EP66 重々しい扉と、黒刀の番人
マキマの放ったド派手なプラズマティック・バーストの余韻が冷めやらぬまま、崩壊しかけた地下遺跡のさらに深部を進む二人。
瓦礫を乗り越えた先に突如として現れたのは、地下の空間には不釣り合いなほど厳めしく、異様な重厚感を放つ「重々しい扉」だった。
「なんだこの古い扉は……いかにも何か隠されてますって雰囲気でありますよ」
マキマがボサボサ髪を揺らしながら首をかしげたその時、ギィィ……と重苦しい音を立てて、その扉がひとりでにわずかに開き始めた。
「……誰だ」
冷たく、それでいて鋼のような重みを持つ声が暗がりから響く。
扉の前に立ち塞がっていたのは、一人の剣士だった。
漆黒の日本刀を腰に携え、綺麗に結い上げられた髷の髪型。古の侍を思わせるその男は、静かに抜身の気を纏いながら二人を見据えていた。
「招かれざる客とは何年ぶりか。しかも、おなごとはな」
剣士の鋭い視線が、マキマから隣に立つヒナへとスライドする。
ヒナは思わずゴクリと唾を呑み込み、臨戦態勢で短剣を構え直した。
「ひな……っ! あぁ、やばい雰囲気がピリピリするであります……!」
「待って、あいつ……エルフじゃない。人間だ、なんで?」
「えっ、人間でありますか!?」
「だって、ここはエルフの聖地の地下だよ!? エルフと人間は仲悪いんじゃなかったっけ!?」
ヒナが焦ったように声を裏返すと、マキマは真顔で両手を広げた。
「私が聞きたいでありますよ! なんでこんな場所に人間の侍がいるのでありますか!」
二人の慌てた様子を一瞥し、黒刀の番人はふっと冷ややかに息を吐いた。
「ここで立ち去るのであれば、咎めはしない。――しかし、無理に通るのであれば、その首、貰い受ける」
殺意が、空間の温度を一瞬で氷点下まで引き下げる。
逃げ道はない。カイエンたちの待つ最奥へ進むため、二人はこの謎の剣士を相手に、いよいよ死闘を繰り広げることになった。
「おらあっ……!」
ヒナは持ち前の素早さを活かし、一気に間合いを詰めて短剣で斬り込んだ。
カキィィン! と、重く鋭い金属音が地下通路に響き渡る。黒刀を受け止めたヒナは、剣士と至近距離で鍔迫り合いの形勢になった。
「っ……この間合いなら、身軽な私の方が有利のはずなのに、何この身のこなし……っ!」
ヒナの驚愕をよそに、髷の剣士は微動だにせず、むしろ圧倒的な重心の安定感で押し返していく。
「ヒナ、援護するであります!」
マキマが背中のコンテナからファンネルを一斉に展開し、剣士の背後へと電磁ビームの連射を浴びせた。
しかし、剣士はヒナを押し返しつつ、振り返りもしずに黒刀を神速で一閃する。ズキューンと放たれたはずのファンネルのビームは、見事に真っ二つに両断されて霧散した。
「甘いな」
剣士の体が風のように流れる。ビームを両断したその勢いのまま、死角からヒナへと黒刀の刃が迫る。
ヒナは紙一重で致命傷を避けたが、風圧と鋭気が彼女の肌を裂く。
「連携はよし。――しかし、実戦が足りていなすぎる。踏んできた死線の数が違うわ」
剣士の冷徹な一言が響いた瞬間、二人が完全にすれ違う。
――ズパッ!
「え……っ?」
ヒナの動きがぴたりと止まる。ローブが浅く裂け、鮮血が舞い散った。紙耐久の身体に刻まれた深いダメージに耐え切れず、ヒナはそのまま崩れ落ちるように石畳へと倒れ込んだ。
「ヒナ――っ!?」
仲間が倒れた絶望と怒りに、マキマの脳が沸騰する。
ボサボサ髪を逆立て、マキマは背負っていた大型電磁砲を瞬時に引き抜いた。
「よくもヒナを……! もう許さないであります、お前の顔面を蜂の巣にしてやるでありますよ……!!」
怒りに任せて電磁砲のトリガーを引こうとしたその瞬間――マキマの視界から、目の前にいたはずの剣士の姿がふっと消えた。
「なっ……!?」
次の瞬間、マキマの鼻先を冷たい風が掠める。目の前にすでに回り込んでいた髷の男が、静かに刀を構えていた。
「秘剣――『月影零式』」
見えないほどの神速の居合い抜きが、マキマの電磁砲の銃身ごと、その胸元を浅く切り裂いた。
ガシャアアアッと愛用の武器が地面に崩れ落ち、マキマはあまりの速さに状況が理解できないまま、その場に力なく膝をつく。
「……見事な科学の玩具だが、刃の重みを知らぬ者に勝利はない」
黒刀を静かに鞘へと収めながら、剣士は冷ややかにそう言い放つのだった。
遂に、マキマとヒナの初戦闘です!
割と好きな組み合わせです!
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