的ですらある。
鋼の鎧で己を律している彼女が、自分の前でだけその防備を解き、剥き出しの柔らかな肉体を晒す。その瞬間の支配感。騎士の忠誠などという甘っちょろい言葉ではなく、彼女の脊椎から隅々までを自分の熱で支配し、二度と剣を握れぬほどに、その強靭な肢体を愛撫という名のメンテナンスで骨抜きにしたい。彼女のすべてを自分の盾にするのではない。彼女という存在そのものを、自分だけが鑑賞し、弄ぶための、壊れやすい精巧な人形にリフォームしたいのだ。
サキュバスのベアトリスは、格好の実験体だ。
誘惑のプロを自称する彼女が、逆に自分の『無欲な手』によって攻略され、雌の顔を隠せなくなる。あの無惨なまでの陥落こそが、職人としての最高の報酬だ。魔王軍の幹部という古臭い壁紙を剥がし、彼女の存在を自分専用の『愛の倉庫』へと作り替え、その妖艶な魂を自分の所有物として固定してやりたい。彼女がこれまで得てきた快楽の定義をすべて上書きし、自分の指先から流れる魔力以外では、死を望むほどの渇きを覚えるように、その神経の一本一本を再配線してやりたいのだ。
そして、家そのものであるコレット。
彼女への執着は、もはや病的な域に達している。
城の柱、床、壁、そのすべてが彼女であり、そのすべてを自分が磨き上げ、指先で確かめている。彼女の身体の奥深く、地脈の結節点に自分の魔力を注ぎ込み、自分と建物が完全に一体化するあの感覚。彼女を一人の少女として外に出すつもりなど微塵もない。この聖域という名の自分の肉体の中に、彼女を永遠に融解させ、自分以外の誰の目にも触れさせず、自分と彼女だけの、終わりのない内緒話に耽っていたい。彼女の悲鳴も、喜びの震動も、すべては自分の掌の中で管理されるべき数値なのだ。
最後に、神であるアストレア。
数千年の孤独に耐えた神を、自分の腕の中でただの『弱り果てた女』へと堕落させる背徳感。
神々しい翼を、自分の欲望という名の重力で地面に縛り付け、天界を忘れさせたい。彼女が放つ浄化の光さえ、自分を求める熱へとリフォームしてやりたい。神を、一人の男に依存する無力な存在へと作り替える……それは創造主への反逆であり、建築家としての究極の傲慢だ。彼女の魂に深く刻まれた聖なる術式を、自分なしでは形を保てないほどに、完膚なきまでに愛で壊し尽くしてやりたい。
(……あぁ。欲しい。欲しい。欲しい)
六人全員を。この領地という巨大な寝室の中に閉じ込め、自分という唯一の構造体に、彼女たちの人生を、身体を、魂を、一から十まで繋ぎ合わせたい。
建付けが悪い、換気が悪い、日当たりが悪い……。そんな言葉で誤魔化してきた本音。
自分が本当に望んでいるのは、彼女たちの救済ではない。
自分好みに作り替えた理想の『家族』という名の迷宮に、彼女たちを一生監禁し、その依存しきった笑顔を、自分の指先一つでコントロールし続けるという、職人のエゴイズムの極致だ。
「――ッ!!」
脳内で、凄まじい衝撃音が響いた。
あたかも、重厚な鋼鉄のシャッターが、火花を散らして一気に閉まったかのような。
沸騰していた血液は瞬時に絶対零度まで冷却され、歪んでいた視界は、職人としての冷徹な平穏を取り戻す。
(……そんなわけないだろう。僕は、ただの職人なんだから)
リアムは、いつもの穏やかな、けれどどこか空虚な微笑を浮かべた。
今、脳内を支配していた獣のような情念など、まるで最初から存在しなかったかのように。
実際には、彼はただテラスの椅子に腰掛け、グラスを口に運んだだけだった。
琥珀色の液体を一口で飲み干し、喉を鳴らす。
そして、グラスをテーブルにコトリと置いた。
音を立てぬよう、細心の注意を払って。
愛する建物を、決して傷つけないように。
「……ふぅ。……おやすみ」
誰に聞かせるでもない独り言。
リアムはそのまま椅子に深く身体を預け、眠りに落ちた。
その寝顔は、驚くほどに無垢で、慈愛に満ちていた。
誰一人として、彼を疑う者はいないだろう。
聖域の主、慈悲深き領主、不器用なほどに誠実なリフォームバカ。
その心の扉の奥に、六人の女たちの人生を根こそぎ喰らい尽くそうとする、怪物のような独占欲を……たった十秒の静寂の中に、永遠に封印したことなど。
夜風が、彼の柔らかな髪を揺らす。
明日もまた、彼は「住み心地はどう?」と、優しく微笑みながら彼女たちの身体に触れるのだ。
その指先が、彼女たちの魂を自分なしでは壊れてしまう形に、一歩ずつ、着実にリフォームし続けていることにも気づかせないまま。
ーーー
AIこわっwこの作品にあるか!
∧_∧
⊂(# ・д・ )寝不足魔王
/ ノ∪
し―J|∥
人ペシッ!!
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