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第10話 ノアの悩み

 サクラは、オロオロしながらも2人に謝る。そんなつもりはなかった、一緒に来てくれると嬉しいと自分の気持ちを素直に言葉にする。ノアが2人を見ながら笑っている。


 次第に2人の涙は止まる。それを見てサクラはホッとした。

 泣き腫らした2人にノアがハンカチを運んできて渡す。


『さて、サクラよ』


 これで落ち着いて話せると頭の中を整理しようとしたサクラにノアが念話で語りかけてきた。疑問に思い、ノアを見る。ノアは少し視線を逸らした。


『どうした?』


 僅かに不安が煽られる。


『妾が喋れることを子供達に伝えたほうがいいかと思うか? この街にいるだけなら問題ないと、妾は努めて可愛いマスコットドラゴンでいた。じゃが、旅に出るなら妾は運搬係として元のドラゴンに戻る必要性も出てくるじゃろ?』

『なあ、ノア。このタイミングで気にするのそれか?』


 サクラは思わず言葉を失いかけた。真実を伝えるか考える理由はノアらしい。しかし、何故さらに子供たちが混乱するタイミングでさらなる混乱を入れようとするんだと頭を抱えたくなる。

 ルルもロイもノアが話せるどころか、本来の姿が大きなドラゴンだということも知らない。


 ノア曰く、知らなくても問題ないことは話さなくてもいいという謎理論だ。いまだにサクラも理解していない。

 子供達がまだ、ハンカチで涙を拭っているのを確認してサクラはノアを見る。


『いや、今の流れで暴露すれば、お主に罪を着せれるかと思ってのう』

『……ノア?』


 思わず、こめかみがピクリとひりつく。先程のサクラにとってはかなりの修羅場だった状況を見て思ったことはそれかと今度こそ、言葉を失う。なんとかノアの名前だけを呼ぶ。


『なんじゃ?』


 ノアは全く気にした様子がない。サクラは一度無視することにした。ノアから子供達に視線を移す。

 タイミングが良かったようで、2人はハンカチをたたみ、近くにあったティッシュで鼻をかんでいた。


「……? サクラさんどうかしたの?」


 ロイが机の下にあるゴミ箱にティッシュを捨てながら不思議そうにサクラを見る。ルルもすぐに目を大きく開きながらサクラを見た。まるで、一挙手一投足を見逃さないようにされているようでサクラの肩身が狭くなる。


「いや、できれば今日中に出発したくてさ、準備出来るか?」

「えっ!?」


 2人は目を丸くして驚く。そうだよな、急だよなとサクラは申し訳なく思った。しかし、サクラの予想に反して2人の動きは早かった。

 椅子から立ち上がると、リビングの出口へと向かう。


「すぐに準備してくるから、置いてかないでよ!」


 ルルが振り返り、サクラを指さしながら言う。ロイも隣で首が取れるんじゃないかと思うぐらいに強く首を縦に振っていた。


「わかってるよ」


 サクラは子供達を安心させるように微笑む。それを見て2人は安心したようにそれぞれの部屋に走っていった。

 長旅になることは伝えなかった。状況によってはすぐに戻れるかもしれないし、戻れないかもしれない。それがわからない以上、どう伝えればいいのか、サクラにはわからなかった。

 リビングに残されたサクラにノアが不安気に尋ねる。


『それで、妾はどうするのがいいのかえ?』

『黙ると決めたのはノアなんだから、言い訳せずにきちんと伝えろ』

『……うむ、やはりそうなるか』


 ノアが少し顔を歪めながら諦めたように呟く。


 それから少しして2人は荷物がパンパンに詰まったリュックを背負って降りてきた。


「一旦、荷物は置いていい。街とオレガンのところに挨拶に行くからさ。オレガンには留守の間、この家を頼まないといけないし……」


 サクラは2人に声をかける。すると何故か2人はサクラを見上げながら、キラキラと目を輝かせた。

 なんでだ? とサクラは不思議に思う。


「ここにまた戻ってくるの!」

「もう、ここには帰らないと思ってた」


 2人の反応に自分の説明不足を実感した。サクラは微笑み、2人に近付くと、それぞれ片手ずつ頭に乗せる。


「戻ってくる予定だ。長く根無し草だった俺が初めて根付いた場所だしな。思い入れはあるよ」

「サクラさん……!!」


 感激したように2人はサクラに抱きつく。その様子を机の上で見ていたノアはふむと前足を組む。


「キィ、キィ!」

 

 そして、咳払いするように鳴く。3人の視線は自然とノアに移動する。

 ロイがサクラから離れて、ノアに近付く。


「どうしたの、ノア? 変なもの食べた?」


 心配そうにノアの顔を覗き込む。ロイの純粋さにノアが顔を背けている。思わず、サクラは吹き出してしまった。

 笑いを堪えているサクラに向かって、突然ノアが飛んできて額に蹴りを入れる。

 あまりの激痛にサクラは頭を抱える。


「――っ!!」


 言葉も出せない。ノアはふんっと鼻を鳴らして器用に扉を開けて、外に出ていく。


「待ってよ、ノア!」


 慌ててロイがリュックを机の上に置いて、ノアを追いかける。ルルは心配そうにサクラの背中をさすりながら、扉の方を見ている。

 それに気付いたサクラは額をさすりながら、ルルを見る。


「俺は大丈夫だから……」


 ルルはロイと同じくリュックを机に置くと、後ろ髪を引かれるようにサクラを何度か振り返りながら外に出た。

 きっと、外でノアは本来の姿に戻って事情を話すのだろう。ノアさえいれば刺客も問題ない。サクラは頭をもう一度摩ってから、外へと繋がる扉に向かう。

 ノアの暴露が終わったら、そのまま街の人々に挨拶に行こう。きっと急な話で怒られるだろうなと、少しだけ重くなった足を動かした。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、金曜日20時更新予定です。


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