EP75 帝都の変異と、臨戦態勢
「っ……!? この鐘は……!」
アイフェリスが表情を凍りつかせ、激しく揺れる窓の外へと視線を走らせる。
海を隔てた帝都の空が、あり得ないほどの禍々しい紫色のノイズと異常な黒煙に染まっていく。そのただならぬ光景に、アイフェリスは青ざめた顔で振り返った。
「窓の外を眺めるアイフェリスなにがあったの!? 疫病……この帝都で起きているの!?」
ただ事ではない気配に、ベッドの上でカイエンがスッと目を細める。彼は片手で負傷した肩を押さえながら、鋭い眼光を窓の外の空間へと向けた。
「……『魔眼』、開眼」
カイエンの右目が異様な光を放ち、遠方で揺らめく紫色のノイズの正体を精密に解析し始める。空間の歪み、魔力の奔流、そして通常の物理法則を無視した綻び。
「あれは……転移門だ」
「なっ……! 転移門だって……!?」
「なぜここに、使徒の残滓が漏れ出ている。しかも、尋常じゃないほど濃い……。元老院の残党どもが、王都の内部で意図的に仕掛けやがったな」
カイエンの冷徹な分析に、部屋の空気が一気に張り詰める。
ボサボサ髪を掻きながら、ヒナが面白くなさそうに片眉を吊り上げた。
「あらら……。せっかくベッドで一息つけると思ったのに、少しヤバ目じゃないのこれ?」
「ただことならぬ事態でありますな……。せっかくの美味しいお茶の時間が台無しでありますよ」
マキマがやれやれといったふうに肩をすくめるが、その瞳の奥には戦闘民族としての鋭い闘気が宿っている。
「……! 私たちがのんびりしている場合じゃないわね。帝都の民を、そして女王様を……!」
アイフェリスが杖を強く握りしめ、決意に満ちた表情で顔を上げる。
そんな彼女たちの様子を一瞥し、カイエンはゆっくりとベッドから足音を立てて立ち上がった。負傷の痛みなど微塵も見せず、己の魔剣をその手に引き寄せる。
「迷ってる暇はない。……全員、戦いの支度だ」
自宅から飛び出し、エルフの里の大通りへと足を踏み出した彼らの目に飛び込んできたのは、言葉を失うほどに凄惨な光景だった。
「嘘……でしょ……」
そこにあったのは、数日前に地下神殿の最奥で目撃した悪夢そのものだった。
紫色のノイズを纏ったゾンビの群れ、全身を腐食させた屍人、不気味に白骨を鳴らすスカルソルジャー、そして空中を漂いながら生者の生気を奪うレイスたち――。おぞましいアンデッドの軍勢が、平穏だったエルフの里へと雪崩れ込み、住民たちに牙を剥いていたのだ。
「きゃあぁぁぁっ! 逃げて……!」
「ぐああっ、来るな……!」
悲鳴と破壊音が交錯する中、アンデッドの群れに囲まれ絶体絶命に陥るエルフの民たち。
その混乱の最中、血まみれになりながらも前線で指揮を執っていた副兵士長が、アイフェリスたちの姿を見つけて必死の形相で駆け寄ってきた。
「アイフェリス様……っ!!」
「副兵士長! いったい外で何が起きているの!? 状況を教えてちょうだい!」
アイフェリスの問いかけに、副兵士長は苦悶に満ちた表情で周囲の惨状を指差しながら報告を叩きつける。
「王都方面に繋がっていたはずの巨大な転移門が突如として里の上空に出現し、そこから数え切れないほどのアンデッドが降ってきたのです! 治安維持の部隊が迎撃にあたっていますが、使徒のバグを纏った連中は通常の魔法や物理攻撃では再生してしまい、防衛線を突破されつつあります……! このままでは里が全滅します!」
被害の甚大さに息を呑む暇すらない。
アイフェリスは我が身を震わせる恐怖を叩き伏せ、王族としての誇りと気高さをその瞳に宿すと、大きく息を吸い込んで里全体へと響き渡る声で叫んだ。
「怯まないで! 避難を最優先にしつつ、戦闘可能な者は防衛線を死守して!」
さらに、アイフェリスは自らの杖を強く掲げ、信頼する仲間たちへと的確な戦闘の指示を下す。
「カイエン、マキマ、ヒナ! あの転移門の核を叩き、アンデッドの増援を断つわよ! 騎士たちは私に続け、住民を安全圏へ誘導しつつ、迎撃陣形を構築して――総員、反撃開始よっ!!」
龍を倒してハッピーエンドと思いきやこちらがメインでございます!!
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