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第24.5話【2/6】:女騎士の休息と鎧下のボルト締め

 エルナの部屋を後にし、心地よい疲労感と共に廊下へ出たリアムを待っていたのは、夜の静寂を切り裂くような金属の擦れる音だった。

 カチャリ、と重厚な白銀の足甲が床を叩く。


「……主殿。ようやく終わったか」


 影から姿を現したのは、館の守護騎士カミラ・ヴァレンシュタインだった。

 彼女は兜を脱ぎ、艶やかな金髪を肩に流しているが、その表情はいつになく険しい。腰に下げた長剣の鞘を、苛立たしげに指で叩いている。


「カミラさん。……起きていたんですか? もう深夜ですよ」


「……うむ。警護の最中に、どうにも『建付け』が気になってな。……私の鎧、左の肩当てと腰のボルトが、歩くたびに微かに鳴るのだ。……古龍戦での無理が、今頃になって響いてきたのかもしれん」


 カミラは至極真面目な顔で報告する。だが、リアムがスキル【魔導設計図マテリアル・アイ】で彼女をスキャンすると、問題は鎧の表面にはなかった。


「……カミラさん。それは鎧のせいじゃない。……君の肉体フレームそのものに、深刻な『歪み』が出ている証拠だ。……見てください、肩のラインが設計図より数ミリ沈んでいる。……これじゃあ、いざという時に君という『盾』が砕けてしまうよ」


「な……っ!? 私の身体が、歪んでいるだと……!?」


「ああ。……重すぎる忠誠心と、連日の不眠不休が、君の骨格を蝕んでいる。……よし、今すぐ寝室へ。……全解体メンテナンス(フル・オーバーホール)を敢行する」


 リアムの断固とした職人の眼差しに、カミラは「……承知した」と小さく頷き、自室の扉を開いた。


     *


 カミラの自室は、騎士らしく整然としていた。

 だが、リアムがリフォームしたばかりの「高耐荷重ベッド」の上には、彼女が脱ぎ捨てた白銀の装甲が、まるで抜け殻のように並んでいる。


 現在のカミラは、鎧の下に着込む薄手のインナーシャツとタイツのみ。

 鍛え上げられた、しなやかで力強い四肢が露わになっている。だが、リアムの目には、その白い肌のあちこちに、鎧の重みで圧迫された「赤み」と、ガチガチに固まった筋肉の「強張り」がはっきりと映っていた。


「……カミラさん、そこにうつ伏せになって。……君の脊椎メイン・シャフトから順に、ボルト締め(リフレッシュ)を施していくから」


「……あ、ああ。……まな板の上の鯉、という気分だな。……主殿、好きにするがいい」


 カミラがベッドに身を投げ出す。

 リアムは彼女の背中に跨るようにして、その広い背中へ直接手を置いた。


 瞬間、カミラの背筋がびくんと跳ねた。


「っ……!? ……主殿の手、あ、熱いな……。……ただ触れているだけなのに、皮膚の裏側まで熱が浸透してくるようだ……」


「それは僕の魔力が、君の組織をリフォームしようとしている証拠だよ。……さあ、まずは一番『軋み』が酷い、肩甲骨の裏側からだ。……少し、響くよ」


 リアムはスキル【神の左官ゴッド・ハンド】を全開にし、指先に魔力の「楔」を込めた。

 それをカミラの肩の付け根、筋肉の結節点へと深々と突き立てる。


「っ……あ、あああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 カミラの口から、戦場では決して見せない、女としての絶叫が漏れた。

 リアムの指先は、岩のように固まっていた彼女の僧帽筋を、物理的に「叩き直す」ような衝撃を伴って解きほぐしていく。


「……ここだ。……このボルト(ツボ)が緩んでいるから、全体の強度が落ちるんだ。……締め直すよ、カミラさん!」


「ひ、あ、あああ……っ! だ、だめだ、主殿! ……そこは……私の、剣の力の……源流……っ。……あ、ああ……っ! と、溶ける……っ! 私の、騎士としての理性が、貴殿の指で、とろとろに溶かされていく……っ!」


 リアムの手は、もはやマッサージの域を超えていた。

 彼は彼女の肉体を「守護するための構造物」として愛し、慈しみ、より強固に、より美しく再構築していく。

 脊椎の一つ一つを指先でなぞり、歪んだアライメントを矯正するたびに、カミラの身体から黒い疲労の魔力が霧散し、代わりに黄金色の活力が漲っていく。


「ふぅ。……次は腰周りだ。……ここが一番、鎧の重荷を背負ってきた場所だね。……念入りにリフォーム(愛撫)してあげるよ」


「……っ。……あ、ああ……頼む……。……もう、自分では……どうにもできんのだ……。……主殿……リアム……っ。……貴殿の、その大きな手で……私を、隅々まで……書き換えてくれ……っ」


 カミラは枕に顔を埋め、溢れ出す多幸感に身を委ねた。

 最強の盾と呼ばれた女騎士。誰にも弱みを見せず、常に先頭で立ち続けてきた彼女。

 だが、リアムの「正しいメンテナンス」の前では、彼女はただの、愛されたがっている「欠陥を抱えた住人」に過ぎなかった。


 一時間後。

 作業を終えたリアムが、汗を拭いながら立ち上がった。

 カミラの身体は、まるで見違えるように瑞々しい輝きを放ち、その呼吸は深く、穏やかなものへと変わっていた。


「……完了だ。……これで明日からは、鎧が羽のように軽く感じるはずだよ、カミラさん」


 リアムが彼女の肩に手を置くと、カミラはゆっくりと身体を起こし、潤んだ瞳でリアムを見上げた。

 普段の武骨な雰囲気はどこへやら、そこには熱に浮かされたような、艶然たる美女がいた。


「……主殿。……貴殿は、残酷な男だな」


「え? ……何か、不手際が?」


「……いや。……完璧すぎて、困っているのだ。……こんなに身体を軽くされ、心まで隙間なくリフォームされては……。……私はもう、貴殿のそば以外では、立っていることすらできん」


 カミラは震える手でリアムの腕を掴むと、そのまま彼をベッドへと引き寄せた。


「……主殿。……今夜だけは、騎士の鎧を脱がせてほしい。……この、貴殿が作り直してくれた私の身体を……朝まで、点検し続けてはくれまいか?」


 騎士の忠誠心が、究極の執着へと変換された瞬間だった。

 リアムは彼女の想いに応えるように、そっとその肩を抱き寄せた。


     *


 翌朝、カミラが「主殿との連携訓練」と称して、以前よりも三割増しの美貌と破壊力を身につけて現れたことで、リビングにいたセレスティアたちが絶叫することになる。


「……カミラさん! 貴女、顔色が良すぎる上に、腰のラインがリフォームされすぎて艶めかしくなってますわよ!!」

「……あいつ、絶対ボルト締め以上のことされたわね……! 私の順番、まだなの!?」


 聖域の城に、新たな「メンテナンス競争」の嵐が吹き荒れる。

 職人リアムの長い夜は、まだ三分の一を過ぎたばかりだった。


Q:リアムの「ボルト締め」の原理は?

A: 建築における接合部の強化を、解剖学的にカミラの筋肉や経絡けいらくに応用したものです。リアムの魔力が彼女の骨格に直接作用し、歪みをミリ単位で修正したため、彼女は人生で最も「身体が軽い」状態を経験しました。

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