EP95 崩壊の王国と魂の炎剣
「……ようやく、来たのね」 女騎士の声は、澄んでいながらも、どこか諦めと疲労が混じっていた。 「王は……間違っていた。この王国を、民を、地中へ沈めるなどと。最後まで私は反対した」 彼女の言葉は、まるで過去の幻影と対話しているかのようだった。その琥珀色の瞳は、カイエンたちを見ているようで、その実、遠い過去を見つめているかのようだった。
「何の話でありますか? 王が王国を沈めた、と?」 マキマが電子銃を構えながら問いかける。アイフェリスもまた、魔力を練り上げ、警戒を強める。
女騎士は、ゆっくりと立ち上がった。その動作は、数百年の時を経てもなお、騎士としての気品を失っていなかった。 「しかし……それでも私は騎士。この場所を、王の『過ち』から守らねばならない」 彼女の言葉には、矛盾した二つの信念が宿っていた。王の決断を否定しながらも、騎士としての忠誠を捨てきれない、深い葛藤が。
女騎士は、地面に突き立てていた剣に手をかけた。すると、黒い鉄の刀身に走る亀裂から、赤い光が漏れ出し、剣全体が溶岩のように赤熱し始めた。それは、炎ではない。彼女の魂そのものが燃え盛っているかのような、途方もない熱量だった。
「来るであります!」 マキマの叫びと共に、女騎士は一歩を踏み出した。その動きは、重厚な鎧を纏っているにもかかわらず、驚くほどに素早かった。彼女の赤熱した剣が、一閃。炎の斬撃が、カイエンたち目掛けて襲いかかる。
「ふんっ!」 マキマは素早く身を翻し、斬撃を紙一重でかわした。同時に、腰から小型のファンネルを射出する。それは、広間の壁を蹴って女騎士の背後へと回り込み、電子銃の照準を合わせる。
「ほう……小賢しい真似を」 女騎士は、琥珀色の瞳をマキマに向けた。その瞳の奥の朱色は、さらに色濃くなっている。 「だが、この炎は、私の魂そのもの。容易く届くものではない!」 彼女は叫び、炎剣を大きく薙ぎ払った。その一撃は、マキマのファンネルをまとめて吹き飛ばし、広間を灼熱の熱波で満たす。
カイエンは魔眼を光らせ、女騎士の動きを解析する。 「マキマ、気をつけろ。あの女騎士の攻撃には、無駄な動きが一切ない。まるで、全てを『守る』ための動きだ」 カイエンの言葉に、マキマは「承知であります!」と応え、電子銃を連射する。弾丸は、女騎士の鎧に火花を散らすが、その全てが完璧に弾き返されるか、あるいは防がれる。
アイフェリスは、女騎士から放たれる魔力の波長を読み取っていた。 「彼女の心は、深い悲しみと、そして揺るぎない決意で満たされているわ。王の決断は間違っていたと信じながらも、騎士としての責務を全うしようとしている……」 ヒナは、その激しい戦闘を、ただ息を呑んで見守るしかなかった。
「無駄でありますよ! その鎧は、もう数百年前のものであります! 今の科学技術なら……!」 マキマは、さらに出力を上げた電子銃を撃ち込む。しかし、女騎士は炎剣を盾のように構え、その全てを完璧に防御する。 「この鎧は、私の魂と共にあったもの。朽ちることはない!」 女騎士は、胸当ての巨大な亀裂から、さらに紅蓮の魔力を噴き出させた。それは、まるで最後まで誰かを庇って受けた一撃の痛みを、今もなお背負い続けているかのようだった。
「王は民を愛していた……だが、その決断は、あまりにも残酷だった!」 女騎士の叫びと共に、炎剣から巨大な火柱が立ち上る。それは、マキマの退路を塞ぎ、彼女を広間の中央へと追い詰める。 「それでも……私は、この場所を守らねばならない! 王の『過ち』を、誰にも侵させはしない!」 彼女の攻撃は、一点集中。民を守る盾のように広範囲を薙ぎ払うガレウスとは異なり、目の前の敵を打ち砕くことに特化していた。その左頬の火傷、胸当ての亀裂。それらは、彼女がどれだけ激しい戦いを経験し、それでもなお、この場所を守り抜こうとしたかの証だった。
マキマは、迫りくる火柱を間一髪でかわし、その熱量に顔をしかめる。 「ったく、熱いんでありますね! でも、その熱量、解析させてもらうであります!」 マキマは、電子銃の照準を女騎士の剣に向け、特殊な波長のエネルギーを撃ち込む。それは、攻撃ではなく、対象のエネルギー波形を解析するためのものだった。
「この炎は、私の魂そのもの! 解析など、不可能!」 女騎士は、マキマの奇妙な攻撃に、わずかな動揺を見せた。しかし、すぐに体勢を立て直し、再び炎剣を構える。 「貴様の小賢しい技など、この信念の前では無力!」 彼女の言葉には、揺るぎない覚悟が宿っていた。
カイエンは、マキマと女騎士の激しい攻防を見つめる。 「あの女騎士は、レオナ……炎の騎士。王の決断に最後まで反対しながらも、騎士としての責務を全うしようとした、悲劇の守護者」 カイエンの魔眼は、レオナの過去の記憶の断片を捉え始めていた。彼女の首元に下げられた、子供が作ったような粗末な木彫りのお守り。それは、彼女がかつて救った少女から贈られたもの。民を誰よりも愛していた証。
そして今、マキマの科学の力と、レオナの魂が燃える炎剣が、広間の中央で激しく衝突する。
マキマ会でございます!あと1話本日投稿します!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きが気になる!」「面白かった!」と思っていただけましたら、
☆☆☆☆☆評価やブックマークで応援していただけると、とても励みになります!
皆さまの応援が、執筆を続ける大きな力になります。
また次話でお会いしましょう!




