↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺を振った幼馴染が、転校先で「初めまして」と笑っていた  作者: 楽五郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/42

31話 そのメッセージ、私は送ってない

翌朝、美緒はいつもと同じ顔で教室へ入ってきた。


「おはよう、相沢君」


「おはよう」


返事をすると、少し安心したように笑う。

日和にも声をかけた。


「日和、おはよう」


日和は美緒を見た。


「放課後、昨日の教室で話したい」


挨拶には答えなかった。

美緒の笑顔が止まる。


「相沢君も?」


「三人で」


「分かった」


美緒は自分の席へ向かう。

その背中を、日和は最後まで見ていた。


「直哉。昨日の画面、残ってる?」


「消してない」


「そっか」


日和は前を向く。


机の下で握った拳だけが、怒りを隠していなかった。


     ◇


放課後、昨日クラス旗を畳んだ教室へ三人で残った。

ほかの生徒が出ていくまで、誰も口を開かなかった。


最後の扉が閉まる。

日和は自分のスマートフォンを机へ置いた。


「美緒。昨日、私が職員室へ行ってる間、この端末を触った?」


「写真を見てたから、机にはあったよ」


「触ったか聞いてる」


日和の声が強くなる。

美緒は俺を見た。


「何かあったの?」


俺は昨日届いた、先に帰るよう促すメッセージを開き、美緒へ見せる。


「この返事、日和は送ってない」


美緒は画面を見つめる。


「じゃあ、誰かに触られたのかな」


「教室には、美緒しかいなかった」


日和の声が震えた。


「私、美緒が送ったんじゃないって言ってほしい」


「日和」


「でも、ほかに誰もいない。だから美緒の口から聞きたい」


美緒は何も言わない。


「送ったの?」


長い沈黙のあと、美緒が椅子へ座った。


「一回だけ」


「送ったのが一回でも、嘘はそれだけじゃない」


美緒が俺を見る。


「教室の前で、日和は一度戻ってきたって言っただろ。あれも嘘だった」


日和の息が止まる。


「直哉から通知が来て、画面が開いたままだった。日和が戻ってきたら、直哉と二人で私の話をするって分かった」


「だから、私のふりをしたの?」


「少しだけ、相沢君と一緒にいたかった」


「私の名前を使って?」


「返事をしただけだよ」


「返事をしただけじゃない!」


日和が机を叩いた。

美緒の肩が跳ねる。


「私の言葉みたいに直哉へ嘘をついて、送った記録まで消して、直哉の前でも嘘を重ねた。私が何を考えてるか、直哉がどう受け取るか、全部勝手に決めたんだよ」


「日和だって、相沢君に初対面だって嘘をつかせた」


「だから、私と同じことをしていいと思った?」


「違う」


「じゃあ何?」


「日和には、ずっとあったから」


美緒が立ち上がる。


「昔の相沢君も、今の相沢君も、これから話す約束も。私には何もない。一回くらい、私が相沢君との時間を作ってもいいと思った」


「それは、直哉が選んだ時間じゃない」


日和が即座に言う。

美緒が俺を見る。


「昨日、私と話したの、嫌だった?」


「話したこと自体を嫌だったとは言わない」


美緒の目に、わずかな期待が戻る。


「でも、日和が送ったと思ったから残った。最初から高瀬が嘘をついたと知ってたら、一緒には行かなかった」


「どうして?」


「俺の選択を奪ったからだ」


「旗を運ぶのは必要だったよ」


「必要なことを使って、二人きりを作っただろ」


美緒の唇が震える。


「相沢君に嫌われたくなかった」


「なら、どうして嘘をついた」


「止められなかったの!」


初めて、美緒が声を荒らげた。


「通知に相沢君の名前が出て、日和だけに話したいって書いてあって、そのまま二人で帰るって思ったら、手が動いてた。駄目だって分かってたのに、送ったら相沢君が私のところへ来てくれるって思った」


呼吸を整えられず、美緒は胸元を押さえる。


「本当に来てくれた。私の話を聞いてくれた。あのときは、嘘をついてよかったって思った」


日和の目から涙が落ちた。


「それを、私に言うんだ」


「日和には分からないよ」


「分からない。分かりたくもない」


日和は涙を拭う。


「私は、美緒が直哉を好きでも友達でいたかった。嫉妬するし、譲る気もないけど、美緒の気持ちを嘘にしたくなかった」


「私は、日和と友達のままじゃ相沢君を好きになれない」


美緒の声が静かになる。


「日和の顔を見るたび、日和のほうが相沢君を知ってるって思う。笑って話を聞くなんて、もう無理だよ」


「そっか」


日和はうなずいた。


「じゃあ、今は友達に戻れない」


美緒の目が揺れる。


「私も、美緒を信じられない。端末も、直哉との約束も、もう預けられない」


「日和」


「それでも、美緒をみんなの前で責めたりしない。直哉を使って仕返しもしない」


日和は自分の鞄を持った。


「でも、なかったことにはしないから」


教室を出ようとする。

美緒が背中へ声をぶつけた。


「日和が相沢君を振ったんでしょ!」


日和の足が止まる。


「だったら、私が好きになってもいいじゃん」


振り返った日和の顔には、涙と怒りの両方があった。


「好きになるのは、美緒の自由だよ」


日和は一度、俺を見た。


「でも、直哉は誰のものでもない。私が振ったから空いた席じゃない」


そのまま教室を出ていった。


美緒は追わなかった。

俺もすぐには動けなかった。

机の上では、日和の端末だけが消えた画面をこちらへ向けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。