表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/54

第三章 19 ノイス・ダルタイン=ライゴー

「ノイス・ダルタインだ。ゼラ・シュナイダーに面会に来た」


 ノイスはヴァーチャル・ディスプレイ上の受付ボットに言った。ボットはロード時間を誤魔化すため、わざとらしく画面内のデバイスをいじってみせてから、うなずき返してくる。


「ノイス様ですね。ゼラ・シュナイダー様の病室は02Bです。入館の際は、そちらのバンドをつけて頂くようお願いします」


 指示通りに発行されたバンドを身につけ、ノイスは入院棟へと踏み入った。


 かつて病院で誕生したミクシアは、後に刑務所の囚人に植え付けることが構想されていたという。人間の身体を管理する、という意味で病院と監獄のシステムは似ているからだ。


 違法ミクシアの流出によってその構想は頓挫したが、結果として、世界は巨大な監獄となったのではないかとノイスは思う。その一方で、もしも最初期にミクシアの適正な管理が行えていたのであれば、誰もが当たり前にミクシアと共生する世界になっていたのではないか。


 ──そんな「もしも」を構想するなど、私も甘くなった。


 ノイスは血筋による利権によって過剰な利益を得ていると自覚しているし、それに対して何とも思ってこなかった。ライゴー一族やダルタイン家内での権力闘争に打ち勝つことの方が、遙かに意義のあることだったからだ。


 しかし、ルイモンド島でエレカという腹違いの妹であるミクシアンと話してから、その存在が遅効性の毒のようにノイスの精神に効いてきた。彼女は普通のオルガンが決して抱くことのない、遙かに複雑な葛藤を抱えた存在だった。その心が耐える苦しみに、ノイス自身も侵されてしまったらしい。


 思えば、今までノイスはミクシアンとろくに話したことがなかった。あるとしても、ビジネス上の不均衡な関係性の中だけ。同じように多くのオルガンがミクシアンのことを知らず、単純な想像力から野蛮な連中と思い込んでいるのだ。それに比べれば、複雑さの中でもがき苦しむミクシアンこそ、生命としての輝きを帯びているように見えてしまう。


 ──俺たちとミクシアン、どちらがより野蛮な生物なのだろうな。ヤグ。


 ノイスはその病室の前で立ち止まる。ゼラ・シュナイダーは偽名で、そこにはミクシアン襲撃事件で心神喪失したヤグが入院していた。

 今日、「リズカード」の面々が彼女の本拠地に踏み込む予定になっている。その際、報告を受けたヤグが妙な動きをしないように、見舞いという体裁で見張るのがノイスの役割だった。


 受付でもらったバンドに反応して病室の扉が開く。


「ヤグ、来たぞ……って、は?」


 そして、中の様子を見て目を見張った。

 ベッドはもぬけの殻だった。

 ベッドの上に放置されたヤグのデバイスを見ると、今日、敵対勢力が「女神」のもとへ襲撃してくるらしい、というメッセージが表示された。


「結局、情報ダダ漏れじゃねえか。ライゴー、くそみたいな組織だな!」


 ノイスは溜め息を吐くと、誰もいないベッドに思い切り倒れ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ