エピローグ
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中世を思わせる節回しの歌を、少々調子外れのしわがれた声で歌ったエジェーン婆が口を噤んだ。
物語に耳を傾けていた人々は、暖炉の火に見入り、暫く余韻に浸っていた。
老婆の足元に座っていた少女が、ほうっと溜息を吐く。
「そして二人は沢山の子に恵まれ幸せに暮らしました。めでたし、めでたし」
沈黙を破り、おどけたようにそう言った若い男に、隣に腰掛けていた恋人らしい娘が肘鉄砲を食らわす。
「さて、夜も更けたことだし、そろそろ寝に行くとするか」
「おやおや、また雪が降り出したようだよ」
「今年の冬は冷えるねえ」
村人達が立ち上がり、糸車や農具を片付けるのを眺めていた娘が尋ねた。
「でも二人は幸せになったのでしょう?」
エジェーン婆は糸車を脇に退けながら答えた。
「そりゃ好き合った男と結婚したんだから幸せだっただろう。それが長続きしたかどうかは分からないが。当時は戦が多かったからねえ」
娘の恋人が相槌を打つ。
「飢饉や流行病もあっただろうしなあ」
「絶対に幸せになったわよ」
怒ったようにそう断言する娘を見て、中年の女が呆れたように言う。
「何をむきになっているんだい、アナヴァリ? おまえさんが好きな男と幸せになりゃいいじゃないか。親父さんに許してもらえたんだろ?」
隣にいた男が顔をくしゃくしゃにして笑う。
「そうなんですよ。やっと許してもらえて、春には結婚できることになったんです」
「そりゃ、春が来るのが楽しみだな」
アナヴァリと呼ばれた娘は、外套に包まり黒い艶やかな髪に頭巾を被ると、カンテラを提げた恋人と手を繋いで外に出た。
雪が舞う暗い空を見上げアナヴァリは呟いた。
二人が幸せになってくれていないと、私達も幸せになれない気がするの。
きっと幸せになって長生きして、子供は男の子と女の子が生まれたのだろう。
きっと……
「早く春が来るといいわね」
アナヴァリは恋人の手をしっかりと握り直すと、仲良く雪の道を帰って行った。