EP98 民を守れ
「このわからずや! であります!」 マキマは、レオナの言葉を聞きながらも、その悲しい覚悟に、怒りにも似た感情を覚えた。彼女は、腰のファンネルを全て射出し、叫んだ。 「トランスフォーム!」 マキマの合図と共に、ファンネルは炎を纏い、高速でレオナの周囲を回転し始める。それは、まるで灼熱の竜巻のように、レオナの炎を巻き込み、その勢いをさらに加速させているかのようだった。
「これで終わりであります!」 マキマは、電子銃の出力を最大まで高め、炎上するファンネルの渦の中心、レオナ目掛けて渾身の一撃を放った。電子の光が、炎の渦を貫き、レオナの胸元に直撃する。
ドン、と重い音が広間に響き渡った。 レオナは、その場に膝をついた。彼女の周囲を猛り狂っていた炎が、まるで嘘のように、ゆっくりと消えていく。炎が消え去った後、そこに立っていたのは、先ほどまでの紅蓮の鎧を纏った騎士の姿ではなかった。 髪は赤ではなく、淡い栗色。瞳も穏やかな茶色へと戻っている。 それは、炎に飲まれる前の、ごく普通の女性の姿だった。
カイエンは、その姿を見て、はっと息を呑んだ。 「炎に飲まれていたのは、この人自身だったんだ……」 レオナが燃やしていたのは、怒りや後悔だけではなかった。民を守ろうとした情熱、王への忠誠心、そして、孤独な王を案じる優しさ。その全てが、彼女自身を燃やし尽くす炎となっていたのだ。
レオナは、ゆっくりと顔を上げ、広間の奥、玉座があったであろう方向を見つめる。 「陛下。」 その声は、炎のように激しかったこれまでの声とは異なり、静かで、穏やかだった。 「最後まで……納得はできませんでした。」 彼女の口元に、微かな笑みが浮かぶ。それは、悲しみと、諦めと、そして、どこか安堵したような、複雑な笑みだった。
「でも。」 彼女は、静かに言葉を続けた。
「最後まで、あなたの騎士でいられたことだけは……誇りです。」
そして、レオナは、カイエンの方へと視線を向けた。
「王を責めてもいい。」
その瞳は、穏やかな茶色でありながらも、確固たる意志を宿していた。
「でも……最後まで話だけは聞いてあげて。」 彼女の言葉は、王の孤独と、その背負った罪の重さを、カイエンに訴えかけるかのようだった。
レオナは、静かに微笑んだ。
「……暖かい。」
そう呟くと、彼女の体は、灰となる代わりに、無数の赤い花びらとなって、風に舞い、広間の中に消えていった。まるで、彼女の情熱と、誰かを守ろうとした優しさが、その最期に花開いたかのように。
赤い花びらが、くるくると舞い踊り、広間を幻想的な赤色に染め上げる。その花びらの中に、一つだけ異質なものが混じっていた。 カラン、と乾いた音を立てて、焼け焦げた金属製の紋章が床に落ちる。それは、かつてレオナが纏っていた鎧の一部、騎士団の紋章だった。
マキマは、静かにその紋章を拾い上げた。熱を帯びた金属の感触が、掌に伝わる。紋章の表面は煤けていたが、中央に刻まれた文字ははっきりと読み取れた。
「……『民を守れ』、でありますか」
マキマの呟きが、静寂に包まれた広間に響いた。帝国守備隊として、これまでも、これからも、民を守ることを使命としてきたマキマにとって、この言葉は、レオナが最期に託した、重い、しかし確かな遺志として胸に刻まれた。
カイエンは、マキマの手からその紋章を受け取ると、静かに握り締めた。レオナの体温が宿っているかのような、微かな温もりが掌に伝わる。
「約束する。」
カイエンの言葉は、レオナの遺志を受け継ぐ、確固たる決意の表れだった。その一文だけで、レオナの、そして失われた王国の「民を守る」という強い願いが、マキマ、そしてカイエンの中に深く刻み込まれた。
第2の騎士編終了です!
次回は第3の騎士となりますお楽しみに!
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