第14話 本日のお宿は?
国境審査はすぐに終わった。最近は平和だからただの形式上のものでよかったと、サクラは胸をなで下ろす。
昔、他の国だが国家間が緊迫状態に入り、国境審査に1日以上かかったことを思い出し、心の中で涙する。
無事にマグノリアに入国すると、まずは宿を探すという話になる。その瞬間にノアとレイチェルが迷わずに先頭を歩き出した。
「ここに来たときの常宿があるの。100年以上の老舗だから潰れていないはず」
「そうじゃの、あそこの飯は絶品じゃ。空席があると良いが……」
「そうね、こればかりは運だからね」
サクラ達の意見も聞かずに、2人は早足で進む。サクラはともかく、まだ子供のルルとロイはほとんど走るようにして2人に続いていた。
あとで、ノアは説教だなと思いながらもサクラは早歩きで先を歩く4人を追いかける。
10分ほど進むと、ノアとレイチェルは1つの立派な建物の前にいた。
「ここか?」
2人に追いついたサクラ達は目の前の建物の立派さに慄いた。頑丈な門があり、高さは10階程はありそうな豪華絢爛な外装。
絶対に高いだろう。
サクラは懐具合が心配になった。
「あのー……」
思わず、2人に声をかける。ノアは察したようにニマリと笑い、レイチェルは胸を張った。
「お金の心配なら、大丈夫よ。私が全額出すから」
「流石、レイじゃ。太っ腹!」
「ふふ、旅に同行させてもらうんだから、これぐらいはね?」
サクラ達を置いてきぼりにしてさらに話は進む。
「えっ、ここにレイチェルさんの奢りで泊まるってこと?」
「……そうなの?」
ルルとロイも混乱している。
そうだよなと、サクラは息を吐いた。
「おーい、勝手に2人だけで話を決めないでもらえないか?」
盛り上がるノア達に話しかける。2人は振り返ると、首を傾げていた。
「えっ? 勝手に決めちゃダメだった? でも、ここ見た目はこうだけど値段は良心的よ?」
「そうじゃ、そうじゃ!」
すでに2人の中ではこの宿に泊まるのは確定らしい。レイチェルはわからないが、ノアは一度決めたら折れないことを知っている。
そして、建物の前でこれ以上留まると人の目も厳しくなる。
サクラはチラリと周りを見回す。何人かは不思議そうにサクラ達というよりも、ノアとレイチェルの2人を見ていた。
2人ともこの世のものと思えない美貌の持ち主で、目立っている。チラチラと不躾にノアとレイチェルを見ている男達もいた。
怪訝な目で見られるのも、ノアを不躾な目で見られるのも嫌なことを考えると選択肢はこの宿に泊まる以外なくなっていた。
「わかった。この部屋を2つ取ろう。でも俺達の部屋は自分達で払うぞ?」
「遠慮しなくてもいいのに。でも、わかったわ」
レイチェルは微かに微笑むと宿の門を潜っていった。ノアもすぐに後ろに続く。
サクラは子供達に声をかけた。
「まあ、そういうことになったから、行こうか」
「こんな素敵なところに、泊まれるの?」
「お宿、泊まるの初めて。楽しみ!」
嬉しそうな2人にサクラの口角も緩くなる。懐のことは後で考えようとサクラも宿の中へと足を踏み入れた。
宿の中はマグノリアを体現したような空間だった。
受付のあるロビーは吹き抜けとなっており、最上階までの通路の柵が見える。そして、至る所で荷物が宙を舞い、意思を持っているかのように宿泊客の後をついていったり、吹き抜けから降りてきたりしている。
(流石、というべきか。国境付近の最初の街だからこそ、国力をこれでもかと見せているみたいだ)
サクラは感心した。前回、マグノリアに旅で寄ったときはこの街には寄っていない。しかし、この街――ポルタマギアはまさに魔法の国の門として機能しているようだ。
見るものを楽しませ、そして観光客を増やそうという試みが見るだけで分かる。
「サクラ、部屋について確認したいで、早う来い」
「わかった」
既に受付にいたノアが大きな声でサクラを呼ぶ。
「ルル、ロイ。ここの椅子に座って待っていてくれ」
見慣れぬ魔法技術に目を輝かせている二人にサクラは近くに漂ってきたソファを指差して伝える。するとソファはサクラの言葉を理解したかのようにルル達の後ろで止まると床へと着地した。
「すごーい!」
二人はさらに目を輝かせると、何食わぬ顔で設置された2人掛けのソファに座る。それを確認してサクラは受付へと向かった。
「どうした?」
「いや、部屋は隣同士の方がよいじゃろ?」
「空いている隣り合わせの部屋が最上階の少しお高めなところしかないみたいなの。他はフロアから離れちゃうみたいで……。最上階でいい?」
受付嬢は笑顔でやりとりを見守っている。後ろに待っている客もいないため、焦る必要もないのだろう。
「ゆっくりで良いですよ」
満点の接客スタイルで状況を見守っている受付嬢の言葉に甘えて、サクラは少し考える。
しかし、すぐに自分が旅に出ることを決意した理由を思い出したため、結論が出るのは早かった。
「隣同士にしよう。金はまぁ、少しだが余裕もあるし、旅路で便利屋の仕事は続ける予定だったから、日銭は稼げるだろうし」
「そうじゃな。というわけで、先程の部屋で頼むぞ」
ノアは笑顔で受付嬢に伝えると、「わかりました」と慣れた様子ですぐに手続きが終わった。
「こちらが、部屋の鍵となります。案内は必要でしょうか?」
「初めてじゃないから、大丈夫よ。ありがとう」
レイチェルは受付嬢から2つの鍵を受け取ると微笑んだ。
「かしこまりました。もし荷物がございましたら、お部屋の前まで運ぶサービスもしておりますが?」
「そこまで、大荷物じゃないから大丈夫。お世話になります」
「はい、ごゆっくりおくつろぎください。何かありましたら、フロントまで」
終始営業スマイルの受付嬢は訓練された角度で頭を下げる。
見送られるようにしてサクラ達はルル達の元へと合流する。そして、魔法で浮上する昇降台へと向かった。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、金曜日20時更新予定です。
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