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俺を振った幼馴染が、転校先で「初めまして」と笑っていた  作者: 楽五郎


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11話 幼馴染と、体育祭係になった

体育祭まで、あと二週間。

俺と日和は放課後の教室で、黒板の前に並んでいた。


「まず、クラス旗のデザインを決めます。何か案がある人?」


日和が尋ねると、教室のあちこちから声が飛んだ。


「強そうな動物!」


「可愛いのがいい!」


「去年と違う色!」


「全部入れたら、可愛い色の強そうな動物になるけど」


日和がチョークを持ったまま振り返る。


「それでいい人?」


笑いが起きた。

まとまりのなかった声がいったん止まり、日和が黒板へ大きく三つの欄を作る。


「動物、色、文字。分けて決めよ。相沢君、出た案を書いて」


「もう人を使うのか」


「二人で準備係でしょ。ほら、早く」


チョークを押しつけられる。

文句を言いながら隣へ立つと、日和は満足そうに次の案を募った。


誰かがふざけた案を出せば笑い、声の小さい生徒が手を上げればすぐに気づく。

意見がぶつかりそうになると、どちらかを切り捨てるのではなく、投票できる形へ整えていく。


日和は自分が真ん中へ立ち、楽しそうに周りを巻き込んでいる。

それでも声の小さい生徒を見落とさず、誰か一人を置いて先へ進むことはなかった。


「相沢君、止まってる」


日和に肘でつつかれる。


「見てただけだ」


「私を?」


「黒板を」


「今、私って言いかけた顔だった」


「人の顔を勝手に読むな」


日和は機嫌よく笑い、投票へ戻った。


     ◇


クラス旗は、紺色の布へ白い鳥を描くことに決まった。

問題は、誰が実際に描くかだった。


「私、下書きならできるよ」


美緒が手を上げる。


「美緒、絵を描けるの?」


日和が驚くと、美緒は胸を張った。


「ノートの端になら、いつも描いてる」


「それ、授業中の落書きじゃないか?」


「相沢君、芸術は場所を選ばないんだよ」


美緒が真顔で言い、近くの生徒たちが笑う。


「じゃあ、旗の下書きは美緒。私も色を塗る」


日和が黒板へ名前を書く。


「森川君は、用具係と出場種目の確認をお願いしてもいい?」


「俺、もう保健委員なんだけど」


「体育祭の日、怪我人を出さないための事前活動です」


「言い方で押し切る気だな」


「駄目?」


日和が両手を合わせる。


「そこまでされたら断れないだろ」


航平が笑って引き受けた。


「相沢君は、全体の締め切りと必要な物をまとめて」


「篠宮は?」


「全部見る」


「一番大雑把じゃないか」


「全体責任者と言ってください」


日和は胸を張る。

その場にいた誰も、無理に仕切られている顔をしていなかった。


役割が決まると、残っていた生徒たちはそれぞれの机へ移った。

美緒は何枚かの紙へ鳥の輪郭を描き、周りにいる女子たちから意見を聞いている。


「翼はもっと大きいほうがいいかな?」


「こっちのほうが速そう」


「クラス名も入れてほしい」


「分かった。何個か作ってみるね」


「美緒、応援札の文字も頼める?」


「いいよ。旗と雰囲気を合わせよっか」


「出場種目の一覧も、見やすく直してほしいんだけど」


「それもやっとく!」


美緒は頼まれるたびに笑い、紙の端へ書き足していった。


     ◇


一時間ほどで、最初の作業は終わった。

廊下へ出ると、日和が俺の前へ回り込む。


「どうでしたか?」


「何が?」


「今の私」


「人使いが荒い」


「ほかには?」


「押しが強い」


「褒めるところ一つもないの?」


日和が頬を膨らませる。


「みんな、楽しそうだった」


不意を突かれたように、日和が瞬きをした。


「篠宮が真ん中にいたから、決めることまで遊びみたいになってた」


「……それ、褒めてる?」


「褒めてる」


「じゃあ、合格にしてあげます」


日和は「合格」とばかりに笑い、次の体育祭係の集まりがあると言って教室を出ていった。


俺は戸締まりをするため、机の上に残った紙を集める。

ほかの生徒が帰っても、美緒はまだ自分の席にいた。


机の上には、旗の下書きだけではなく、応援に使う札、出場種目の一覧、クラス全員へ配る連絡文まで積まれている。


「高瀬、それ全部やるのか?」


「うん。ついでだから」


「ついでの量じゃないだろ」


「大丈夫。こういうの、嫌いじゃないし」


美緒はいつもと同じように笑った。

けれど、ペンを持つ右手は止まったままだった。


教室を出たあとも、その笑顔だけが妙に引っかかった。


美緒は笑っていた。

なのに、少しも楽しそうには見えなかった。


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