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第7話 ドワーフの建具屋

 サクラは両横にルルとロイ、頭上にノアを乗せて、街を歩く。目的地は建具屋だ。建具屋はギルドからかなり離れた位置にある。最初は憂鬱だったサクラもルル達と合流してからは鼻歌を歌いたいほど機嫌が良くなっていた。

 理由は単純だった。


「あら? ルルちゃん。よかったら、この果物持っていきなよ」

「よお、ロイ。ちょうど焼きたてのパンがある。持っていけ!」

「ノア、今日はパイを焼いてみたがいるか?」


 街を歩くたびに店の店主がサクラ以外の3人に話しかける。そして、食べ物を善意でくれるのだ。食費が浮くとニヤケそうになる顔を必死に抑える。

 その一方で、周りの警戒は怠らない。先程の襲撃者の狙いは鏃の可能性が高いが、万が一ずっと鏃を持っているサクラも狙われていたら、その可能性も捨てきれない。ノアは勝手になんとかするだろうが、ルルとロイを巻き込むわけにはいかない。


 サクラはバレないように周囲を一度見回すとノアに念話で語りかける。


『ノア、もしも襲撃者が来たらすぐに教えろよ』

『もとよりそのつもりじゃ。子供達は巻き込めないからのう。お主だけなら、放置するがの』


 楽しそうに笑いながらサクラの頭をトントンと前足で叩く。

そして、「キィ」と鳴いた。


『あー、そうだよな。うん、お前もそういう奴だよな。まあ何かあったら気付いた方が対処でいい?』

『勿論じゃ。気付いても面倒じゃからと無視はするでないぞ?』

『流石にルル達がいるのにそんなことするわけないだろ。そっちもするなよ?』

『妾をなんだと思ってるのじゃ』


 サクラはそう返しながら、舌を巻く。流石似た者同士だ。きっとルル達がいなかったらお互いに相手に押し付けようとするそれを分かったうえでの牽制だ。

 全く、誰に似たのだかとため息を吐きたくなった。


「キィィ」


 その考えが伝わってしまったのか、いきなりノアの頭突きが降ってきた。思わず立ち止まってしまう。頭頂部が、痛い。


「ノア、何すんだよ!!」

「ん? ノアどうしたの? お腹空いた?」

「わかるよ、ノア。お腹空くとイライラするよね」


 ノアが喋れることを知らないルル達はサクラの頭上を見ながら心配そうだ。サクラは言いたかった。


 違う、こいつは図星を突かれて怒っただけだ。ただの食い意地を張ったドラゴンじゃなくて、変にプライドの高いドラゴンなんだと。


 しかし、ノアが喋れることは内緒にしようと取り決めていた。喋れるドラゴンは長い時を生きている証拠だ。そしてドラゴンの国であるドラゴニア国から出国しているだけで、だいたい訳ありドラゴンである。

 ノアも類に逸れず、訳ありだ。


「ノア、さっき貰ったパン少し食べる?」


 しかし、そんな事情を知らないロイはノアに先程パン屋でもらった紙袋からパンをひとつ出す。そして、背伸びしながらノアの口元に運ぶ。


「キィ!」


 嬉しそうな声から、パンを受け取ったんだろうなと当たりをつける。でも、食べるなら頭から降りてくれないかなとサクラは真剣に考えた。しかし、今それを伝えたら逆襲に遭う気しかしない。

 サクラは自分の頭の上がパン屑だらけになる未来を受け入れた。


「あっ、機嫌良くなった。よかった」


 ロイは嬉しそうに微笑む。ルルもノアをニコニコと見ていた。

 子供達が幸せならいいかと、サクラはまた歩き出す。目的の建具屋は次の角を曲がると到着する。


 ドワーフの経営する建具屋に着くと、ノアを子供達に預けてサクラは1人で店内に入る。ノアには2人の護衛を頼んだ。普段は食べ物で釣らないと意思を曲げてくれないが、ルル達の事を気に入っているからか、自分から引きつけてくれて安心した。


「よぉ、旦那」


 サクラはカウンターの後ろでせっせと作業している建具屋の店主に声をかける。店主は顔を上げるとサクラの顔を見て明らかに嫌そうな顔をした。


「なんだ、疫病神」

「その言い方酷くない? たった一回の失敗でこんなに責められないといけないの?」

「うるさい。お前のせいで、オレの最高傑作が壊されたんだ。今度は何を壊した?」


 サクラは以前別の依頼でここの店主が丹精込めて作った建物を壊していた。厳密に言うと壊したのはサクラじゃなくてノアなのだが。店主にとって、ペットのやらかしたことは飼い主の責任とそれ以来、嫌われている。

 ノアはペットというか同居者だし、店主より長生きしてると言いたくなったがサクラは毎回その言葉を飲み込む。

 過程はどうあれ、自分の依頼でしでかしてしまったことなのだから。


「壊した前提って……。いや、まぁそうなんだけどさ」


 サクラは肩身が狭くなる。俺が壊したわけじゃないんだけどと言いたい。しかし、責任転嫁するなとまた理不尽に怒られることはわかってる。

 以前、便利屋の依頼で壊れた建物を直していた際に、素人じゃどうしようもできない事だけを修理依頼にきた。その時も何を言ってもサクラが壊したと、言い訳をするなと聞き入れてもらえなかったのだ。

 すでにこのドワーフの中ではサクラが店を訪ねるのは何かを破壊したからと決めつけている。間違ってはいないのだが。


「ギルドが襲われてよ、扉が壊れたんだよ。俺らじゃどうしようもできないから直してほいしというギルド長からの依頼だ」

「は? ギルドの扉が壊れた? あの扉は頑丈のはずだ!」


 ドラゴンが勢いよく突っ込みましたと言いたい。しかし、確実に火に油を注ぐ。サクラは黙ってしばらく店主のお小言を聞く。だから、子供達はこの店の中には入れたくないんだよなと内心で考えながら。


 そして、説教が終わるとサクラはギルドの扉の修理依頼をして店から出た。

 疲れた。その言葉以外出てこない。


 店の外ではルルとロイがノアと遊んでいる。その様子に癒された。そして、ギルド長に戻ってこいと言われていなかったか記憶を探る。建具屋以降は特に何も言われていない。

 サクラはギルドに戻らずに家に帰ることに決めた。少しでも早く、ベッドにダイブしたい。今日はもう疲れた。


 ルルとロイに声をかけて、サクラは勝手に家路についた。



  

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、金曜日20時更新予定です。


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