EP80 光差す里と、勝利の温もり
カイエンが放った最強の一撃が、空間の理をねじ伏せて直撃する。
怪物の胸に、一筋の細い線が走った。
「……見事だ。」
カイエンの冷徹な呟きを合図にしたかのように、次の瞬間――怪物の胸部で脈打っていた「核」が音を立てて砕け散った。
全身を覆っていた不浄の泥と骸骨の巨躯がメキメキと亀裂を生み、耐えがたい轟音とともに崩壊していく。それと連動するように、上空で禍々しい光を放っていた転移門にも無数のヒビが走り、ガラス細工のように粉々に砕け散った。
里を覆い尽くしていた重苦しい瘴気はまるで雪解けの霧のようにサーッと消え去り、やがて雲の切れ間から温かな太陽の光が差し込んで、どん底だった空が鮮やかに晴れ渡る。
「おっ……終わったのか……!?」
「勝ったぞーーっ!!」
防衛線を死守していた兵士たちや住民の間から、歓喜の叫びと泣き笑いの声が一斉に沸き起こった。
その熱気の中、極限状態を脱したカイエンの全身を包んでいた漆黒のオーラが霧散し、『深淵の断罪者』の変異が解除されて元の姿へと戻る。
「やったであります! さすがは我が最高の相棒、そして科学の勝利でありますな! 今回の戦いのMVPはこのマキマ様にささげるとするでありますよ!」
マキマは安堵と興奮のあまり、ボロボロになった外骨格のままカイエンの胸元へ勢いよく飛びつき、ぎゅっと抱きついた。
「ああ……そうだな。お前とその技術に……助けられたよ」
カイエンは疲労の色を滲ませながらも、マキマの頭をポンと優しく撫でる。そして、心の中でそっとつぶやいた。
(――マヤ、助かったよ)
遠き日の親友の言葉が、確かに自分たちを救ってくれたのだとかみしめながら。
少し遅れて、激しい戦いで息を切らせたアイフェリスとヒナも足元をふらつかせながら歩み寄ってきた。二人は安堵の表情を浮かべると、そのままカイエンへと飛び込んで力強く抱きつく。
「もう……本当にどうなることかと思ったけれど……勝ったのね!」
「まったく、命がいくつあっても足りないっての! でも……やったね、私たち、見事にやり遂げたよ!」
緊張から解放された温かな体温と仲間たちの声に包まれながら、救われたエルフの里には、青空の下で静かな平穏が戻り始めるのだった。
エルフの里を揺るがした「忘れられた神」の幻影が消滅し、青空が戻ったその頃――。
人間側の本国、厳重に守られた最高評議会の会議室では、青ざめた老議員たちが怒号と絶望を響かせいていた。
「な、なんだと……!? ゲートが破壊されただとう……!? ばかな、あの神の残滓が敗北するはずがない……!」
長机を叩き、老いた元老院の一人が狂乱したように叫ぶ。別の議員が青い顔でまくし立てた。
「どうするのじゃ! エルフの里を滅ぼし、あの忌々しい女王を失脚させるはずが……これでは計画がすべて水泡に帰してしまうぞ!」
「すべて……すべてあの男、カイエンとかいう監視者のせいだ……! あんな厄介な異端児さえいなければ、こんなことには……!」
責任のなすり合いと醜い怒号が飛び交う中、会議室の重厚な大扉が、音もなく――しかし有無を言わせぬ破壊力で内側へと蹴破られた。
「なっ……なんだ貴様らはっ! ここがどこだと思っておる! わしらをなんと心得ておるのだ! 外の門番はどうした――! あ、あそこには巨人族の警備兵も……ぐっ……!」
突如として現れた侵入者を見た瞬間、老議員の言葉が恐怖に凍りついた。
そこに立っていたのは、全身を漆黒のタクティカルギアと防毒マスクで完璧に覆い、素顔どころか瞳の奥の人間味すら一切の光を遮断した、帝国第9特殊部隊――通称『黒鵺』。
冷徹なまでの威圧感を放つ小隊長ハヌスは、震える元老院たちを一瞥し、低く冷たい声で言い放った。
「知る必要はない」
刹那、銃声が響く。
無慈悲な銃弾が、権力をほしいままにしていた元老院の首脳陣を次々と貫いていく。
「ま、まさか……あの女の差金か……っ……!?」
血を流して崩れ落ちる老議員が、最後にうわごとのように呟いた。
もはや誰も動かない会議室のただ中で、ハヌスは淡々と銃口を下ろす。
「――任務完了。無駄なゴミの片付けは終わった。速やかに撤収するぞ」
冷酷な影の部隊は、誰ひとり足跡を残すこともなく、闇の中へと完璧に溶けて消えていくのだった。
ハヌスまた出てきましたね!ちょっとお気に入りのキャラでございます。
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