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第8話 思い入れ

 家まであと少しというところで、サクラは違和感を覚えた。視線は動かさずに頭上で寛いでいるドラゴンに念話で話しかける。


『なあ、ノア』

『中におるじゃろうな。気配から3人か。お主は何をやらかしたんじゃ?』

『俺はただ、変わった鏃を拾っただけだ!』


 揶揄うように言うノアにサクラは思わず、脳内で怒鳴る。しかし、自宅の場所までバレているとなると、しばらくは家に帰らない方がいいか? と頭は冷静に考える。

 いつ、家がバレたのか。ルルとロイのことはバレていないか? サクラは不安になった。自分やノアがいる時は2人を守れる。しかし、自分たちがいない時に襲撃があったらどうなるのか、考えただけで背筋が凍る。額を嫌な汗が伝った。


 しかし、子供達に襲撃者の存在を知らせて、不安にさせるわけにはいかない。サクラはどうやって、この場を去るか考える。しかし、サクラの考えにノアによって突破口が見つかった。


『とりあえず、妾が中を制圧してくる。その間にお主は今後のことを考えとくんじゃな』


 ノアはそう念話で伝えるとサクラの頭から飛んで家に向かって移動する。パタパタと小さな羽を動かしながら、扉の前に着くと、器用に前足で扉を開けて中に入る。そして、パタンと扉が閉まった。


 その様子をサクラと一緒に見守っていたルルとロイは、首を傾げている。


「ノアが最初に家に入るって珍しいね? サクラさんはなんでかわかる?」


 ノアが喋れるとは夢にも思っていないルルの問いにサクラは若干答えに迷う。ノアが敵を見逃すはずがない、それにこの場は開けた平野だ。他に刺客が隠れている可能性も低い。すぐに、この場を離れる必要はない。ただ、家に入らなければいい話だ。サクラはつい、そちらを考えてしまう。

 そして、その間がいけなかった。


 ガタッ、ゴトン、ドスン。


 家の中から争う、というよりきっと、ノアが1人で無双しているんだろうなという音が響いてくる。サクラは今後のことを考えるより先に、2人への言い訳を考えないといけないことに気付き、自然と息が溢れた。


「ちょっと、サクラさん! ノアが家の物を破壊してるよ!?」

「早く、家に入らないと、破壊され尽くしちゃう」


 ルルとロイが焦る。サクラも内心で、わかると頷いた。でも、子供達を安全が確保できていない家に入れるわけにはいかない。

 さて、どう言い訳をするか。サクラは久しぶりに真剣に考えた。


「まあ、うちに壊れてまずいものはな――」

「あるからね!?」


 とりあえず落ち着かせようと口を開いたが、2人に食い気味で怒られる。サクラは少し、しょぼんと肩を落とした。

 きっと暴れているのはリビングだろう。食器類も机も直したり、買い直せばいい。サクラは本気でそう思っていた。しかし、2人は違ったようだ。


「生活にすべて必要な大切なものしかないよ! 代わりなんてないんだからね、サクラさん!」

「馴染んでたり、思い入れがあったりするからね。初めての自分の物とかたくさんあるんだよ!」


 ルルとロイが必死にサクラにしがみつく。2人の手は震えている。サクラはしまったと思った。2人とも捨て子だ。初めて自分専用の物を当たり前のようにサクラが与えた時に目を輝かせて喜んでいたのを今更ながらに思い出す。

 旅をしていた時間が長かった。だから、サクラには物への執着はない。しかし、2人は違ったのを察することができなかった。きっと、ノアも同じだろうと、少し遠い目をしながら2人の頭を撫でる。


「そうだな、俺が悪かった。ただ、家に入るのはもう少し待ってくれ」

「なんで?」


 上目遣いで2人はサクラを見た。思わずサクラは言葉に詰まった。だが、真実を伝えることはできない。どうしたものか迷っていると、ノアが念話で話しかけてきた。


『終わったぞ。やはり、オウカ国の者じゃ。普段あの国の者は国外に出ないと思っていたのじゃがな。お主、なにか因縁があるのかのう?』

『知らないし、極東の島国なんか行ったことないからな? ……それより、ノア』


 サクラは改まる。オウカ国についても、少し気にはなるが今はそれよりも大事な確認しなければならないことがあるからだ。無意識に唾を飲み込み、念話でノアに尋ねた。


『家のものは壊してないよな……?』

『むっ、妾をなんじゃと思っておる。子供達が大切にしているものを壊すわけがなかろう』


 当然のようにいうノアに、サクラは負けた気分になった。あのノアでさえ、わかっていたことを自分はわからなかったのかとショックは大きい。


「……サクラさん?」


 突然黙ったのが気になったのか、ロイがクイクイとサクラの袖を引く。ルルも不安そうにサクラを見つめている。


「あー、悪い。ちょっとな?」


 サクラは適当に誤魔化して、最も重要だったことをノアに念話で尋ねる。


『刺客は?』

『妾を舐めるんじゃないぞ? 反対の窓から、外に捨ててやったわ』

『室内にはいないんだな?』

『安心せい。匂いも確認して、いないことは折り紙付きというやつじゃよ』


 ノアの言葉に、サクラは安心する。そして、2人を見るとヘラっとした笑いをいつも通りに浮かべる。


「まあ、とりあえず家に入るか」

「もう入っていいの?」

「おう、ノアがかくれんぼしたがってたから、探してやってくれ」


 念話でもノアに隠れるように伝え、了承の返答を得る。ノアも子供達には甘くて助かるとサクラは気付かれないように息をついた。


 家の中は思った以上に綺麗だった。中を確認して言葉を失うぐらいには音の割に壊れているものはない。

 ノアが手加減できるはずがない。壊さないように結界を張ったな? とサクラは当たりを付ける。


「あっ、ノアいた!」

「きぃ!」


 ルルが棚の間を覗き込んでいる。サクラの指示を聞いてそこに隠れたのだろう。嬉しそうにノアが出てきた。

 あまりの優雅さに、本当にさっき戦闘があったんだよな? と不安になる。しかし、よく見ると壁に矢が刺さっていた跡や銃痕がある。

 戦闘があったのは確実だろう。そして、ノアが圧勝したであろう事実も変わらない。

 子供達が寝たら、ノアに聞くかとサクラは考える。


 そして、みんなで夕食の準備をして、食べる。風呂に入り、寝支度を整えて、2人が部屋に戻るのを確認すると、サクラは詰めていた息を吐いた。


『随分と緊張しとったのう』


 机の上に座り、クッキーを食べながらノアはサクラを見ている。そのお気楽な様子にもはや乾いた笑いしか出てこなかった。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、金曜日20時更新予定です。


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