EP54 灰色の砂塵に響く歯車と、軽口の二重奏
時は少し遡り、カイエンがアクアマリンを出航し、西の砂漠へ辿り着いた頃の話である。
かつて繁栄し、今は遷都して無人となった都市の瓦礫の上で、カイエンは静かに佇んでいた。西へ向かう旅路。彼は使徒の残滓を追い求め、一人で荒野を歩んでいた。
その静寂を破るように、金属が軋む音が響いた。
「また壊れたであります!? どうしてわたすの設計図通りに動かないでありますか!」
瓦礫の山から聞こえる苛立った声に、カイエンは足を止めた。声の主を探して視線を向けると、そこにはボサボサの髪を無造作に束ねた小柄な女が、壊れた機械を前に頭を抱えていた。
小柄な体躯とは裏腹に、胸元は目を引くほど豊かに膨らんでいる。彼女は巨大な電子砲を背中に背負い、その足元では小型のファンネルが、まるで主人の機嫌を伺うように低空でホバリングしていた。
「……メカニックか」
カイエンは一瞥し、関わり合いになるのも面倒だと判断して、そのままスルーして通り過ぎようとした。
「あ! そこ! 逃げるんじゃないであります! こんな美少女を見捨てるなんて、薄情な男であります!」
カイエンは呆れて足を止め、振り返った。
「……美少女が自称するものか。それに、俺はただの旅人だ。他人の機械修理に付き合う義理はない」
「そんなことより! わたす、もう三日も何も食べてないであります……何か食べ物を恵んで欲しいであります! 餓死したらわたすの技術が歴史の闇に消えてしまうであります!」
そう言って腹の虫を盛大に鳴らした女は、ふらふらとカイエンの前に歩み寄ると、堂々とした態度で自己紹介を始めた。
「わたすはマキマ! 帝国守備隊所属の技術屋であります! ……ま、色々あって今は帝国から離反した身ですけどね。この電子砲の設計からファンネルの調整まで、何でもこなす兵器の専門家であります!」
「帝国守備隊……」
カイエンの表情が一瞬、鋭く刺すような色に変わった。かつて彼が戦場で見かけ、その組織が犯した非道を記憶しているからだ。マキマがその一員だったという現実に、周囲の空気が少しだけ気まずく冷え込む。
「……俺はただの旅人だ。使徒の残滓を探して、こうして各地を歩いているだけだ」
カイエンは素っ気なく答えると、干し肉と水筒を取り出し、マキマに投げ渡した。マキマは野生的な勢いでそれにかじりつく。
「使徒の残滓? ……ああ、最近どこもかしこも『使徒が倒された』なんて話で一杯であります! どこへ行ってもそんな英雄譚ばかりで食傷気味でありますよ! 誰が倒したかなんて興味ないでありますし、そんなの都市伝説だと思ってるであります!」
マキマは肉を飲み込むと、急に頬を赤らめ、乙女のような潤んだ瞳でカイエンを見つめた。
「そんなことはさておき……旅人の殿方。お一人で荒野を歩くのは危険であります。もしよろしければ、この後の旅、わたすと一晩共にしてみたいでありますな……ぐふふ」
その露骨で大胆な誘い文句に、カイエンは口に含んでいたコーヒーを盛大に吹き出した。
「ぶふぉっ……!? 何を言っている……」
「え? 違うのでありますか? 旅のお供として、夜通し兵器の構造について語り合いたいと言っただけでありますよ!」
「……もういい。とりあえず、次の街までだぞ。それ以上は一切聞き入れん」
カイエンは苦笑交じりに背を向け、歩き出した。マキマは「やったであります!」と喜び勇んで、ボサボサの髪を揺らしながらカイエンの背中を追いかけていった。
こうして、灰の監視員と元帝国の技術屋、奇妙な二人連れの旅が始まった。
元帝都守備隊所属:メカニックのマキマ
プロットの段階でこれでいいのか?と悩んだのですが、とても気に入ってるキャラです…今後の活躍に期待してください
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