第15話 部屋の中は?
昇降台に全員が乗ったのを確認後に、サクラは受け取った部屋の鍵をかざす。すると昇降台が黄色く光り、落ちないように台の周りが透明な壁で仕切られる。
そして、危険を排除すると昇降台はゆっくりと浮上する。2階部分まで浮上すると他の昇降台とぶつからないように互いをよけながら部屋の方角へと斜めに浮上し始めた。
「すごい!」
ルルとロイの二人は目を輝かせながら透明な壁に両手をついて昇降台の外の様子を眺めている。
ノアも無関心を装いながらも興味があるのか、腕を組みながらチラチラと外の様子を確認していた。ノアが最後に訪れたときにはまだなかったんだなとサクラは素直になれないノアを見て内心で笑う。
レイチェルは常宿と言っていただけあり、慣れている様子で透明な壁に背中を預けて子供達をどこか微笑ましそうに見ていた。
「この国の魔法技術は異世界と比べると中の上ぐらいはあるからね」
「そうなのか?」
「そうよ。まぁ、私の生まれ故郷は魔法が発達し過ぎていてお遊戯会を見ている気分でもあるんだけどね」
「えっ、これがお遊戯会?」
レイチェルの隣で子供達やノアを見ていたサクラは思わずレイチェルの顔を見る。どこか懐かしそうに笑いながらもレイチェルが返答することはなかった。
そして昇降台は、サクラたちが本日泊まる最上階へと到着した。昇降台が止まると、柵が光を発しながら消える。それと同時に、柵に接していた一辺の透明の壁も消えた。
「到着だから、降りようか。降りたら勝手にまた動き出すからさ」
レイチェルはすぐにフロアの廊下へと移動した。ノアや子供達もそれに続き、最後にサクラが昇降台から廊下に移る。
サクラが降りたのを確認すると、昇降台の透明な壁は全て消え、消えていた柵が現れる。そして、昇降台はスーッとその場を離れていった。
「ありがとー!」
ルルとロイの2人が離れていく昇降台に手を振っている。
「さて、とりあえず部屋に入りましょうか」
カードキーを片手にレイチェルはとっとと近くにある部屋に向かう。会ったときから片鱗はあったが、自由人過ぎないかとサクラは呆れた。
「そうだな、とりあえず荷物を置いたら俺達の部屋に集合で良いか?」
「それは問題ないよ。じゃ、ノア……と、ルルちゃんだったかな? 荷物置きに行こうか」
「そうじゃな」
「うん、サクラさんもロイもあとでね」
とっとと、カードキーで解錠して部屋に入っていくレイチェルにノアとルルも続いた。
自由人だなとサクラは改めて思う。そして、隣でキョロキョロと廊下を物珍しそうに見ているロイに声をかける。
「じゃ、俺達も部屋に入って荷物を置くか」
「あっ、うん!」
サクラもカードキーで解錠し、部屋の扉を開く。そしてすぐに言葉を失った。
「すごい、広い……」
扉が閉まる音とともにロイの感嘆する声が聞こえる。サクラの頭の中はお金のことでいっぱいになった。
入口の扉を開けると、水回りがまとまっていそうな扉が横にあった。そしてその先への扉は開け放たれており、扉という固定され、切り取られた空間からでも分かる開放感があった。窓はガラス張りで空の青さが輝いて見える。
思わず立ち止まったサクラの隣をロイが駆け抜けていく。
開け放たれた扉から中に入り、周りを見回すロイの瞳は輝いていた。
「サクラさん、すごいよ! 広いし、豪華!」
ロイは早くサクラも来るようにと手招きをする。サクラは足に根が生えたのではないかと思うぐらいに重い足をなんとか動かして、リビングへと続く扉をくぐり抜けた。
そして、もう一度絶句した。
部屋全体はシックな雰囲気でまとめられている。ソファやテーブルも落ち着いたデザインだが、どこか高級感を醸し出していた。
部屋の中にはベッドが見当たらず、奥に見える扉の先が寝室なのだろうと想像がつく。
旅人時代は、基本野宿で、満月の夜だけベッドなど最低限の休む環境が整っている安い宿に泊まっていた身としては、客室内のほとんどをベッドが鎮座していない事実で既に何かが限界に達しそうだ。
「すごいね、宿って家よりもすごいんだね」
「あはは……。ここが凄いだけだから、今後は期待しないでほしい」
ロイの純粋な目を見てサクラは乾いた笑いしか出てこない。とりあえず、毎回こんな良い宿に泊まれないことを釘を刺しておかないと、旅行中も便利屋の仕事で旅費を稼ぐつもりでいたが、支出が多くて破産すると懐具合に恐怖しか感じない。
何かやらかして弁償なんてことにならないよなと不安になる。家族を養えて、旅路で困らない以上に働く気のなかったサクラはレイチェルの同行がどんどん不安になる。
だからといって素性が分からない以上、金銭面で甘えるのはノアの知り合いとは言え、怖い。金銭面を握られるということは、主導権を握られるのと同じだ。
「サクラさん、どうしたの?」
今後の主に金銭的なことに頭を悩ませているとロイが、サクラの裾をグイグイと不安そうに引っ張ってきた。
「悪い、ロイ。ちょっと気になることがあってな」
「そうなの? こんないい部屋なのに勿体ない」
「そうだな。とりあえず、荷物置くか。ルル達も片付けが終わったら来るらしいから」
「うん!」
ロイに笑顔を向けると、嬉しそうに背負っていたリュックをソファの上におろした。サクラもリュックをおろし、一息つくと、来客を知らせるベルが部屋に響いた。




