第三章 12 リズカード・オーウェン
事務所でリズカードはひとり、考えていた。
「……エレカ」
嘆息が漏れる。エレカが情報を漏らした、という事実にリズカード自身も動揺していたのだろう。彼女の抱える不安に対して、安易な慰めを与えようとしてしまった。真っ先にするべきだったのは、ネナの居場所を伝えて「もう大丈夫だ」と伝えることだった。
結局、何一つ、リズカードはわかっていなかったのかも知れない。中世で最も近くにいてくれたネナのことも、現代で最も近くにいてくれたエレカのことも。
ただ、究極のところ──わからないなんて、当たり前のことだ。
全てがわからない闇のただ中にあるからこそ、信じることの恐怖が意味を帯びてくる。
リズカードは掌の割れた小瓶を見つめ、いつか自分の言った台詞を思い出す。
──この小瓶は君の心と思って大切に使うし、何があっても決して君をひとりにしないと誓う。
今も、リズカードは信じなければならない。ネナはヤグの味方でいながら、リズカードの知るネナのままだということ。そして、エレカがリズカードの誓いを思い出し、必ず帰ってくるはずだということを……それは願望とは違う。大切な何かを守るための大きな賭けだった。
やがて、大泣きしたフーロが戻ってきた。リズカードの顔を見るなり大声で怒鳴ってくる。
「リズ様! 何そんなとこでボケっとしてんだよ! エレカちゃん、行っちゃったよ! エレカちゃんが死んじゃったら、リズ様のせいだぞ!」
「……いや、俺たちの紐帯はそんなやわじゃない。エレカは死なない。必ず生きて戻る。彼女なりの答えを携えてな」
リズカードは静かに息を吐くと、ぐっとスマートデバイスを握りしめて言った。
「そんな彼女を救いたい、全てのミクシアンと共に。だから、ボス、協力してくれ」
せめて、自分がもたらしたものの責任は取らなければ。




