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俺を振った幼馴染が、転校先で「初めまして」と笑っていた  作者: 楽五郎


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17/42

17話 見てほしかったのは

体育祭前日の朝、教室へ入ると、美緒はすでにクラス旗を広げていた。


その隣では、日和が眠そうな顔で机へ頬杖をついている。


「本当に来たのか」


「来ます。約束に途中参加したので」


「途中参加って自覚はあるんだ」


美緒が旗の向こうから笑う。

俺は鞄を置き、二人のところへ行った。

絵の具は乾いている。紺色の布の中央で、翼を広げた白い鳥が朝日に浮かんでいた。


「どう?」


美緒が尋ねる。


「乾いてるな」


「感想がそこ?」


「ちゃんと鳥に見える」


「最初から鳥だよ」


美緒が口を尖らせる。


日和は欠伸を噛み殺しながら、俺の肩を指でつついた。


「相沢君、作った人が聞きたい答えを考えて」


「相沢君に教えたら意味ないじゃん」


「放っておくと、一生乾き具合しか見ないよ」


二人に責められ、もう一度旗を見る。


下書きの段階では、白い鳥の翼は左右同じ高さだった。今は右の翼だけが少し上がり、風へ向かって飛び出すように見える。


「最初より、飛んでる感じがする」


美緒の顔から不満が消えた。


「どこでそう思った?」


「右の翼。直しただろ」


「分かるの?」


「昨日、そこだけ線が残ってた」


美緒が旗を押さえていた手を離す。


「ちゃんと見てたんだ」


「一緒に塗ったからな」


「うん」


たったそれだけで、美緒は鳥より嬉しそうに笑った。


日和が旗を挟んだ向こうから、俺と美緒を見比べる。


「私も、放送の練習をしたんだけどなあ」


「昨日聞いた。先生の名前を二回間違えてた」


「そこじゃなくて、声のほう」


「聞きやすかったよ」


「雑」


日和が旗の端を持ち上げる。


「明日は絶対、もっとちゃんと聞いてもらうから」


「仕事しながらな」


「美緒の旗はずっと見えるのに、私の放送は仕事のついで?」


「旗と張り合うなよ」


「旗じゃないもん」


日和は美緒を見た。


美緒も、笑ったまま視線を返す。


二人の間で、俺の知らない会話が終わったように見えた。


     ◇


放課後は、明日の競技順と担当を最後に確認した。


航平は用具係として朝から倉庫へ行く。日和は開会式から午前の終わりまで放送席。俺は応援席の設営と、競技の合間に用具を運ぶ。


美緒はクラス旗を管理しながら、午後の二年生混合リレーへ出ることになっていた。


「高瀬、リレーに出るのか」


「今さら?」


「旗の仕事ばかりしてたから知らなかった」


美緒は机から競技表を取り、俺の前へ広げる。


「十二時四十分。相沢君の綱引きより前」


「俺の時間まで覚えてるのか」


「一時十分でしょ」


今度は綱引きの開始時間まで即答された。


「競技表を見ただけだよ」


「森川の種目は?」


「知らない」


近くで段ボールを運んでいた航平が振り返る。


「高瀬、そこは一応考えるふりをしろよ」


「森川君は一日中、綱を数えてるんじゃないの?」


「俺を綱から解放してくれ」


教室に笑いが起きる。


美緒も笑ったが、競技表の俺の名前へ指を置いたままだった。


「相沢君。私のリレー、見てくれる?」


「応援席に戻れれば」


「戻ってきて」


重ねる声が、思ったより強かった。


「旗の前にいるから。見つけやすいよ」


「分かった。間に合うようにする」


「約束ね」


美緒が競技表を畳む。


その横から、日和が自分の放送原稿を差し込んできた。


「私との約束が先です」


「何の話だよ」


「放送、ちゃんと聞くって約束」


「いつした?」


「今します」


日和が俺の手へ原稿を押しつける。


「白石先輩のリレーだけ見て、私の声を聞き逃したら怒るから」


「高瀬のリレーも増えたぞ」


「増やさなくていいの」


「日和が決めることじゃないでしょ」


美緒は明るい口調で言った。


日和もすぐに言い返す。


「じゃあ相沢君が決めればいいよ。誰を見るか」


二人の視線が、同時にこちらへ向いた。


「全部見る。係の仕事に間に合う範囲で」


「欲張り」


日和が呆れる。


美緒は、俺の答えに満足したようだった。


「じゃあ、一番に見つけてもらう」


「旗があるからな」


「……やっぱり分かってない」


「何が?」


美緒は答えず、競技表で俺の肩を軽く叩いた。


「明日になったら、分かるかもね」


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