EP69 死毒のブレスと、崩れゆく防衛線
死毒のアンデッド・ドラゴンが巨大な顎を大きく開き、喉の奥に禍々しい紫色の光を収斂させる。すべてを焼き尽くし、あらゆる有機物を腐敗させる破滅のブレスが放たれた。
「――来るぞ!」
カイエンが踏み込み、漆黒の魔剣を鋭く振り抜く。
「断絶壱式・『虚空剥ぎ(こくうはぎ)』――!」
空間の理そのものを断ち切る神速の斬撃が、放たれたばかりの死毒のブレスと正面から衝突した。
次の瞬間、すさまじい閃光と共に地下神殿が揺れ動き、凄まじい大爆発が巻き起こる。衝撃波が周囲の瓦礫を吹き飛ばし、圧倒的な暴風が吹き荒れた。
「うそ……嘘でしょ……!? あの竜のブレスを、一撃で相殺した……どころか、空間ごと爆発させたって言うの……!?」
吹き荒れる熱風の中、アイフェリスは信じられないものを見る目でカイエンの背中を見つめ、驚愕に息を呑んだ。
だが、爆煙が晴れる間もなく、アンデッド・ドラゴンは禍々しい翼を羽ばたかせ、次なる一手へと移る。その口元から、周囲の石畳をも一瞬でドロドロに溶かす強烈な「酸の雨」が広範囲に降り注いだ。
「きゃっ……! 結界、展開っ――!」
アイフェリスが咄嗟に全魔力を込めた防壁を張り、自分と周囲の兵士を守ろうとする。しかし、使徒のバグを含んだ強酸の溶解液はエルフの魔導結界をも容赦なく侵食し、ギギギと嫌な音を立てて削り取っていく。
「ああっ、手が、溶ける……っ! 助けてくれ……!」
「うわああああっ――!」
アイフェリスの守りきれなかった隙間から、逃げ遅れた数人の兵士たちが酸の直撃を受け、断末魔の叫びを上げる間もなく、文字通り泥のように溶けて消えていった。
「くっ……!」
凄惨な光景にアイフェリスの顔が青ざめる。カイエンは酸の雨を軽やかな身のこなしで次々と回避しつつ、次の攻撃の隙(バグの綻び)を鋭く観察していた。
しかし、アンデッド・ドラゴンはさらなる異常な行動に出る。
全身から放つ瘴気を逆巻かせ、先ほど毒に倒れてゾンビ化した兵士たちの遺体を、次々と自身の巨躯へと「吸収」し始めたのだ。取り込まれた屍人たちの生命エネルギーが竜のコアへと逆流し、その体表の輝きがさらに凶悪なまでに膨れ上がる。
「生贄を喰らい、魔力を強制増幅させてやがる……っ!」
ドクン、と神殿の空気が脈打つ。アンデッド・ドラゴンの口元に、先ほどを遥かに超える禍々しい収束光が集まった。
放たれたのは、すべてを消滅させる吸収エネルギー・ビーム――『デス・レイ・バースト』だった。
「間に合わない……!」
直撃すればこの地下神殿ごと消し飛ぶほどの特大ビームが迫る中、カイエンは咄嗟に片手で足元の地面を力任せに叩きつけた。
「――『地脈解放・理律陣』!」
轟音と共に、カイエンの魔力が大地を伝わり、地下神殿の床から無数の青白い魔力の柱が噴き出して巨大な障壁を形作る。ビームと魔力の柱が激突し、世界が引き裂かれるような轟音が響いた。
だが、ゾンビの命を吸収して強化されたビームの出力は、カイエンのとっさの防壁の限界を優に超えていた。
「ぐっ……!」
魔力の柱がバリバリと音を立てて砕け散り、圧倒的な衝撃がカイエンを直撃する。防壁を貫いた余波が彼の体を襲い、カイエンは鮮血を微かに飛ばしながら、膝をつきそうになるほどの深いダメージを負ってその場に押し戻されたのだった。
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