表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/89

第25話:神の目覚めと、独立の宴

 数千年の静寂を破り、天翼族のアストレアが目覚めたことで、聖域のアーク・キャッスルの「リフォーム」は一つの到達点を迎えた。

 城の尖塔から放たれる黄金の浄化光は、かつての死の森を完全に塗り替え、今やそこには色とりどりの魔法の花が咲き乱れ、清浄な魔力を帯びた風が吹き抜けている。


 領地の境界線に引かれた「独立の結界」は、リアムの魔力によって強固な『ゲート』へと再定義され、もはや帝国の不法な侵入を一切許さない。

 

「よし。……今日はお祝いだ。……アストレアさんの復活と、僕たちの新しい『聖域都市』の門出を祝って、最高の建国祭を開こう!」


 リアムの号令と共に、城の広場ではかつてない規模の準備が始まった。


     *


 夕闇が迫る頃、聖域都市は魔法の灯火ランタンで宝石を散りばめたように輝いていた。

 城の麓に広がる村からは、難民だった人々が、リアムに感謝を伝えるために自慢の料理や工芸品を持ち寄って集まってくる。

 

 広場の中央、リアムがこの日のために特製リフォームした「自動回転式の野外調理台ライブキッチン」では、彼自らが腕を振るっていた。


「リアム様! この『聖域和牛のロースト』、焼き加減が完璧ですわ! ……ああっ、お肉の繊維が、まるでお口の中でリフォームされるようにとろけますわ!」

 セレスティアが、聖女としての威厳をどこかへ置き忘れ、頬を赤くして肉を頬張る。

 彼女は今、リアムが贈った最高級の「浄化絹」のドレスを纏い、月光を反射して神々しいまでの美しさを放っていた。


「……ふん。……農業担当の私が育てた野菜なんだから、美味しくて当然よ。……ほら、リアム。……あんた、料理ばかりしてないで、こっちの『エルフの秘蔵酒』も飲みなさいよ。……私が、口移しで……いえ、なんでもないわ!」

 エルナがツンとした態度で、けれど潤んだ瞳でリアムにグラスを差し出す。彼女の耳は、期待で小刻みに震えていた。


「主殿! 見てくれ、自警団の面々が、貴殿の作った『防衛噴水』を囲んで踊っているぞ。……平和だな。……私は、この光景を守るために剣を執ってきたのかもしれん」

 カミラが鎧を脱ぎ、動きやすい軽装のドレス姿で現れた。

 メンテナンスを終えたばかりの彼女の肢体は、薄い布越しでも分かるほどしなやかで、騎士としての武骨さと、一人の女性としての艶やかさが絶妙に同居している。


「うふふ、みんな楽しそうねぇ。……リアム、今夜は私も『お給仕』してあげるわよぉ。……サキュバス流の、絶対に忘れられないデザート……食べてくれるかしら?」

 ベアトリスが、リアムの首筋に腕を回し、妖艶な香りを漂わせる。

 彼女がプロデュースした会場の装飾デコレーションは、館の美しさを最大限に引き立てる「光のリフォーム」として、訪れる人々を魅了していた。


「パパ、パパ! お家が、お家が笑ってるよ! ……みんなが幸せそうにしてるから、私、身体中がポカポカして……溶けちゃいそう!」

 コレットが子供のように跳ね回り、リアムの腰にしがみつく。

 館そのものである彼女の喜びは、城の石壁を伝わって、微かな温もりと音楽のような共鳴を周囲に振りまいていた。


 そして、この宴の主役であるアストレアが、ゆっくりと城のバルコニーから舞い降りてきた。

 八枚の翼を優雅に広げ、空中で一度宙返りをすると、彼女はリアムの目の前に着地した。


「……リアム。……この景色、私が守っていた数千年前の世界よりも、ずっと……『正しい』わ。……貴方が、この世界の欠陥を直してくれたのね」


「……いえ。……僕はただ、住み心地を良くしただけですよ、アストレアさん」


「……謙遜しないで。……貴方の手は、神の奇跡よりもずっと温かいわ。……さあ、皆。……この尊き職人(領主)に、最大限の祝福を捧げなさい!」


 アストレアが杖を掲げると、空から黄金色の羽が雪のように舞い落ちた。

 それは触れた者の心身を浄化し、幸福感で満たす「神の祝福」。

 人々は一斉に歓声を上げ、リアムの名を呼び、聖域の誕生を祝福した。


 宴は夜更けまで続いた。

 焚き火の周りでは、難民だった若者たちが自警団と手を取り合って踊り、エルフの精霊たちは光の粒となって夜空を彩る。

 屋根の上に陣取った古龍エインヘイルも、「……騒がしいが、悪くない響きだ」と、満足げに鼻息で小さな花火を打ち上げている。


 リアムは、自分がリフォームしたこの「世界」を眺め、深く息を吐いた。

 

(……追放された時は、どうなるかと思ったけど。……家を一軒直すごとに、家族が増えて、こんなに大きな輪になるなんて)


 職人としての喜びが、胸の奥で熱く込み上げる。

 だが、彼がこの安らぎを噛み締めていると、セレスティアが彼の服の裾をそっと引いた。


「……リアム様。……宴が終わったら、また……私たちの『メンテナンス』の続きを、してくださいますわね?」


「そうよ。……今夜は、アストレアに邪魔されない場所で、じっくりとね」

 エルナが反対側の腕を絡める。


「主殿。……私の筋肉が、また宴の興奮で強張っているのだ。……再度のボルト締めをお願いしたい」

 カミラが真顔で、けれど熱い視線で訴えかける。


「あらぁ、抜け駆けは禁止よぉ。……今夜は五人まとめて、リアムの寝室で『合宿メンテナンス』かしら?」

 ベアトリスが爆弾発言を投下し、コレットが「賛成ー! 私もパパと一緒に寝るー!」と飛び跳ねる。


「……あはは。……みんな、ほどほどにしてね。……明日からは、領地全体の『再建築計画』を始めなきゃいけないんだから」


 リアムは苦笑しながらも、彼女たちの温もりに身を委ねた。

 一軒のボロ館のリフォームから始まった物語は、今、六人の(家を含む)乙女たちとの、終わらない愛の迷宮マイホームへと繋がっていた。


 だが、その祝祭の最中。

 リアムの【魔導設計図】が、遥か彼方――帝都の地下深くに潜む、不気味な「歪み(・・)」を感知した。

 それは、アストレアを封印し、世界を「壊れやすい場所」として設計した者たちが、ついに動き出した予兆だった。


「……帝国、ですか。……いいですよ。……建付けの悪い国なら、僕が根こそぎ『更地』にして、住みやすく直してあげますから」


 職人の逆鱗。

 リアムの瞳に宿る、創造と破壊を同時に司るような鋭い光。

 聖域都市の完成は、次なる巨大な物語――帝都リフォーム編への、輝かしきプロローグに過ぎなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ