EP79 深淵の覚醒と、帝国の遺志
むき出しになった核から溢れ出した呪詛の瘴気は、瞬く間に周囲の地面や倒されたアンデッドたちを飲み込み、新たな脅威を生み出した。
――グチャリ、と音を立てて足元から這い上がってきたのは、すべてがドロドロの黒泥で形作られたおぞましい「泥の兵士たち」の群れだった。次々と仲間たちに群がり、その生命力を奪おうと襲いかかる。
「っ……キリがないな……!」
圧倒的な物量と猛毒の疫病。このままでは仲間たちが全滅する――その極限の焦燥と怒りが、カイエンの魂の奥底に眠るリミッターを完全に焼き切った。
「ぐ……あぁぁぁっ……!」
カイエンが握りしめた魔剣から、現実の光すらも吸い込むような深淵の闇が爆発的に溢れ出す。
吹き荒れる漆黒のオーラに包まれ、カイエンの肉体と衣服の色彩がまるでインクで塗りつぶされたかのように漆黒へと変貌していく。禁忌の変異形態、『深淵の断罪者』の覚醒だった。
圧倒的な破壊の力を得たカイエンは、群がるドロドロの兵士たちをすれ違いざまに文字通り霧散させ、猛然と核へと迫る。しかし、どれほど敵を薙ぎ払おうとも、背後で里全体を蝕む疫病の気配は濃くなる一方だ。
(くそっ……! このままではジリ貧だ……。どうする……どうすればあの核を確実に粉砕できる……あの核を、どのように――ッ!)
視界が毒素と焦りで歪む。頭の回転が急速に冷却され、絶望的な思考が脳裏をよぎった。
(無理だ……。つまり、終わりだ。このままでは、みんな死ぬ……)
ピタリ、とカイエンの足が止まる。
あまりの過負荷と絶望感に、その場に立ち尽くすカイエンの意識が暗転していく――その刹那、意識の底で、懐かしい親友の声が響いた。
『――大丈夫……カイエンなら、この状況もなんとかできる』
それはかつて聞いた、眩しいほどの光を宿した親友の声。
さらに、帝国での記憶が、走馬灯のように鮮やかにフラッシュバックする。
『お前は頭がいいが、たまに熱くなりすぎてる。周りを頼れ、お前にはそれだけの力がある。ありがたい話をしてやろう。科学メカニックは無限の可能性を秘めている。 俺に魔法は使えんが、いずれは俺の技術か後輩がお前を助けてくれるだろう! ……カイエンが魔法と科学の架け橋になってくれると嬉しい』
かつて背中を押してくれた親友の言葉が、闇に沈みかけていたカイエンの心を一撃で叩き起こした。
(そうだ……俺一人で抱え込んでどうする。俺には、仲間がいる……!)
カイエンの漆黒に染まった瞳に、再び鋭い光が宿る。闇の力を纏ったまま、彼は仲間たちへと叫んだ。
「状況を整理しよう……! 全員、耳を貸せ!」
その声のただならぬ気迫に、ヒナもマキマも、そしてアイフェリスも顔を上げる。
「マキマ! ファンネルであいつの動きを完全に拘束してくれ! ――5秒でいい!」
「わかったであります! 出力最大、オーバーヒート覚悟でいくでありますよ……! マヤ様の技術の神髄、その身に食らうであります!」
マキマが血を吐くような気迫で両腕を突き出し、全方位から解き放たれた無数のファンネルが眩い電磁の鎖となって、暴れる怪物の巨躯と核を文字通り雁字搦めに縛り上げる。空間の位相シフトが強引に固定された。
「今だ……アイフェリス! 巨大結界で奴の動きを完全に抑え込め!」
「任せて……っ! 『聖域の重鉄壁』!」
アイフェリスが残る魔力を振り絞り、眩い神聖の光のドームで怪物の周囲を完全に閉じ込める。逃げ道を完全に断たれた瞬間。
「ヒナ! 後ろに回って、その装甲の隙間から核を無理やり露出させろ!」
「もぉ……! 全っっく、人使い荒いんだから! こんな命がけの特等席、後で高くつくんだからね!」
ヒナが苦悶の青痣を浮かべた顔に不敵な笑みを貼り付け、影を縫うような神速の身のこなしで怪物の死角へと飛び込む。愛用のナイフとワイヤーをフル活用し、最後の防壁を力ずくでこじ開け、剥き出しの「核」を完全に露わにした。
魔法と科学、そして信頼が紡いだ奇跡の連携。
すべての条件が揃った。
「――終わりだぁっ!!」
『深淵の断罪者』へと変貌したカイエンが、暗黒の魔剣を頭上に掲げ、すべての因縁を断ち切るべく最強の一撃を振り下ろした――!
マヤとの過去とマキマの繋がりいずれ過去のエピソードで明らかになります!
次回、使徒の残滓編後半戦でございます!
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また次話でお会いしましょう!




