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不適合者のレギュレーター  作者: シャロン=ミ
使徒の残滓戦争編

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EP65 誤解の連鎖と、目覚めの予兆

見ろ……! あの人間、自らの肉体を自ら崩しておるぞ!」

 元老院の騎士たちの間に、決定的な動揺と恐怖の波が走った。

 カイエンの身体から漂う「理の崩壊」のノイズ、そして空間を歪ませる不可解な現象を目の当たりにした彼らは、その光景を文字通り最悪の方向へと解釈した。

「聖域を蝕み、木々を枯れさせている『疫病の元凶』……それこそが、この人間の持っている異形の力そのものだったのだ!」

「そうだ! 森を腐らせていたのはあの男の呪いだったんだ!」

 騎士たちの恐怖は、狂気じみた敵意へと急速に塗り替えられていく。

 彼らにとって、エルフの伝統や理屈などもうどうでもよかった。目の前にある「理解不能なバグ」を放っておけば、自分たちの世界がすべて消し去られてしまうという強烈な脅迫観念が、彼らの理性を完全に焼き尽くしていた。

 さらに、彼らの脳裏をよぎったのは、古の伝承に語り継がれる「封印された竜」にまつわる不吉な予兆だった。

 ――王国の滅亡をもたらす災厄の再来。その前触れとして、地底の深淵から現れた「世界の理を壊す者」。

「元老院の御沙汰を待つまでもない。あの怪物をここで討ち滅ぼし、聖域の浄化を果たせ!」

 騎士隊長の絶叫と共に、一斉に放たれた無数の魔導の矢と鋭い槍の雨が、カイエンとアイフェリスへと襲いかかる。

「っ……!」

 アイフェリスは咄嗟に剣を抜き、飛来する矢を弾き落とそうと身構えたが、負傷した身体ではすべての攻撃を防ぎきれない。

 その背後から、カイエンが冷ややかに鼻を鳴らした。

「話の通じない馬鹿どもだ。……いくら真実を説いたところで、恐怖に駆られた連中には届かないか…」

 カイエンが再び魔剣を振り抜くと、空間を切り裂くような「解体」の衝撃波が騎士たちの放った攻撃を木端微塵に粉砕した。

 しかし、その衝撃波の余波が周囲の古い石壁を激しく揺らし、天井から無数の亀裂が走る。

 ゴゴゴゴ……! と、地底の底からまるで意思を持った獣のような地鳴りが響き渡った。

「――馬鹿な……っ!」

 アイフェリスは、足元から伝わる凄まじい振動を感じ取り、絶望に満ちた表情で青ざめた。

 自分たちの内輪揉みと、カイエンへの誤解に満じた攻撃が、数百年間眠り続けていた「封印された竜」の完全な目覚めのスイッチを押してしまったのだ。

 地下回廊の崩落が始まり、闇の奥から圧倒的な熱量と、すべてを焼き尽くす殺意の気配が迫る。

 誤解の連鎖がピークに達した最悪の戦場で、彼らはついに、真の災厄と対峙することになるのだった。


聖地の地下深くでカイエンとアイフェリスが絶望的な竜と対峙しているその頃、地上に近い牢獄エリアでも激しい揺れが走っていた。

「わわっ!? なんですかこの揺れは! いよいよ遺跡全体が崩壊するのであります!?」

 床に転がりかけたマキマが、必死に鉄格子にしがみつきながら叫ぶ。天井の石材がバラバラと崩れ、周囲の独房からは他の囚人たちのパニックを起こした怒号が響いていた。

「のんきに待ってたら生き埋めだよ。……ほら、開いた」

 隣の独房から、ヒナが身軽にしなやかに身を翻しながら声を張り上げた。彼女は自身の髪に挿していた「特製の盗賊ピン」を巧みに使いこなし、わずか数秒で魔導錠をピッキングして自分の檻、そしてマキマの檻を次々と開け放ってみせた。

 二人は崩れゆく牢獄の廊下を駆け抜け、下層へ通じる階段を目指したが――その退路を塞ぐように、瓦礫の隙間から這い出してきたのは、理の崩壊に侵された異形の「下級屍人グール」の群れだった。

「うわ、さっそくお出迎えでありますか!」

「下がってて、マキマ!」

 ヒナがしなやかなスレンダーボディをバネのように跳ねさせ、宙を舞う。純血エルフと人間の血を引く彼女特有の野性の敏捷性で、迫りくるグールの群れの懐へ一気に潜り込んだ。

 ヒナの放つ鋭い回し蹴りが先頭の怪物の首を捉え、粉々に砕き散らす。

「後方は任せるであります!」

 マキマも負けじと、懐から取り出した自作の電磁パルスグレネードを地面に叩きつけた。

 バリバリと青白い電撃が広がり、周囲のグールたちの動きが完全にショートして硬直する。その隙を逃さず、ヒナの鋭い蹴りとマキマのガジェットが綺麗に噛み合い、追手たちを次々と無力化していった。

「ふふん、メカニックとシーフのコンビネーションにかかれば、この程度の雑魚――」

「調子に乗ってる暇ないよ、あそこ!」

 二人が敵を蹴散らした瞬間、さらなる激しい地鳴りと共に、彼女たちの足元の床が盛大に抜け落ちた。

「きゃあああ――っ!?」

「うわ、マジかよ――っ!?」

 重力に引かれるまま、マキマとヒナは崩落する土砂と共に、地下の闇へとまっさかさまに落下していくのだった。

遂にマキマとヒナがダンジョン入りです。

ここから、戦闘が苛烈化してきます!お楽しみに

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

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また次話でお会いしましょう!

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