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俺を振った幼馴染が、転校先で「初めまして」と笑っていた  作者: 楽五郎


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37話 好きな人くらい、自分で決める

次の当番の日、図書室へ向かう途中で声が聞こえた。


自動販売機の前に、綾乃先輩と榊原先輩がいる。


「本当に言うのか」


榊原先輩の声だった。


「言うよ」


「篠宮が好きだと分かってる相手に?」


「分かってるから、言わずに終わらせろって?」


「そこまでは言ってない」


「榊原君は、いつも答えの手前まで決めるよね」


角を曲がれば、二人からもこちらが見える。


立ち聞きをするつもりはなく、足を進めた。


「相沢」


先に気づいたのは榊原先輩だった。


綾乃先輩が振り返り、困った顔になる。


「どこから聞いてた?」


「本当に言うのか、からです」


「ほとんど最初だね」


綾乃先輩は額へ手を当てた。


榊原先輩は気まずそうにもしない。


「ちょうどいい。お前も聞け」


「榊原君」


「綾乃。お前が自分で決めるなら、隠す必要もないだろ」


「言う時期まで私が決めたいの」


「それは悪かった」


榊原先輩はすぐに引いた。


綾乃先輩が長く息を吐く。


「相沢君。今のは忘れて」


「難しいです」


「だよね」


「でも、続きを聞くつもりはありません」


図書室へ向かおうとすると、綾乃先輩が呼び止めた。


「待って」


自分から止めたあと、榊原先輩を見る。


「ここまで聞かれたなら、もう一度だけ確かめる。榊原君は、私が感謝を恋と間違えてると思う?」


「可能性はあると思ってる」


「理由は?」


「お前は、自分の望みを聞かれることに慣れてない。初めて待ってくれた相手を、特別に感じすぎてるかもしれない」


正しい指摘だった。


綾乃先輩も、怒らずに受け止める。


「私も最初はそう思った。体育祭で走れたから、嬉しかっただけかもしれないって」


「今は違うのか」


「違う」


「どう分けた?」


綾乃先輩が俺を見る。


「感謝だけなら、相沢君に急に避けられても、あんなに腹は立たなかった。篠宮さんが迎えに来たとき、二人で帰るのが嫌だとも思わなかった」


「それは独占欲だ」


「うん。綺麗じゃないけど、私の気持ち」


榊原先輩は黙る。


綾乃先輩は言葉を続けた。


「相沢君は、思ってたより頑固。自分が正しいと思うと、相手に聞かずに離れる。気を遣ってるつもりで、余計なことも言う」


「本人の前で言います?」


「褒める話じゃないから」


綾乃先輩は少し笑う。


「でも、間違えたあとに戻ってきた。私が怒っても、言い訳でごまかさなかった。誰かの影を見ていたことも、嫌われると分かって話した」


胸の奥が熱くなる。


「私は、いいところだけを見てるわけじゃない。感謝してるだけでもない」


「振られると分かってても?」


「それは相沢君が決めること。私が言う前から榊原君が決めないで」


「止めたいわけじゃない」


榊原先輩の声がわずかに揺れた。


「傷つくと分かってるから聞いた」


「ありがとう。でも、傷つかないために選ばないのは、もうやめる」


綾乃先輩は自動販売機へ硬貨を入れた。

桃のジュースとミルクティーを見る。

迷った末に、桃を押した。


「やっぱり迷うんですね」


「大事なことを決めたからって、何でも即決できる人にはならないよ」


缶を取り出し、自分で蓋を開ける。


「それに、迷う時間も私だから」


一口飲んでから、俺へ向き直った。


「相沢君。明日の放課後、ここへ来てくれる?」


「図書委員の日ではないですけど」


「知ってる。仕事じゃなくて、私が来てほしい」


「分かりました」


「今度は、私が選んだ答えを聞いて」


俺がうなずくと、綾乃先輩は安心したように笑った。

榊原先輩は何も言わなかった。

ただ俺と目が合ったとき、逃げずに答えろというように、一度だけ顎を引いた。


     ◇


その日の帰り、日和へ明日の約束を話した。


「白石先輩、言うんだ」


「まだ何をとは聞いてない」


「それで分からないほど、直哉も鈍くないでしょ」


日和は歩きながら、鞄を強く抱えた。


「嫌?」


「嫌。逃げてほしいくらい」


「じゃあ、行かないほうがいいか」


「それはもっと嫌」


日和が足を止める。


「白石先輩が、自分で決めて直哉へ言うんだもん。ちゃんと聞いて、直哉も決めて」


「分かった」


「もし先輩を選んだら、すごく怒るけど」


「それでも自分で決めろって?」


「うん」


矛盾したまま、日和はうなずいた。


「怖いけど、直哉の答えを私が先に決めるよりいい」


日和は再び歩き出す。


「だから明日、逃げないでね」


それは綾乃先輩のためだけではなく、自分自身へ向けた言葉にも聞こえた。


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