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俺を振った幼馴染が、転校先で「初めまして」と笑っていた  作者: 楽五郎


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34話 好きだから、離れる

翌朝、家を出ると美緒が立っていた。

前と同じ電柱の横だった。


「もう待たないって、昨日送っただろ」


「うん」


美緒は制服の袖を握る。


「でも、返事がなかったから」


「返事をしないことが返事だ」


「それを、自分の目で見たかった」


一晩泣いたのか、目が赤い。いつものように笑おうともしなかった。


「高瀬は、担任に何を話した?」


「告白して振られたって。それ以上は言ってない」


「そうか」


「直哉が先生を呼んだんだね」


名字にも君にも戻らない。


「一人にできなかった。でも俺が残るべきじゃないと思った」


「正しいね」


美緒は小さくうなずく。


「全部、直哉が正しい。私が変で、日和を裏切って、直哉を困らせた」


「正しいか間違いかだけで終わらせるな」


「じゃあ、どうすればよかったの?」


「好きになったことは悪くない。嘘をついて、俺たちの選択を奪ったことが駄目だった」


「好きなのを止められなかった」


「気持ちが止まらなくても、行動は止めないといけない」


美緒は俯いた。


「分かってる。でも、直哉を見ると分からなくなる」


足音が近づく。

日和が道の角から現れた。


昨夜、俺が美緒に告白されたことと、返事をしたことを話した。今朝は一緒に登校すると約束していた。


美緒を見つけた日和の足が止まる。


「美緒」


「日和も来るんだ」


「直哉と約束したから」


美緒の顔がまた歪む。


「やっぱり、私より先に約束する」


「直哉は私を好きだって言った。美緒にも、そう答えたんでしょ」


日和は俺の後ろへ隠れず、美緒の正面へ立った。


「うん。でも、日和はまだ返事してない」


「してないよ」


「だったら、私にも」


「ない」


俺が遮る。


「日和の返事と、高瀬への返事は別だ。日和にまた振られても、高瀬を待たせる理由にはならない」


美緒の目から涙が落ちる。


「そこまで言わなくても」


日和が一瞬こちらを見る。


それでも、俺の答えを否定しなかった。


「そこまで言わないと、美緒は都合のいい途中に変えちゃう」


日和が美緒へ言う。


「私も、直哉の気持ちを信じられなくて振った。だから美緒に偉そうなことは言えない」


「じゃあ譲ってよ」


「嫌」


返事は早かった。


「私は直哉が好き。美緒が私より直哉を幸せにできるって言っても、はいそうですかって渡さない」


「日和は、一回捨てたじゃん」


「捨ててない!」


日和の声が朝の道へ響く。


「好きだったから受け取れなかったの。理由はまだ美緒に話せない。でも、直哉をいらないと思ったことなんて一度もない」


「だったら、どうして私に何も言わなかったの」


「怖かった。美緒に嫌われるのも、直哉が誰かを好きになるのも。全部隠したまま、自分だけやり直そうとした」


日和は唇を噛み、一度言葉を止める。


「それで美緒を傷つけた。ごめん。でも、私が悪かったことと、美緒が端末を触ったことは別。友達だからって、そこまで許せない」


美緒は何も言えなかった。

日和も泣いていた。


「私、今も美緒が大事。だけど今は、二人でいるのが怖い」


「私も、日和を見ると直哉を取られるって思う」


「取るんじゃない。直哉が決めるの」


「分かってるよ!」


美緒が頭を抱える。


「分かってるのに、直哉が日和を見ると嫌なの。日和が名前を呼ぶだけで、私の知らない時間を見せつけられてるみたいで、消したくなる」


「何を消したい?」


俺が尋ねる。

美緒が顔を上げる。


「日和との十年。白石先輩と話した放課後。私より先に直哉を知ってる人、全部」


「それを消したら、俺じゃなくなる」


美緒の呼吸が止まる。


「あのとき俺が見つけた高瀬も、今の高瀬も、どっちも本当なんだと思う」


美緒は黙って聞いている。


「人をがっかりさせるのが怖くて笑ってた高瀬も、俺を取られるのが怖くて嘘をついた高瀬も、都合の悪いほうだけ偽物にはできない」


「そんな私、嫌い?」


「したことは嫌だ。怖いとも思った」


美緒の肩が震える。


「でも、嫌われたくないからって、俺の気持ちまで高瀬が決めていいわけじゃない」


「私を好きにならないって?」


「そうだ」


長い沈黙が落ちた。

通勤や通学の人が、俺たちを避けて通り過ぎていく。

美緒は何度も息を吸い、ようやく顔を上げた。


「まだ好き」


「うん」


「日和より好きになれるって、今も思ってる」


日和の指が動く。それでも言い返さなかった。


「だから、離れることにするよ…」


美緒が一歩下がる。


「直哉を見ると、また自分に都合のいい答えを作るから。日和を見ると、傷つけたくなるから」


「美緒」


日和が名前を呼ぶ。


「おめでとうは言わないよ。二人が付き合っても、絶対に喜べない」


「まだ付き合ってない」


「たぶん、このままだとそうなる」


美緒は泣いたまま、少しだけ口元を緩めた。


「ずっと見てたから、それくらい分かる」


「学校は?」


俺が聞く。


「普通に行く。席も同じクラスも変えられないから。でも、朝は待たない。メッセージも送らない。二人きりになろうとしない」


「守れるか?」


「多分」


正直な答えだった。

美緒は日和を見る。


「日和にも謝らない。今謝ったら、許してもらえるって期待するから」


「うん。私も今は許せない」


「そっか」


美緒は俺たちと反対の方向へ歩き出す。

数歩進み、振り返らずに言った。


「好きだから、これ以上嫌われる前に離れる」


美緒の背中が見えなくなるまで、日和はその場を動かなかった。


「追いかけたい?」


「追いかけたら、美緒が決めたことを壊すから」


日和は涙を拭う。


「学校へ行こう。遅刻したら、美緒にまで笑われる」


無理に明るくした声ではなかった。

傷ついたまま、それでも自分で前へ進むための声だった。


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