EP76 反撃の火蓋、それぞれの戦場
アイフェリスの凛々しい号令を合図に、静謐だったエルフの里は一瞬にして激しい戦場へと変貌した。
「さて……、足手まといの相手をしてる暇はないかねぇ!」
ヒナは軽やかな身のこなしで宙を舞い、襲いかかるスカルソルジャーの群れの中心へと飛び込む。構えたナイフから放たれる鋭い太刀筋が、白骨の兵士たちの胸を正確に穿ち、次々と粉々に砕き散らしていく。
さらに、背後に回り込んできた群れに向かって、愛用の小型浮遊端末を自在に展開。ファンネルから放たれる高熱のレーザービームが複数を同時に薙ぎ払い、地を這うグールやゾンビの群れを瞬く間に蜂の巣にして沈黙させた。
「やれやれ、次から次へと鬱陶しいでありますね!」
マキマもまた、圧倒的な機械技術と俊敏な身のこなしで敵陣を切り裂く。強化外骨格の出力を極限まで高めた連続打撃とガトリングの連射で、周囲を囲むアンデッドたちを文字通り粉々に粉砕し、容赦なく押し返していく。
「みんな、下がらないで! レイスの呪いを相殺しなさい!」
一方、アイフェリスは王家長杖を天高く掲げ、眩いばかりの浄化の聖域魔法を展開した。
空中を滑空し、住民たちの生気を奪おうと忍び寄るおぞましいレイスの群れに対し、純白の光の奔流を浴びせかける。
「――消え去りなさいっ!」
アイフェリスの放つ強力な神聖魔法が、闇を好むレイスたちの霊体を焼き払い、断末魔の悲鳴とともに次々と消滅させていく。彼女の精妙な魔力コントロールが、押し寄せる呪いの波をしっかりと食い止めていた。
そして、その混戦の中心で、冷徹に道を切り開く男がいた。
「邪魔だ」
カイエンは魔剣を一閃させ、群がるゾンビと屍人の群れをまとめて両断しながら、一歩、また一歩と前進していく。彼の右目が捉えているのは、里の上空で禍々しい紫色のノイズを吐き出し続ける、空間の裂け目――元凶である「転移門」の座標だ。
周囲の雑魚など眼中にないと言わばかりに、圧倒的な殺意と煤剣の鋭光を纏いながら、カイエンはまっすぐに転移門へと接近していくのだった。
周囲の雑魚を蹴散らし、禍々しい紫色のノイズを放つ転移門の真下にまで到達したカイエン。
だが、その足がピタリと止まる。空間の裂け目がぐにゃりと歪み、そこからこれまでにないほどドス黒く、おぞましいまでの異界のプレッシャーが溢れ出した。
「……っ! なんだ、この気配は……!」
空間が引き裂かれ、ゲートの中心から現れたのは、これまでのアンデッドとは次元の違う存在だった。
頭上に茨の冠を戴き、崩壊した神殿の残骸を従えたかのような、骸骨の巨躯。その全身はドロドロとした緑色の腐敗液と紫色の呪詛にまみれ、周囲の空間そのものを異質な瘴気で歪ませている。それはまさに、世界から見捨てられた「忘れられた神」の具現そのものであった。
その怪物が放つ「使徒のバグ」を帯びた神2格の威圧感が、周囲の空気を押し潰すように重く伸しかかる。
「ぐっ……があ……っ!」
圧倒的な質量を持つ悪意と、脳を直接かき乱されるような神気的プレッシャー。
普段はどんな修羅場でも冷徹さを失わないカイエンが、その場に片膝をつき、激しい眩暈と吐き気に襲われた。
「っ、が……っ……!!」
込み上げる胃液を抑えきれず、カイエンは思わず地面に手を突き、口元を押さえて生々しく嘔吐した。
全身の血管が逆立ち、魔眼で見通す現実のコードが焼き切れるほどの過負荷。あまりの力の格差、そして不浄極まりない「使徒の最高位残滓」の吐き気が、カイエンの肉体と精神を限界まで追い詰めていく。
「カイエン……っ!?」
異変に気づいたアイフェリスが、戦いの合間を縫って叫び声を上げた。
立っていることすら困難なほどの絶望的な巨悪を前に、最強のメカニックであるカイエンは、煤剣を杖代わりにしながら血走った瞳でその怪物を睨みつける。
異界の王のごとき威圧感を放つ「忘れられた神」の残滓。その圧倒的な悪意と神気的プレッシャーの前に、カイエンは膝をつき、激しい吐き気に身悶えていた。
「カイエンっ……!!」
遠方でザコを蹴散らしていたアイフェリスがその異常事態に気づき、青ざめた顔で叫ぶ。彼女は仲間を、そして愛しい男を救うため、自らの王家長杖を天高く掲げ、全身の魔力を限界まで絞り出した。
「――我が聖域の加護よ、彼の者の魂を奮い立たせなさい! 『ライオンズハート』ッ!!」
眩い黄金色の獅子の紋章が空中に浮かび上がり、清浄な光の奔流となってカイエンの全身を包み込む。
精神を焼き切るような吐き気とオーバーロードの痛みが急速に浄化され、カイエンの瞳に再び鋭い光が宿った。
「っ……ふぅ……!」
カイエンは荒い息を整えながら地面を蹴って跳ね起き、煤剣をしっかりと握り直して体勢を立て直す。
その背後に、圧倒的な威圧感に気圧されながらもヒナとマキマが飛び込んできた。
「おいおい……なんだあのデカブツはよ。あれが『使徒』ってやつかい? あんなの、どうやって倒すのさ?」
ヒナが冷や汗を流しながら冷徹な怪物を指差して尋ねる。しかし、カイエンは険しい表情のまま、首を横に振った。
「いや……使徒に近い波動はあるが、あれは本体じゃない。あの転移門から流れ出た高濃度の残滓が結実した――ただの『幻影』だ」
「なんと!? あれが使徒本体じゃないってマジでありますか……! こんな化け物が『残りカス』だなんて、笑えないジョークでありますよ!」
マキマが驚愕に目を見張りながら、ガトリングを構え直して身構える。
周囲で防衛線を展開していたエルフの兵士たちも、その禍々しすぎる巨影を目の当たりにして、恐怖に震えながら口々に叫び声を上げた。
「なんだあれは……!」
「この世のすべての不吉と呪いを凝縮したような……あんなものが相手にできるのか……!?」
ざわめく戦場の中、カイエンは不敵に、だが冷徹に笑ってみせた。
幻影だろうが何だろうが、目の前で世界を狂わせる元凶であるならば、両断するのみだ。
使徒の幻影との勝負これからが本番でございます!
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