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俺を振った幼馴染が、転校先で「初めまして」と笑っていた  作者: 楽五郎


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30/42

30話 日和のふりをして、返事をした

自販機から教室の前へ戻ったところで、日和から返事が来た。


『今日は先生と話があるから、先に帰って。美緒のことは明日話そう』


終わったら話す約束だったのに、急な返事だった。

俺が廊下を離れている間に、端末を取りに戻ったのだろう。


『分かった』


それだけ返し、階段へ向かう。

背後で教室の扉が開いた。


「相沢君、帰るの?」


美緒が顔を出す。


「日和が先に帰っていいって」


「そっか」


少しも驚かなかった。


「高瀬は、もう話さなくていいのか?」


「日和、すぐまた職員室へ戻ったから、今日は終わり」


「何を話した?」


「相沢君のこと」


美緒は教室へ戻り、畳みかけの旗を持ち上げる。


「これ、資料室へ運ばないといけないんだ。一人だと引きずりそうだから、手伝ってくれる?」


「日和が戻ってからでいいだろ」


「先生との話、長いかもしれないよ。今日中に戻してって言われてる」


旗は支柱から外しても大きい。


作業そのものは必要だった。


「資料室までだぞ」


「うん。ありがとう」


美緒は旗の片側を俺へ渡した。


     ◇


二人で廊下を歩く。

美緒はいつもよりゆっくり進んだ。角を曲がるたび、旗の端を持ち直す。


「高瀬。話す前より元気になってないか?」


「日和に言いたいこと、少し言えたから」


「仲直りした?」


「してないよ」


答えは明るい。


「日和は、私が相沢君を好きだって決めつけてる」


「違うのか?」


「相沢君は、どう思う?」


質問で返される。


「高瀬の気持ちを、俺が決めることじゃない」


「白石先輩にも同じこと言った?」


足が止まりかけた。


「どうして先輩が出てくる」


「やっぱり、何かあったんだ」


「試すような聞き方をするな」


「ごめん」


美緒はすぐ謝った。


「日和も白石先輩も、私の知らないところで相沢君と話してるから。聞かないと、また何も知らないままになる」


「聞き方の問題だ」


「普通に聞いたら、教えてくれる?」


「俺一人の話なら」


「じゃあ、今、好きな人いる?」


廊下の真ん中で、質問だけがまっすぐ飛んできた。


「いる」


「日和?」


「そうだ」


美緒の歩みが止まる。


旗が間へ垂れた。


「振られたのに?」


「振られたら、すぐ嫌いになるわけじゃない」


「日和が、もう付き合わないって言っても?」


「それでも、今の気持ちは変わらない」


「今は、なんだ」


美緒が小さく呟く。


「何?」


「ずっとじゃないなら、変わることもあるよね」


「その可能性を待つつもりか?」


「駄目?」


美緒は笑っていなかった。


「高瀬が誰を好きになるかは、高瀬が決めればいい。でも、俺が日和を好きだと知ってるなら、その答えも見てくれ」


「見てるよ。ずっと見てる」


返事が早すぎた。


「日和を見る相沢君も、白石先輩を気にする相沢君も。私といるときより、二人のことを考えてる時間のほうが長い」


「それを数えてるのか?」


「数えたくなくても分かるの」


美緒は旗を強く握った。


「相沢君に見つけてもらってから、相沢君が誰を見てるかばかり気になる。止めたいのに、止まらない」


初めて、自分の変化を怖がる声だった。


「日和と話したのは、そのことか?」


「うん。日和は、私を止めたいって」


「俺も、今の高瀬は心配だ」


「心配してくれるなら、そばにいて」


美緒が旗を離し、俺の袖をつかむ。


「それはできない」


「どうして?」


「俺がそばにいれば落ち着くんじゃなくて、もっと俺だけになるからだ」


美緒の指が震えた。

それでも、すぐには離れない。


「相沢君は、私が苦しくても日和を選ぶんだ」


「高瀬を助けることと、恋人になることは同じじゃない」


「まだ告白してないよ」


「なら、今のうちに言う。俺を手に入れれば全部よくなると思うな」


言葉がきつくなった。

美緒は傷ついた顔をしたあと、袖から手を離す。


「資料室、行こう。旗、汚れちゃう」


話を終わらせるように、再び端を持った。


     ◇


旗を資料室へ戻し、昇降口へ向かった。

美緒は帰り道へ誘わなかった。


「今日は、ここで帰るね」


「ああ」


「手伝ってくれて、ありがとう」


いつもの笑顔だった。

ただ、俺が靴を履き替えるまで、その場から動かなかった。


校門を出たところで、スマートフォンが震える。

日和からだった。


『どこ? 話、終わったよ。昇降口で待ってる』


足を止める。


『先に帰ってって言っただろ』


すぐに電話がかかってきた。


「直哉、何の話?」


日和の声は、本当に分かっていなかった。


「メッセージ。先生と話すから先に帰れって」


「送ってないよ」


「日和の端末から来てる」


「私、職員室へ行ってから、話が終わるまで教室には戻ってない。端末も置いたままだった」


二人とも黙った。

あのとき、教室に残っていたのは美緒だけだった。


「直哉。そのメッセージ、消さないで」


日和の声から明るさが消える。


「明日、美緒に聞く」


「俺も行く」


「うん。今度は三人で話す」


通話を切り、振り返る。

校門の向こうに、美緒の姿はもうなかった。


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