EP71 煤剣の覚醒と、竜断の一閃
神殿跡に広がる純白の聖域の光。アイフェリスの指揮のもと、元老院の騎士たちが総員で放った魔力支援が、カイエンの背中へと強烈に注ぎ込まれる。
「――ほう」
カイエンの右目が怪しく、鋭く光り輝いた。
『魔眼』が解放され、アンデッド・ドラゴンの肉体に刻まれた無数のバグ、すなわち致命的な弱所の光点を寸分狂わず捉えきる。
その瞬間、カイエンが手にする漆黒の魔剣が、音もなく不気味な灰色へと変色した。
あらゆる理を無効化し、万物をすり潰す特異点――『煤剣モード』への完全移行である。
「ガァァァァーーッ!!」
ドラゴンが怒号と共に、再び圧倒的な熱量と死毒を孕んだ破滅のブレスを吐き放った。すべてを焼き尽くす光の奔流がカイエンを呑み込もうと迫る。
「消えろ」
だが、カイエンは微動だにせず、灰色に変色した煤剣を静かに振り抜いた。
――ズパァァン!!
放たれたブレスは中心から真っ二つに両断され、カイエンの左右へと綺麗に逸れて神殿の壁を吹き飛ばす。ブレスを切り裂いた勢いのまま、使徒の力を強大に降ろしたドラゴンが全身を暴走した魔力で強烈に纏い、怒りの牙を剥いた。
巨体がうねり、死角から凄まじい速度で叩きつけられるドラゴンの巨大な尻尾の薙ぎ払い。
神殿の石畳すら粉砕する一撃を、カイエンは片手で受け止め、ガシリと足を踏みしめて完全にその勢いを抑え込む。
「ももクロ……いや、終わりだ」
踏み込んだカイエンが煤剣をひと振り。圧倒的な硬度を誇るドラゴンの尻尾の付け根を、灰色の刃がバターのように滑らかに、しかし確実に断ち切った。
ドサッ、と巨大な尻尾が地面を揺らし、ドラゴンが苦痛の絶叫を上げる。
さらに、アイフェリスたちの魔力支援と魔眼のコード解析が極限まで高まり、カイエンが持つ煤剣そのものがガゴゴゴッと轟音を立てて異様に肥大化していく。
「――『断絶終式・一文字裂断』」
膨れ上がった灰色の巨剣を両手で構え、カイエンは空間ごとすべてを薙ぎ払うように、鮮烈な横一線を閃かせた。
世界が音を失ったかのような静寂の直後、アンデッド・ドラゴンの巨大な巨躯の真ん中を、美しく完璧な一筋の亀裂が走り抜けるのだった。
神殿全体を揺るがした巨大な一撃の余韻が静まり返り、アンデッド・ドラゴンの巨躯は崩れ落ちて霧散していく。
すべての戦いを終えたカイエンは、限界を超えた反動でふらりと体勢を崩した。その倒れ込む体を、アイフェリスが素早く駆け寄り、しっかりと抱き止める。
「カイエンっ……!」
腕の中で息を整えるカイエンに、アイフェリスは安堵と焦りが入り混じった表情を向ける。カイエンは微かに自嘲気味に口元を緩めると、荒い息を吐きながらぽつりと呟いた。
「……ふん。お前たちや、あの騎士どもの魔力支援がなければ、体が持たなかったな……。……助かった、礼を言う」
その不器用ながらも素直な感謝の言葉に、アイフェリスは胸を打たれる。彼女はカイエンの傷ついた体を優しく支えながら、潤んだ瞳で首を横に振った。
「私こそ……。貴方たちをこんな危険な戦いに巻き込んでしまって、本当にごめんなさい……っ」
その様子を少し離れた場所で見守りながら、先頭に立っていた副騎士団長が深々と頭を下げた。騎士たちは自らの無知と保身、そして過ちを心から恥じ、悔悟の念に駆られていた。
「我々は……なんて愚かなことを……!」
「姫殿下、我々の失態、一生をかけて償います。――これを受け取ってください!」
副騎士団長が懐から差し出したのは、今回の使徒の暗躍と元老院の隠蔽、そして竜の暴走に関する真相が記された正式な書状だった。
「これを王都の女王陛下に直ちにご報告を! 我々は周辺の残党処理と救助にあたります!」
「ええ、頼んだわ。……みんな、怪我人の手当てを急いで!」
アイフェリスの毅然とした指揮のもと、元老院の騎士たちは手際よく散らばり、神殿跡の瓦礫の撤去や負傷者の救護へと動いていく。やがて、騒がしかった神殿跡には、静かな空気が戻ってきた。
敵の脅威が去り、静けさに包まれた崩壊跡の一角。
アイフェリスはカイエンの肩の傷に包帯を巻き、丁寧に手当てを施していた。ピリピリとした緊張が解け、二人の間にどこか穏やかで温かい、いい雰囲気が漂い始める。
「……痛むか?」
「ううん、平気……。貴方こそ、無茶ばかりして」
ふと、カイエンを見上げるアイフェリスの頬が微かに朱を染める。高まる鼓動を抑えきれず、彼女は潤んだ瞳でそっとカイエンの胸元に視線を落とした。
――わたし、貴方のこと……。
言葉にしそびれた本当の想いを飲み込みかけ、アイフェリスが意を決して顔を上げた、その瞬間。
「…………」
「…………」
薄暗い瓦礫の陰から、ボサボサ髪のマキマと、スレンダーなヒナの二人が、じーーーーーーっ……と、冷ややかな、あるいは面白がるような視線を向けてこちらを直視していた。
「「……で、何イチャついてるでありますか?(何やってるの?)」」
「「…………」」
あまりのタイミングの良さと、気の抜けるような気まずさに、アイフェリスは真っ赤になってパッとカイエンから飛び離れ、カイエンは面倒くさそうに盛大な溜息をつくのだった。
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