EP97 炎の果ての答え
膝を突き、炎剣を地面に突き立てたレオナは、満身創痍でありながらも、決して折れない騎士の魂を示していた。 「……まだ、だ。まだ、終わらせるわけにはいかない……!」 レオナは、かろうじて立ち上がろうとする。その琥珀色の瞳は、燃えるような朱色を宿し、怒りの炎を燃やしていた。
「くっ、まだやるでありますか!?」 マキマは、電子銃の熱を冷ましながら、警戒を強める。カイエンとアイフェリス、ヒナも、その場に立ち尽くすレオナの姿に、ただならぬ気迫を感じ取っていた。
レオナの周囲に、再び紅蓮の炎が渦を巻き始める。それは、先ほどまでの熱量とは異なり、荒々しく、制御不能な怒りの炎だった。 「私は!! あの子達を!! 見捨てたかったわけじゃない!!」 レオナは叫び、炎剣を振り上げた。その剣が振るわれるたびに、広間の壁や床が灼熱の炎に焼かれ、石材が黒く焦げていく。
炎は、レオナの怒りそのものだった。 燃えるほどに、彼女の感情が高ぶる。 「この炎は……怒り、でありますか」 マキマは、解析したエネルギー波形から、レオナの炎が彼女の感情と直結していることを悟った。
その時、レオナの脳裏に、再び過去の光景がフラッシュバックする。
――王は知っていた。もう王国は救えないことを。 残された選択は、王国を犠牲にして世界を守ること。その重い決断を下した王の顔は、苦渋に満ちていた。
レオナは、その時も住民を避難させようと、街中を駆け回っていた。 「早く! こちらへ! まだ間に合います!」 しかし、無情にも封印の儀式が始まり、街は地中へと沈み始める。 泣き叫ぶ子供の声が響き渡る。 「ママ……! ママぁ……!」 瓦礫の下敷きになりそうな老人。 「助けてくれ……!」 助けを求める母親たちの悲鳴。 「誰か……誰か、この子を……!」
レオナは、全てを助けようと、炎剣を振るい、瓦礫を砕き、必死に走った。しかし、その行く手を、王直属の騎士たちが阻む。 「団長!! 儀式が崩れます!!」 騎士の一人が、レオナの腕を掴んだ。 「離して!!」 レオナは叫び、その手を振りほどこうとする。しかし、騎士たちは、王の命令に従い、頑なに彼女を止めた。
レオナは、遠くに見える王宮の方向を睨んだ。その琥珀色の瞳には、初めて、王に対する激しい怒りの炎が宿っていた。 「……陛下。」 その一言には、絶望と、裏切りと、そして、どうしようもない悲しみが込められていた。
――過去の記憶が、レオナの意識から弾け飛んだ。
「貴様らも……! 私を止めるのか!!」 レオナは、炎剣を振り回し、マキマに襲いかかる。その剣の一撃は、先ほどよりもさらに重く、速く、そして、怒りに満ちていた。 「っ!」 マキマは、間一髪でその一撃をかわすが、鎧の表面を掠めた炎が、彼女の髪を焦がす。
「無意味であります! その怒りでは、何も解決しないであります!」 マキマは、電子銃から磁場グレネードを連射する。レオナの動きを再び鈍らせようとするが、彼女の怒りの炎は、磁場の影響すらも焼き尽くすかのように、その勢いを増していく。
カイエンは、レオナの過去の記憶の断片を、魔眼で捉えていた。王の「だからこそ、お前には出来ない」という言葉の意味。それは、民を愛するあまり、非情な決断を下せないレオナの優しさを見抜いていたからこそ、王が彼女を止めた、ということなのか。
広間は、レオナの怒りの炎に包まれ、灼熱の地獄と化していく。マキマは、その炎の中で、必死に抗っていた。電子銃から放たれる磁場グレネードは、レオナの動きをわずかに鈍らせるものの、彼女の燃え盛る感情が、その効果を焼き尽くすかのように勢いを増していく。
「無意味であります! その怒りでは、何も解決しないであります!」 マキマは叫び、レオナの猛攻をかわしながら、電子銃を連射する。レオナの鎧に火花が散るが、彼女はひるまない。
レオナは、炎剣を振り下ろす寸前、ふとマキマの目を見据えた。 「あなたも……」 その声は、戦闘の喧騒の中にあって、なぜか鮮明にマキマの耳に届いた。 「王は正しかったと思う?」 レオナの琥珀色の瞳は、燃え盛る炎の中で、どこか遠い過去を映しているかのようだった。その問いかけには、怒りだけでなく、深い悲しみと、理解を求めるような響きが込められていた。
マキマは、その問いに即座に答えることができなかった。彼女は、レオナの炎剣の猛攻をかわすので精一杯であり、その問いかけの意味を深く考える余裕はなかった。電子銃を構え直し、間髪入れずに反撃を繰り出す。
炎は、レオナの周囲を渦巻く。しかし、その炎には不思議と恐怖ではなく、どこか暖かさも感じられた。灼熱の熱波がマキマの肌を焦がそうとする一方で、その炎の奥底には、優しさのようなものが垣間見える。
マキマは、その矛盾した感覚に戸惑いながらも、ふと気づく。 「これは……」 激しい戦闘の中、彼女の解析能力が、レオナの炎の性質を正確に捉え始める。 「人を焼く炎じゃない、であります……!」 その炎は、広間の石材を焼き焦がし、周囲の空気を歪ませるほどの熱量を持っているにもかかわらず、どこか生命を慈しむような、あるいは守ろうとするような、奇妙な暖かさを宿していた。それは、レオナが民を誰よりも愛し、最後まで救おうとした、その「情熱」の残り火なのかもしれない。
レオナは、マキマの言葉を聞いていたのか、いないのか、再び炎剣を構え、その瞳の奥の朱色をさらに強く燃やした。彼女の感情は、怒り、悲しみ、そして守り抜こうとする決意が複雑に絡み合い、その全てが炎となってマキマに襲いかかる。
「ええ。」 レオナは、マキマの言葉に静かに答えた。そして、口元に微かな笑みを浮かべる。 「この炎は……民を守るために授かった炎だから。」 しかし、その言葉とは裏腹に、彼女の周囲を渦巻く炎は、さらに激しさを増していく。レオナ自身も制御できないほどに、炎は暴走し始めていた。その炎は、彼女の心に渦巻く後悔を映し出すかのように、広間全体を焼き尽くさんばかりの勢いで燃え盛る。
「それでも王を守るのか、でありますか!」 マキマは、炎の熱風に煽られながらも、怯まずに問いかけた。
「当然よ。」 レオナは、迷いのない声で答える。その瞳は、炎のように激しく燃えていた。
「王は間違っていたんだろ、であります!」 マキマの言葉に、レオナの動きが一瞬だけ止まる。広間を包む炎の勢いも、わずかに弱まった。 沈黙が、重く広間を支配する。
そして、レオナは静かに、しかしはっきりと答えた。 「ええ。」 マキマは、その言葉に驚き、目を見開いた。レオナが、王の過ちを認めたのだ。
レオナは、再び炎剣を構え、その瞳に宿る炎を燃やしながら続ける。 「でも。」 彼女の視線は、遠い過去を見つめているかのようだった。 「王は一人で全ての罪を背負った。誰かが最後まで隣に立たなければ。陛下は、本当に独りになってしまう。」 その言葉には、王への深い忠誠心と、孤独な王を案じる、騎士としての悲痛な覚悟が込められていた。
カイエンは、レオナの言葉を聞き、王の「だからこそ、お前には出来ない」という言葉の真意を悟った。王は、民を愛するあまり、非情な決断を下せないレオナの優しさを見抜き、だからこそ、彼女をその場に縛り付けた。そして、レオナは、その王の孤独を理解し、最後まで隣に立つことを選んだのだ。 アイフェリスは、レオナの感情の揺れ動きを魔力で感じ取り、その悲しいまでの忠誠心に胸を締め付けられる思いだった。ヒナは、ただその激しい感情のぶつかり合いに、息を呑むしかなかった。
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