第12話 レイチェル・レイシー
ノアの背中に乗りながら、サクラは下を見る。ノアはルナディリア王国の上空を飛んでいる。
サクラ達が住んでいた家は首都から少し離れた位置にあるそこそこ栄えた街だった。すでに、豆粒サイズには遠のいており、少しの寂しさをサクラは覚えた。
「すごい、高い! ノアこんなことできたんだ!」
「もう、家見えないね。サクラさん、どこまで行く予定なの?」
サクラは2人答えるため、後ろを見た。
ロイは下を眺めてはしゃいでいる。ルルも楽しそうにしているが、行き先が気になるようで、サクラを見た。
「とりあえず、隣国である魔法の国——マグノリアに行く予定だ。……ノアが行きたがってな?」
『マグノリアは食事が美味しいからのう。久しぶりに食べたくなったのじゃ』
サクラの言葉に同意するように、ノアが念話で3人に話しかける。
「ノアが美味しいっていうなら、絶対に美味しいやつだ!」
「そうだね。少し楽しみかも!」
後ろから聞こえる、ルルとロイの嬉しそうな声にサクラも嬉しくなる。
サクラは緩む口角をそのままにして、2人を眺める。
子供達にとっては、初めての旅行だ。旅に出た理由は、危険が伴ってしまっているが、少しでも楽しいものになってくれるといいなとサクラは思う。
『おお、首都とルナディリア城が見えてきたのじゃ。近いようで遠いのう』
ノアの声に、サクラ達は下を見る。
そこには白亜でできた綺麗な白の上部が見える。バルコニーには人が出ており、城下を見守っている様子が見えた。
「初めてお城を見たけど、すごいね。綺麗! あそこに王様やお姫様が住んでるんだよね」
ルルが羨ましそうにうっとりと城を見ていた。ロイには隠しているが、ルルの愛読書がお姫様や王子様が出てくる本が多いことをサクラもノアも知っていた。
微笑ましい気分になる。
「それよりも、専属の料理人がいるんだよね! すごい。毎日美味しい豪華なご飯は羨ましいけど、太っちゃいそう……」
「その分、きっと働いたり運動したりしてるんだよ! だから、国が豊かで平和なんだって本に書いてあったんだからね」
ルルとロイの楽しそうな声を聞きながら、サクラは昨日からの緊張感から少し解放され、気付いたら、意識が遠のいていた。
◇◇◇◇
「――サクラさん!」
名前を呼ばれる声が聞こえた気がして、サクラの意識は浮上した。寝ぼけた頭で周りを見ると、ルルとロイがそれぞれ両側からサクラを揺らしていた。
寝てたのかと気付いたサクラは周りを見回す。すでにノアは地上に降りたようで、空中飛行は終わっていた。
太陽は沈みかけ、世界は茜色から濃紺に変わろうとしている。
「あー……、ここどこ?」
『マグノリアの国境付近じゃ。流石に国境を乗り越えて、妾の責任にされたくなかったからのう』
「……あー、うん。わかった。俺、寝過ぎたのね。ごめんな」
答えたノアではなくサクラは、ルルとロイの頭を撫でながら、謝る。そして、ベルトを外して椅子から立ち上がる。
子供達と一緒にノアの背から降りると、ノアはぬいぐるみサイズに変化する。
『妾は疲れたのじゃ』
そして、サクラの頭の上に乗る。
「お疲れさん、悪いな。寝ていて」
『大爆睡じゃったのう』
呆れたようなノアにサクラは何も返せない。バツが悪く、視線を横に逸らした。その時、茜色の世界に目立つ白銀が飛び込んできた。
「ノア、降りたところは誰にも見られていないよな?」
サクラは警戒したようにそちらを見ながらノアに尋ねる。
ノアはふんっと不服そうに鼻を鳴らした。
『妾を誰だと思っておるのじゃ。そのあたりは抜かりが……ん? あやつは』
ノアも白銀の人影に気づいたようだ。その人影を見ると、少し悩んだ様子を見せた。そして、「きぃ」と鳴くとサクラの頭から飛び立ち、人影の方へと向かっていく。
「えっ? ノア?」
ルルとロイが驚きの声をあげて、ノアを追う。サクラも慌てて2人の後を追った。
ノアや子供達に追いついたサクラは、白銀の人影の正体を知った。
白銀の腰まで届くほどの長い髪を持ち、白銀の布でできた青色の宝石の散りばめられた羽織に黒い膝上のワンピース、膝上まである黒いロングソックスに黒いブーツを履いた、肌の白い女性だ。
紫がかった瞳が嬉しそうに、ノアを見ていた。
「ノア、久しぶりね。何万年ぶり?」
『妾としては数千年ぶりなのじゃがな』
「異世界ごとに時の流れが違うからね」
冗談のようなことを微笑みながら女性は言う。
「えっと、お姉さん、どれだけ生きてるの? 何歳?」
「こら、ロイ! 女性に年齢尋ねるのは失礼だから!」
慌てたようにルルがロイの口を塞ぐ。それを見て、女性は大声で笑う。
「大丈夫だよ、私は気にしない。というか、もう覚えてないの。百を超えたら数得るのめんどくさくなってね」
女性は笑うと子供達を優しい表情で見る。
「ノアの知り合いみたいだから、自己紹介しようかな。私はレイチェル・レイシー、理由は省くけど不老不死なの」
どこかこの世のものと思えない笑みで、レイチェルは信じられない言葉を紡いだ。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、金曜日20時更新予定です。
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