EP6 残響の整理
広場に、ハイルの鎧が砕け散った後の金属音が虚しく響いた。
ユウナは崩れ落ちた鎧の欠片を抱きしめ、肩を震わせている。小さな背中が、今の彼女が抱える喪失感の深さを物語っていた。
カイエンは静かに歩み寄り、ユウナを見下ろした。
「……盾にするなとは、どういう意味よ」
ユウナは顔を上げず、掠れた声で問う。
「……ハイルお兄様を、私の盾にしたっていうの? そんなこと……一度も思ってない!」
「いいや、無意識のうちにそうしていた」
カイエンは冷徹に言い放つ。だが、その声は以前よりもわずかに低く、響いた。
「お前は、ハイルという『過去の亡霊』を盾にして、自分の意志で戦うことから逃げていた。あの個体はハイルじゃない。ハイルの剣技をコピーしただけの、ただのセキュリティだ。……だがお前は、あいつをハイルとして扱うことで、自分で決断して敵を殺すという『責任』から目を逸らそうとした。それが、お前を盾にさせていた原因だ」
ユウナは息を呑んだ。
図星だった。自分の中にあった、悲劇のヒロインでいれば、この過酷な現状と向き合わなくて済むという逃避心。それを見抜かれていたことに、彼女は顔を紅潮させる。
「……あんたは、本当にひどい男ね。傷ついている人間に追い討ちをかけるなんて」
「それが俺の仕事だ。整理というのは、ノイズを取り除くことと同義だからな」
カイエンは腰のポーチから清潔な布を取り出し、ユウナの前に差し出した。
それは、彼が自分の装備を磨くために使っているものだ。
「……ハイルの剣技は、無駄がなかった。お前がそれを継いだのなら、あいつのデータ(プログラム)が死んだわけではない。お前の中で、あいつの剣が生き続ける」
ユウナはその布を受け取り、涙を拭った。
カイエンの言葉は冷酷だが、どこかハイルの最期を肯定してくれているようにも聞こえた。
「……あんたさ、もしかして不器用?」
「管理職に不器用も効率も関係ない。ただの定石だ」
カイエンは背中を向けて歩き出す。
ユウナはその背中を見つめ、新しい短銃剣をしっかりと握りしめた。
彼女の中で、ハイルという「守ってくれる存在」への執着が消え、カイエンという「共に戦うパートナー」への信頼が取って代わっていく。
「……行くわよ。次は、あんたの言う『ゴミ掃除』、しっかり手伝わせてもらうわ」
ユウナが立ち上がり、カイエンの隣へと並ぶ。
その足取りには、もう迷いはなかった。二人の間には、言葉以上の確かな「整理」が完了していた
朗読ありがとあございます。
続きが気になったら、ぜひブックマークや評価(星評価)をお願いします!励みになります!
いつも読んでいただきありがとうございます!この三連休は『灰の監視員』を一気に楽しんでいただきたく、連休限定の特別更新を行います。3日間、毎日20時と21時の2回、計6話を一気にお届けします!




