EP67 科学の意地と、秘剣を砕く反撃
髷の剣士――その圧倒的な神速の居合いに敗れ、石畳に崩れ落ちたマキマとヒナ。
視界が急速に薄れゆく中、マキマの脳裏に走ったのは、かつてカイエンに背負い式のファンネル装置を見せたときの記憶だった。
【回想】
「おい、これ……よく出来てはいるが、エネルギー効率の配線に無駄が多いぞ」
「なっ、私の最高傑作になんてことを言うでありますか!」
「貸せ。……ついでに、ここをこういじれば、緊急時の出力リミッターが外せるように改良の余地があるぞ。少し手を加えておく」
「わたしの子供に勝手に変な改造を施さないででありますよーーっ!!」
「文句言うな、実戦で生き残る確率が上がるだろ」
「……そういえば、あのとき……あの男が……勝手に仕込んだ……」
薄れゆく意識の中で、マキマの背中に埋め込まれたカイエン特製の「隠しリミッター回路」が、彼女の強い怒りと執念に反応して勝手にカチリと音を立てて起動した。
プシューーーッ! と、倒れたマキマの背中のコンテナから不気味な冷却ガスが噴き出す。
「おや、まだ動くか」
剣士が冷ややかに黒刀を構え直し、トドメを刺そうと一歩踏み出したその瞬間――!
マキマの背負っていた機械仕掛けのファンネルたちが、意思を持ったようにガキィィンと鋭い金属音を立てて勝手に起動した。
「――私の科学を……おもちゃ扱いするなああああっ!!」
マキマの叫びと共に、システムが完全に暴走。カイエンの改造によって本来のリミッターを超えた高エネルギーが解放され、周囲の暗闇を激しい電磁のスパークが焼き尽くした。
「なに……!?」
突然の想定外のエネルギー波に、流石の剣士もわずかに視界を奪われ、動きが鈍る。
その刹那――「今だ……っ!」と、倒れていたはずのヒナが、薄目を開けて凄まじい執念で懐から取り出した特製の毒塗りの投げナイフを放った。
ヒュンッ! と闇を切り裂いたナイフが、剣士の防具の隙間、肩口を正確に掠める。
「くっ……!」
麻痺性の毒が瞬時に剣士の神経を蝕み、その完璧だった神速の身のこなしがわずかに重く、鈍った。
「私の科学は、おもちゃなんかじゃないでありますよ……!!」
マキマが血まみれの手で地面を叩き、全神経を集中させて叫ぶ。
その声に応えるように、散らばっていたファンネルたちが光の軌跡を描きながらガシャガシャと複雑に変形・合体を始めた。数機の浮遊砲台が美しく組み合わさり、マキマの目の前で巨大な「トライアングル型」の陣形を構築する。
「これが、私の全エネルギーの集大成……! トライアングル・レールガン・バースト!!」
ドオオオッ!! と、三角形の頂点から放たれた圧縮電磁ビームが、空間の理をねじ曲げるほどの超高出力で、目の前の剣士を真正面から完全に飲み込んだ。
凄まじい爆風と電磁の嵐が地下通路を揺らし、すべてが静まり返ったとき――。
髷の剣士は黒刀を杖のように地面につきながら、ついに膝をつき、その場に力なく倒れ伏したのだった。
「……ヒナ、大丈夫でありますか?」
煙が立ち込める地下通路の隅で、マキマがボサボサ髪を揺らしながら、ゼーゼーと荒い息をつくヒナに駆け寄る。
紙耐久の身体で剣士の斬撃を受け、一時はどうなることかと思ったが、ヒナは痛む体を無理やり起こすと、自慢の野性の勘ですぐにポケットから傷薬を取り出し、器用に手際よく自分の傷口に塗って応急処置を済ませた。
「はぁ、死ぬかと思った……。マキマ、あんたのその変な機械、たまには役に立つじゃん」
「たまにはって何でありますか! 私の最高傑作でありますよ!」
ぷりぷりと怒りながらも、マキマはホッとしたように胸をなでおおろす。
そして、先ほどの戦闘で暴走した背中のメカ――カイエンが勝手に改良を施していったリミッター回路の残骸をそっと撫でながら、複雑そうな、しかしどこか照れくさそうな顔で小さく呟いた。
「……助かったでありますよ。あいつに、少しだけ……感謝でありますね……(ぼそ)」
「ん? なんか言った?」
ヒナが不審そうに首をかしげながら聞き返すと、マキマは慌てて顔を真っ赤にし、両手を激しく横に振った。
「な、なんでもないでありますよ! 聞き間違いであります!」
「ふーん……?」
「もう! ぐずぐずしてたら置いていくでありますよ! さっさと応急処置を終わらせたら、もっと奥へ進むであります――っ!」
ごまかすように大股で先へ歩き出すマキマの背中を見送りながら、ヒナは苦笑いを浮かべて立ち上がる。
ボロボロになりながらも絆を深めた二人は、カイエンとアイフェリスが待つ地下最奥へと、再び足を踏み出していくのだった。
マキマとヒナのコンビが活躍したシーンエピソードの中でかなり好きです。
気持ちが入りすぎて今後のエピソードにも登場していきますのでお楽しみに!
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
「続きが気になる!」「面白かった!」と思っていただけましたら、
☆☆☆☆☆評価やブックマークで応援していただけると、とても励みになります!
皆さまの応援が、執筆を続ける大きな力になります。
また次話でお会いしましょう!




