EP77 不死身の幻影と、微かな糸口
「死ねッ――!」
カイエンが地面を蹴り、圧倒的な殺意と共に跳躍した。手にした煤剣が虚空を引き裂き、「忘れられた神」の首元を完璧な一刀両断の軌道で捉える。
――ズパァンッ!!
確かに神の首を両断した手応えがあった。だが、切断されたはずの断面から眩い光が溢れることはなく、代わりにドロドロとしたおぞましい黒い泥が湧き出し、一瞬にして元の肉体へと癒着・即座に再生してしまったのだ。
「ちっ……!」
カイエンは舌打ちしつつも、右目の魔眼を限界まで見開き、その攻撃の瞬間に敵の挙動と魔力の流れを徹底的に解析していく。
ヒナが背後に回り込み、影から急所の心臓を一突きしようと短剣を突き立てるが、攻撃の直前に怪物の身体の位置が位相をズラすように不規則に変わり、虚しく空を切る。
さらに、戦況を見据えていたアイフェリスが持てる最大火力の高位火炎魔法を叩き込むが、放たれた業火は怪物から立ち込める高濃度の瘴気に一瞬で飲み込まれ、かき消されてしまった。
物理攻撃は泥のように再生し、暗殺の一撃は空間の位相変化に防がれ、魔法は瘴気に相殺される。攻め手が完全に塞がれた絶望的な状況の中、カイエンは敵の懐へ飛び込みながら鋭く叫んだ。
「――攻撃を止めろ! こいつの電磁反応と空間跳躍の波長に法則がある……! 胸の奥に、この空間を繋ぎ止めている『核』があるぞ!」
カイエンの解析を聞き逃さず、マキマが即座に両腕の武装を展開する。
「了解であります! ならば、その小細工ごと焼き払うでありますよ!」
マキマは轟音と共に超高出力の電磁砲を叩き込み、さらに周囲へファンネルを展開。一斉に放たれた強烈な電磁パルス攻撃が、怪物の周囲を覆う位相制御の結界と空間のノイズを激しくかき乱していく。
不完全だった防御の隙間をこじ開けた。
マキマの放った電磁パルスが怪物の位相制御を乱し、カイエンが突き止めた「核」へと続く隙が生まれた――かに思えた、その瞬間。
「……フ……、フハハハハ……ッ!」
圧倒的な巨躯を誇る「忘れられた神」の幻影が、不気味なほどに歪んだ、おぞましい笑声を響かせた。その骸骨の口元が裂けんばかりに吊り上がり、周囲の空間が一層ドス黒く澱んでいく。
「――『汝、死を思ゑ(メメント・モリ)』」
重々しく、世界そのものを呪うような宣告が戦場にこだました瞬間、怪物の全身から噴き出した高濃度の瘴気が爆発的な勢いで収束した。
直後、すべてを呑み込み焼き払う巨大な「瘴気の竜巻」が暴風となって解き放たれる。
「っ……なっ……!?」
「うわあああっ――!?」
圧倒的な質量と呪いの暴風の前に、防御陣形を構える間すら与えられず、アイフェリスも、ヒナも、マキマも、そしてカイエンさえもが、その凄まじい衝撃波に巻き込まれて文字通り吹き飛ばされてしまった。
大地を抉り、エルフの里の防衛線を嘲笑うかのように、禍々しい竜巻が暴れ狂うのだった。
吹き荒れる瘴気の竜巻がすべてを飲み込みそうになる中、アイフェリスが歯を食いしばりながら杖を振り下ろした。
「――これ以上、勝手はさせないわ……ッ! 『烈風の神域』!」
アイフェリスが放った強烈な高気圧の風魔法が戦場を駆け巡り、里を覆い尽くそうとしていた濃密な瘴気の渦を力ずくで引き裂き、吹き飛ばしていく。
視界がわずかに開けたその瞬間、マキマがすかさず懐から取り出した小型円盤状の武装を投げ放った。
「――隙だらけでありますよ! 『EMPグレネード』、起爆!」
鮮烈な青白い電磁閃光が弾け、怪物の周囲で循環していた呪いの魔力流がピタリと強制停止させられる。
その直後、マキマは「くぅ~……だから、電子機器の天敵みたいな原始的すぎる魔力ごときは大嫌いであります!」と耳を抑えてボヤきながらも、すかさず支援射撃を続行した。
「今だね、お姉様に続きなさい!」
瘴気の循環が止まり、怪物の動きがわずかに硬直したその死角へと、ヒナが影を縫うようにして高速で飛び込んだ。
愛用の短剣と超硬度ワイヤーを絡めた一撃を「核」を覆う防護壁へと叩き込み、文字通り粉々に粉砕して道を開く。
「ひぇぇ……! なにこれ、硬すぎるでしょ! 本当に恐ろしい化け物だね!」
ヒナが冷や汗を流しながらも完璧に防御を剥ぎ取った。
そして――剥き出しとなった怪物の「核」を捉え、カイエンが最速の踏み込みを見せる。
「逃がさねぇ……ッ!」
カイエンが自らの魔剣の封印を完全に解放し、闇を切り裂くような最強の抜刀術を放った。
紫電の光が虚空を焼き焦がし、完璧に核の真捉えた――かに見えたが、怪物の残滓が最後のあがきでわずかに次元の座標をズラす。
「っ……!」
強烈な一撃は核を捉えたものの、位相のズレに相殺され、致命傷には――あと一歩、わずかに届かない。
クライマックスですが、次回に続きます!
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